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マッチングアプリで出会った相手と長続きしにくい理由

 あなたはマッチングアプリで良い相手に出会うために、いくつかの条件をつけるでしょう。仮にあなたが女性で「フッ軽」な異性愛者だとすれば、「身長が180cm以上」で「歯並びが良く」て自分と同じ「邦ロック好き」で「フェスに一緒に行けるような人」でかつ「プロフィール写真が上半身裸のまま鏡の前で自撮りをしているものではない」ような人、などの条件を書くのかもしれません。
 あなたがそうした条件を掲げる以上、マッチする人はそうした条件に合う人が多くなることでしょう。その上であなたは、恋人候補を絞り込んでいくことになります。何によって絞り込んでいくかといえば、それは自分が条件として指定しなかったものの、相手のプロフには書いてある好ましいことには変わりない条件です。例えばそれは、いい大学を出ているとか、大手企業に勤めているとか、顔が菅田将暉に似ているとか、そうしたプラスの条件を追加で考慮して、実際に交際まで発展しうるパートナーシップを決めていくのです。
 ここで、その相手は自分にとって好ましい属性の集まり(束)としてみなされています。「身長が180cm以上で、歯並びが良くて、……菅田将暉に似ている」という、これらの条件を満たす男性は正直言って稀でしょう。実際にそんな相手とマッチしたならば、あなたはやっと理想の相手に出会えたと喜ぶかもしれません。
 しかし、他人を属性の集まりと見なすことには落とし穴があります。それは、私たちは自分にとって好ましいと思うような条件の全てを羅列し尽くすことは出来ないうことです。また、根本的な誤りとしては、人というのは条件の束に還元できないものだということです。
 マッチングアプリに書くような相手に求める条件というのは、裏を返せばNG集です。それもかなり安易なNG集です。「身長180cm以上」を希望するということは、身長179cm以下はお断りと言っているに等しいのです。「歯並びが良い」ことを求めるのであれば、同時に、「歯並びの悪い」相手を排除しているのです。
 たとえ、一見あなたにとっての理想の相手を見つけたとしても、それでもなお相手がNGな存在である可能性はあるのです。どういうことかというと、仮に——急に展開が進みますが——その菅田将暉似と寝たとします。しばらくして、お互いが眠りに落ちて朝を迎えるまでのあいだ、あなたがふと何か奇妙な音がしたために目覚めてしまったとします。何が起こったかと思って耳を澄まし、スマホのLEDで周囲を確かめると、どうやらそれはあなたの隣で眠っている男が立てる、壮大な歯軋り音であることがわかった。あなたとしては、「歯軋りがうるさい人とそうでない人のどちらが好ましいか」という問いを突きつけられていたとすれば、歯軋り音の無い人を迷いなく選んでいたことでしょう。しかし、そうした潜在的な好ましくない条件というのは、いつどんな形で露呈するかはわからないものなのです。
 こうした好ましくない条件を相手に見つけてしまった以上、その彼はあなたの頭の中で「NOPE」されたに等しくなり、次会うことがあるかは、わからなくなってしまうのです。こうしたことによる幻滅は、相手を単なる属性の束と見なすことの不幸です。
 そもそも、人はふつう、誰かを好きになるとき、確固とした理由があるのではありません。よく言われる話ですが、カップルのうちのひとりが、「私のどこが好き?」と相手に聞いて、それに対して「優しくて、かわいくて……」と理由をいくつか挙げたところで、「優しくて、かわいくて……」というような条件を満たす人間はこの世に何人でもいることでしょう。にもかかわらず、特定の誰かを好きになってしまうのは、たとえ理由を100個挙げたとしても、その100の理由をもってしても言い尽くせないところにある「何か」があるからなのであり、「数え上げられるだけの理由」+「何か」という「全体」をもってして特定の誰かに夢中になれるのです。
 しかしながら、マッチングアプリにおけるような出会いでは、どうしても相手を記述(≒言語化)可能な属性の束と見てしまいます。これは、私たちの他者観が劣化しているのではなく、プロフの文言と写真を通してしか他人と初対面を迎えられないマッチングアプリの仕組み自体の問題によります。こうした出会いにおいては、まず他者が全体として現れることがないようになってしまっているのです。
 そしてその帰結として、私たちは常に少しでも良い属性の束を持つ誰か、つまり「上位互換」を探し続けるほかなくなくなってしまうのです。
 これが私の考える、マッチングアプリでの出会いが長続きしにくい、最大の理由と思うものです。




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