坂の上
意外に坂の多い街かもしれない。
車で移動しているときには気がつかなかった
高低差を
駆け上がる。
脚が持ち上がらない。
子どもの頃は
へっちゃらだったと思う。
「最近、走っているんだよ」
そう言ったら
父親は大丈夫なのかと言った。
母親はじっと私をみていた。
「ほら昔、家の周りを走らされたでしょう?」
私がそういうと
母親が僅かにうなづいたような気がした。
まだ元気なうちに
少しでも話せるうちに
そう思って孫を連れてきた。
みんなで一緒に写真を撮った。
あと何枚
こういう写真が撮れるかな。
「ほら、美人なお母さんが真ん中で」
昔、喧嘩ばかりしていた父親が
結婚前みたいに
優しくなっていた。
「またきてね」
母親の言葉に
私は大きく首を縦に振って
彼女の肩を撫でた。
肩が骨張っていた。
坂の上に登り切るまで
そういうことを次々と思い出していた。
全ては大きな力に委ねるしかない。
それでも出来ることはある。
また一緒に
写真を撮りに
戻ってくるよ。
お母さん。
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