マガジンのカバー画像

語学書の著者のコラム

176
ベレ出版語学書の著者による、本を書くこと以外のお仕事の話、教えること、ことばにまつわること、言語について。
運営しているクリエイター

2020年11月の記事一覧

映画字幕の舞台裏はこんなに楽しい!

吉田 泉(仏文学者) 最終回 フランス映画とは?みなさんはフランス映画に対してどんなイメージを持っていますか? ロマンス、ファッション、エレガンス? 確かにそういう要素も大いにありますが、私にとっては、フランス映画はなんといってもリアリズムです。つまり、現実らしくないものは映画ではない、とフランス映画は暗に言っていると思います。私が字幕を手がけた往年の名画『巴里の空の下セーヌは流れる』『死刑台のエレベーター』『太陽がいっぱい』『過去を持つ愛情』『情婦マノン』『ヘッドライト

映画字幕の舞台裏はこんなに楽しい!

吉田 泉(仏文学者) 第3回 歌詞を変えて歌う?古い話で恐縮ですが、かつて歌手の山口百恵さんが彼女の大ヒット曲「プレイバックPart2」をNHKで歌うときは、その歌詞の中で本来「真っ赤なポルシェ」となっているところを「真っ赤なクルマ」と変えて歌っていました。それを初めて聞いた時、当時の多くのファンは仰天したのではないでしょうか。 私は逆に、にんまりしてしまいました。ああ、やっぱりここにも同じ苦労があるんだなと。つまりNHKでは商品名は放送法によって使ってはならないと定め

映画字幕の舞台裏はこんなに楽しい!

吉田 泉(仏文学者) 第2回 秒数で決まる字幕の文字数「映画の字幕って、だいたいどれも瞬間的なのに、なぜ読み切れるんだろう」って思ったことはありませんか? そのはずです。すべての発話は秒数が計られているからです。その秒数に応じて訳語の文字数を決めます。 今回はこういった、字幕制作の現場を少し詳しくお話ししたいと思います。 NHKでは原則、1秒につき、2文字~3文字は読めると決められています。つまり登場人物が3秒間発話していたら、6文字~9文字の日本語がその字幕に使える

映画字幕の舞台裏はこんなに楽しい!

吉田 泉 (仏文学者) 第1回 映画と私みなさんは映画が好きですか? 好きだと嬉しいです。私は中学のころから大好きでした。外国映画でした。田舎の一少年は映画を通じて外国を夢想し、理想のかなたとして憧れ、田舎を抜け出してそこに行けることを生きがいとしていました。直接には、確か土曜日に放映していたNHKテレビの「劇映画」という番組だったと思います。その当時は「オリバー・ツイスト」や「逢いびき」(中学生には早すぎる?)など主に渋いイギリス映画だったかもしれません。 学校から遠