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《大学入学共通テスト倫理》のための日蓮

大学共通テストの倫理科目のために歴史的偉人・宗教家・学者を一人ずつ簡単にまとめています。日蓮(1222~1282)。キーワード:「日蓮宗」「法華経」「南無妙法蓮華経」「二乗作仏」「久遠実成(くおんじっしょう)の仏」「法華経の行者」主著『立正安国論』『開目抄』

これが日蓮

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荒海に向かって、日蓮が題目を空書してしずめている伝説を描いたものです。

📝日蓮は、日本史上もっとも強い「個」の持ち主です!

我日本の柱とならむ、我日本の眼目とならむ、我日本の大船とならむ等とちかいし願、やぶるべからず。(日蓮『ビギナーズ日本の思想 日蓮「立正安国論」「開目抄」』(小松邦彰編、角川ソフィア文庫)から引用、ただしルビを略し、現代語訳は訳文を作る参考とした)

「私は日本の柱となろう、私は日本の中心となろう、私は日本人たちを救助する大船となろう等誓った誓願は決して破らない」が拙訳。『開目抄』に書かれた、これが日蓮の三大誓願。この、日本をたった一人で背負うことを意志する強烈な「個」の自負に驚きます。こんな日本人がいたのかという感じ。

📝日本の「大船」になろうと誓った日蓮は、漁村の生まれです!

日蓮は(略)海人が子也。(『日蓮 日本思想体系』(岩波書店)から引用、ただしルビを略した。)

「日蓮は(略)漁民の子である」が拙訳。「本尊問答抄」という教えを説いた小文からの引用です。別の文章で、自分は身分制差別で最下層だと書いていますが、比較的裕福な網元の子だったと解釈されることが多いです。

📝日蓮は、生まれを問わない仏教を得た感動をこう述べます!

日蓮は諸経の勝劣をしること、華厳の澄観・三輪の嘉祥・法相の慈恩・真言の弘法にすぐれたり。(略)当世日本国に第一に富者日蓮なるべし。(日蓮『ビギナーズ日本の思想 日蓮「立正安国論」「開目抄」』(小松邦彰編、角川ソフィア文庫)から引用、ただしルビを略し、現代語訳は訳文を作る参考とした)

「私日蓮は諸経の優劣を知ることにおいて、華厳宗の澄観・三輪宗の嘉祥・法相宗の慈恩・真言宗の弘法よりすぐれています。いま日本で第一に(真理を知ることの)富者なのは日蓮であるでしょう。」が拙訳。生まれも育ちも関係ない、いまの自分が何であるかが大事なのだという「個」の自覚と、その自覚の支えとなるものを得た喜びとが感じられます。

📝その日蓮にとって、仏教の真理は「南無妙法蓮華経」です!

日蓮一人が、はじめ南無妙法蓮華経と唱えたが、二人・三人・百人と次第に唱え伝えてきたのである。未来もまたこれと同じであろう。(略)ともかくも法華経に名をたて身をまかせられるがよい。

日蓮一人はじめは南無妙法蓮華経と唱へしが、二人三人百人と次第に唱へつたふるなり。未来もまたしかるべし。(略)ともかくも法華経に名をたて身をまかせ給ふべし。
(『日本の名著 日蓮』(紀野一義責任編集・訳、中央公論社)から引用/『日蓮聖人全集 第四巻』(春秋社)から引用)

これが日蓮の「南無妙法蓮華経」。「帰依する」を意味する「南無」に、「法華経」の正式名称である「妙法蓮華経」を合わせたものを日蓮は「題目」と呼びます。これを唱えることで法華経に身をまかせ、そのことが行となるそうです。引用は「諸法実相鈔」から。

ここでちょっと一休み

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日蓮の名にちなんで蓮(ハス)の花の画像です。どろの中で清らかに咲く蓮。その字は日蓮が最高の経典と捉えた「法華経(妙法蓮華経)」の中に含まれています。

📝日蓮が『法華経』を最高の経典と信じた理由は?

二乗も仏になることができると(ブッダは)説かれた

二乗作仏すべしと仏陀とかせ給はん
(日蓮『ビギナーズ日本の思想 日蓮「立正安国論」「開目抄」』(小松邦彰編、角川ソフィア文庫)から引用、ただしルビを略し、現代語訳にはパーレンで語句を足した)

これが日蓮が重んじた法華経の「二乗作仏(にじょうさくぶつ)」。民衆を導かない個人の修行者を「二乗」と呼び、他の経典は彼らは成仏できないと言ったりするものもあるそうです。日蓮は「二乗作仏」を説いた『法華経』を信じます。ここには「求めたものは必ず得られる」という人間の意志の肯定が感じられます。

「二乗作仏」と「久遠実成」の二大教義は、釈尊一代五十年の説法の根幹であり、一切の経典の中枢であります。

此等の二つの大法は一代の網骨・一切経の心髄なり。
(日蓮『ビギナーズ日本の思想 日蓮「立正安国論」「開目抄」』(小松邦彰編、角川ソフィア文庫)から引用、ただしルビを略した)

これが日蓮が重んじた「二乗作仏」+「久遠実成(くおんじっしょう)」。ブッダは現世に生まれる以前の永遠の昔に悟りを開き、世界に生まれて教えを説いたというもの。現実のブッダは、悟りを得ることの道程にあったという考え方にポイントが置かれている気がします。

📝さらに、日蓮が「二乗作仏」「久遠実成」を重んじた理由とは?

