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《大学入学共通テスト倫理》のためのクルト・レヴィン

大学入学共通テストの倫理科目のために歴史的偉人・宗教家・学者などを一人ずつ簡単にまとめています。クルト・レヴィン(1890~1947)。キーワード:「マージナル=マン(境界人・周辺人)」主著『社会科学における場の理論』『社会的葛藤の解決』

📝倫理でレヴィンは専ら「マージナル=マン」です!

二つの集団間の境界上に立ちどまり、両方の集団に関係していながら実はどちらにも所属していないというような位置(『社会的葛藤の解決 ―グループ・ダイナミックス論文集』(K・レヴィン著、末永俊郎訳、東京創元新社)p240から引用、ただし「(「高みの見物」)」という語句を略した)

「マージナル=マン(境界人、周辺人)」とは2つ(複数)の社会集団や文化の周辺の境界線上に位置し、そのいずれにも属さない人のこと。センター倫理では、青年期のあり方を形容した語句としてこの言葉が用いられています。大人と子どもとのマージナル(境界)ってわけでしょう! これは「ユダヤの児童の養育」から。

📝「マージナル=マン」の最初の使用はレヴィンでないです!

青年は最早や子供の集団に属することを欲しないが, しかし未だ実際には彼が成人の集団に受けいれられていないことを知つている. この場合彼は社会学の所謂"境界人"(marginal man)に類似した位置を持つている.(『社会科学における場の理論』(レヴィン著、猪俣佐登留訳、誠信書房)p142-143から引用)

という感じで、レヴィン本人にも(「社会学者の所謂(社会学者の言うところの)」)、社会学者の使った用語というイメージがあります。シカゴ学派の社会学者ロバート・E・パークが用いたのが最初で、その「人間の移住とマージナル・マン」は邦訳(『実験室としての都市』(町村敬志・好井裕明編訳、御茶の水書房))で読めます!

📝レヴィンは「マージナル=マン」をかなり印象的に用いています!

青年は成人と子供との"間"の社会的位置をもち, 特権の少ない少数集団の境界的成員に類似している.(『社会科学における場の理論』(レヴィン著、猪俣佐登留訳、誠信書房)p144から引用)

この「特権の少ない少数集団」には本来集団がカバーしてくれそうなものも個人が負わなければならない重圧を帯びたイメージがあります!

ほんとうの危険は、しっかりと足を踏まえる「場所がない」こと――「境界人」であり、また「永遠の青年」であるということにある(『社会的葛藤の解決 ―グループ・ダイナミックス論文集』(K・レヴィン著、末永俊郎訳、東京創元新社)p247から引用)

こんな風に「境界人」であることの深いありようを強く描いています。こちらの「ユダヤの児童の養育」という論文は、レヴィンも自身をそこに含めた現代ユダヤ人についての論評です!

📝レヴィン=「マージナル=マン」は青年心理学にとっても大切です!

アメリカで, ホールやゲゼルらの発達心理学的方面からの研究とは趣きを異にした文化人類学の観点よりの青年研究の書が, ミードにより1928年『サモアにおける青年期』と題して出版された。(略)また, レヴィンによって, 社会心理学的な観点から青年期の特質が述べられた(1951)。(『現代青年心理学』(鈴木康平・松田惺編、有斐閣ブックス)p5-6から引用)

これは青年期を研究する青年心理学の概説書の引用です。この引用の箇所を読むと、スタンレー・ホールの『青年期』(1904)を皮切りにして、人間の青年期がさまざまな偉い学者によってあらゆる方面から研究がなされたという「青年心理学」の一角にレヴィンがいるという(または彼の1951年の『社会科学における場の理論』があるという)位置づけが印象されます。よく考えたら倫理の教科書で「マージナル=マン」は「青年期と自己の課題」の項目に出るので、(日本の)「青年心理学」のアングルを踏襲するのはきわめて自然です!!

青年期(Adolescence)とは

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青年心理学の研究を読むと、青年期は人生の一時期であると同時に人間の存在そのものが凝縮された時期という印象を抱きます。高校で『倫理』を学ぶものたちがそのさ中にいるという意味も含めて、倫理にとってとても大切な概念と言えるでしょう!

📝最後に、レヴィンの心理学への偉大な功績をごく簡単に触れます!

彼は社会・実験心理学者として, その考えを人間とその心理的環境である"生活空間(life space)"へ拡大して解釈した. さらに, ダイナミックな力動的な場のなかでは, すべての事実が互いに依存し合っているという(略)概念から, 場の理論(field theory)へと発展させた. (略)理論を検証するためにLewinは, 集団の行動変容に関する実験の研究方法を開発することに専念し, アクション・リサーチ(action research)の術語と研究を世に出したことで知られる。(「Kurt Lewin(クルト・レヴィン)の変化理論と看護実践への適用」(峰岸秀子、千崎美登子著)、『がん看護』通号52p257より引用)

レヴィンの功績は、心理学の分析対象を一個の心だけでなく外部の空間へとおし広げていったこと、そして、実際の集団の向上に研究を用いようとしたことだとまとめていいかもしれません。こんな具体的な生きる心理学を構想したドイツの心理学者(アメリカに移住)は心理学の偉大なる先達の1人です!

あとは小ネタを!

「個人にとって集団への所属性が疑わしくなり、明瞭さを失うような場合がある。例えば、人ごみの中へ入っていく人は一瞬自らがそれに所属しているのかどうか疑う。」

↪『社会的葛藤の解決 ―グループ・ダイナミックス論文集』(K・レヴィン著、末永俊郎訳、東京創元新社)p192から引用しました。

「マージナル=マン」(境界人)の心理学者クルト・レヴィン。学生時代に彼は「象徴とは何か」を考究した哲学者エルンスト・カッシーラーの講義を受ける。そこでせまい領域に限定しない人間研究のあり方を学んだそうである。

↪『Kurt Lewin-その生涯と業績』(A・J・マロー著、望月衛・宇津木保訳、誠信書房)の第1章から引用したエピソードです。

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