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彼女のお内裏様

中学校の頃、美術部だった。たいした活動はしていなかったが、割と毎日2つある美術室のうち、第二美術室と呼ばれる広い部室で友人2人とゲラゲラ笑って過ごしていた。その頃の思い出の1つは過去の記事をご覧いただきたい。

大して活動はしてなかったが、10数年経った今でも忘れられない出来事が1つある。友人の描いた絵だ。

私と友人2人の3人で喋って過ごす放課後。私と友人Aは漫画が好きだったりイラストを書くのが好きだったが、もう1人の友人Mは我々がいるからという理由だけで美術部に入った。美術部に入ったものの絵は下手くそだった。ついでに言うと字も下手くそだった。私もキレイな字ではないが、彼女の字はほぼ暗号だった。付き合いが長くなり解読できるようになった時には、Aや塾の先生に褒められたくらいには暗号だった。

それはさておき、ある冬の日。その日も広い第2美術室は私たち3人だけだった。大きなストーブに近い広い机を陣取り、その日は確か、お互いにキャラクターや人物などを言い合ってイラストを描きあっていた。

絵を描くのが苦手なMも珍しく自分から何かを描いていた。ほどなくして何かが完成した。
Mが手にしていた紙をAと私がのぞくと、幼稚園児が描いたようなタッチでお雛様とお内裏様が描かれていた。お内裏様には青ひげがあしらわれていた。ふさふさの髭ではなく、髭が濃い男の人が剃ってから時間が経ったときに口許が青くなってくるような完全な青ひげだ。ポツポツと黒い点も描かれていた。

あまりの絵のインパクトに私とAは涙を流して笑った。きちんと手には笏が持たされているし、着物もしっかりと描かれている。しかし全てを台無しにする青ひげ。なぜヒゲを描いた。なぜ青く塗った。私とAはどういう気持ちでこのイラストを描いたのかを聞きまくった。絵が下手だとかそういうことではなく、その絵をあまりの破壊力に我々はそのイラストを爆発物と呼び敬った。最終的にMも自分が描いた絵で涙を流して笑っていた。恐るべき破壊力だ。

その後10数年が経つが、私は絵を見てあんなに笑ったことはない。何故あの貴重な絵を保管しておかなかったのか。今となってはどうしようもないことだが、心から悔やまれて仕方ない。

先日、MからAと私とMの三人のグループラインに、小学生の娘のイラストが上手いと写真が送られてきた。鉛筆で描かれた人気漫画のキャラクターはとても上手だった。ふとお内裏様のことを思い出した私は、お内裏様を保管していないことを悔やんでいる旨を伝えた。Mは「どんなだったか覚えてないが、人生でベスト3に入るくらい笑ったことは覚えてる」と返事が来た。どんなだったって青ひげのお内裏様でしたよ。暫くして会話に参加してきたAは「笑った記憶を思い出して幸せな気持ちになった」と言ってきた。なんてことだ。

10数年前の笑った記憶で今だに楽しめる我々は幸せである。二人はどんな絵だったかの記憶が薄れているようなので、折に触れて青ひげのお内裏様だったことをリマインドしていこうと思う。

私はあのお内裏様さえあれば世界平和も夢じゃなかったと思う。いや、雛人形の概念がない海外は難しいかもしれない。しかし、日本平和くらいはいけたんじゃないだろうか。消費税だって5%のままだったかもしれない。本当に保管していなかったことが悔やまれて仕方ない。

ヘッダーのお内裏様は私が思い出しながら今しがた描いたものだ。どうにも本物のような爆発力がない。つくづく残念だ。

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