『法華経』にも、「われらのごとく異なることなからしめん」と説かれている。法華経の教えをすっかり理解する者は、釈迦と同じであるという文である。

経に云はく、「〔我と等しくして異なること無きがごとし」等云云。法華経を心得る者は釈尊と斉等なりと申す文なり。
(『日本の名著 日蓮』(紀野一義責任編集・訳、中央公論社)から引用/『日蓮聖人全集 第七巻』(春秋社)から引用)

理解しようと意志すれば、全てのものがブッダと同じになれる。人間は可能性において平等なのだという考えを感じます。これは「日妙聖人御書」から。

小乗経の「十万世界には釈尊一仏のみあり」とする小さな世界観を打ち破る

小乗経の十方世界唯有一仏ととかせ給しをもひをやぶる
(日蓮『ビギナーズ日本の思想 日蓮「立正安国論」「開目抄」』(小松邦彰編、角川ソフィア文庫)から引用、ただしルビを略した)

これは『開目抄』の中で「法華経」以前の経典の意義を考察した箇所。成仏にあっては、ブッダさえも特別でなく万人が平等なのだという日蓮自身の志向をうかがわせます。日蓮は、人が真剣に求めれば誰でもホトケになれる。そんな考えに立っていたように思います(それが他でもない『法華経』一経を信じさせた理由でしょう)。そんな万人に平等な意志の幸福を大肯定した点で、中世ばなれした人物です。

📝万人の幸福を『法華経』に見た日蓮は、激しすぎる布教をしました!

世はみな正しい教えに背き、人々はすべて悪法に染まっている。

世皆正に背き人悉く悪に帰す。
(『日蓮「立正安国論」』(全訳註佐藤弘夫、講談社学術文庫)から引用)

これが日蓮の『立正安国論』。『立正安国論』は「正しい教えで国が安泰になる論」という程度の意味で、法華経を政府や国民で信じない限り、内乱や外国の侵略が起きると警鐘を鳴らした書物です。その後じっさいに蒙古襲来が起きて、日蓮は予言者としての顔を持ちます。ともかく、他宗を「悪法」と断定した布教のスタイルを、日蓮は生涯崩すことはありませんでした。

📝そんなスタイルを「折伏」と呼びます!

折伏(しゃくぶく、しゃくふく)は(略)相手の間違った思想に迎合することなく、正しいものは正しいと言い切り、相手と対話を通じて日蓮の仏法を伝えること。(フリー百科事典「ウィキペディア」、折伏のページから引用)

これが日蓮の「折伏」。このスタイルのせいで日蓮は何度も生命の危機に見舞われます。それは「四大法難」と呼ばれるほどうち続くもので、①他宗の信者が草庵に押し寄せて火を放った。②流罪が言い渡されて水没する岩に置き去りにされた。③数百人の他宗の信者に襲われる。④また流罪が言い渡され斬首させられそうになる。という内容になります。生きているのが不思議なくらいの逆風に見舞われています。

📝布教の逆風は、逆に「法華経の行者」としての自覚を強めました!

「大日経・華厳経・涅槃経・般若経などよりも法華経は勝れている」と申す者をこそ、経文には法華経の行者と説かれているのである。

大日経・華厳経・涅槃経・般若経等に法華経はすぐれて候なりと申す者をこそ、経文には法華経の行者ととかれて候へ。
(『日本の名著 日蓮』(紀野一義責任編集・訳、中央公論社)から引用/『日蓮聖人全集 第一巻』(春秋社)から引用)

これが日蓮の「法華経の行者」。法華経を広める修行者は苦難や災難に遭うというもの。この宗教的受難者としての自覚が、ますます攻撃的な説法をすることになります。引用は「撰時抄」から。

📝とはいえ、ときどき、天の加護がないことに疑問を感じます!

但世間の疑いといゐ、自心の疑と申し、いかでか天扶給はざるらん。(日蓮『ビギナーズ日本の思想 日蓮「立正安国論」「開目抄」』(小松邦彰編、角川ソフィア文庫)から引用、ただしルビを略し、現代語訳は訳文を作る参考とした)

「それにしても世間も疑うし、自分の心でも疑問であるのは、どうして天が助けて下さらないのだろうか」が拙訳。「法華経の行者」は繰り返し法難に遭い、天の加護で助けられるという。しかし、自分はどうもそのように助けられていないようだと疑問に感じています。

📝そして、そんな弱気をふり払うこの発想が日蓮の真骨頂です!

詮ずるところは天もすて給え、諸難にもあえ、身命を期とせん。(日蓮『ビギナーズ日本の思想 日蓮「立正安国論」「開目抄」』(小松邦彰編、角川ソフィア文庫)から引用、ただしルビを略し、現代語訳は訳文を作る参考とした)

「つまるところ、天も見捨てなさい、諸難にも遭いなさい、この身命の限りを尽くしましょう」が拙訳。天地の全てにはばかることなく、何にもすがることなく己の道を進んでいく日蓮は、人間の意志の強さというものに目を開かせてくれる人物でしょう(ただし、ちょっと争いすぎです)。

あとは小ネタを!

明治から昭和を生きた日本のキリスト教思想家で、明治大正の若者たちに絶大な影響を与えた内村鑑三は、『代表的日本人』という書物で偉大な日本人の1人に日蓮を選んだ。日蓮のはげしすぎる戦闘性をひくと「理想的宗教家」であると述べている。

日蓮は『開目抄』で、鎌倉初期の達磨宗の開祖大日房能忍が「教外別伝(きょうげべつでん➡︎悟りは言葉によらず伝えるもの)」の考えを広めたと書いている。日蓮の文章は他宗を批判しているが、その一方で、当時の仏教をありありとイメージさせてくれる。こんな風に、他宗をリアルに伝え、『法華経』への思考も充実した『開目抄』が、私は『立正安国論』より好きです。


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