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語学書の著者のコラム

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ベレ出版語学書の著者による、本を書くこと以外のお仕事の話、教えること、ことばにまつわること、言語について。
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2022年7月の記事一覧

格言で学ぶラテン語#4

今日の花を摘み取れ。 Carpe diem. カルペ・ディエム   ホラーティウス、『詩集』(Carm.1.11) 山下太郎  日本でもよく知られたラテン語で、「カルペ・ディエム」とカタカナ表記されたり、「一期一会」と訳されることもあります。元々は恋愛をモチーフとしたホラーティウスの詩に出てくる言葉です。短い詩なのでその内容を訳で紹介しましょう。  この詩を貫くのは「今を楽しめ」というモチーフで、「カルペ・ディエム」もその文脈で理解することができます。ラテン語の直訳は「

格言で学ぶラテン語#3

私は人間である。 Homo sum.  ホモー・スム   テレンティウス 『自虐者』 山下太郎  ローマの喜劇作家テレンティウスの作品に出てくる台詞です。お節介な隣人がとことん他人の世話を焼き、なぜそこまで首を突っ込むのか?という問われて、「ホモー・スム」(私は人間である)と答えます。「人間に関わることで自分に無関係なものは何一つない」(Hūmānī nīl ā mē aliēnum putō.)という言葉がこれに続きます。私は人間だから他人の悩みごとや苦しみを放っておけ

格言で学ぶラテン語#2

時は逃げる。 Hora fugit.   ホーラ・フギト 山下太郎  ありふれた言葉を二つ並べただけのことわざですが、時の過ぎ行く速さを強く印象づける言葉です。主語のhōraは英語のhour(時間)の語源ですが、類義語に tempus があり(フランス語のtempsの語源)、表題と同じ意味を表す格言として Tempus fugit.も知られます。  ローマの詩人ウェルギリウスの『農耕詩』に次の表現があります(3.284-285)。  詩の本題からそれた話題を熱心に語る

格言で学ぶラテン語#1

われ思うゆえにわれあり。 Cogito ergo sum. コーギトー・エルゴー・スム 山下太郎  ラテン語の直訳は「私は考える。ゆえに私は存在する。」となりますが、「我思う、ゆえに我あり」という和訳で人口に膾炙しています。フランスの哲学者デカルトの言葉として知られます。少し調べると、デカルト自身がこのラテン語を残したわけではない、ということがわかりますが、彼の思想の根幹を端的に表す言葉とみなすことはできるでしょう。  Cōgitō ergō sum.の英訳はI thin