今のままでは「VALORANT」はE-SPORTSとしては片手落ちだ

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 ※見出し1「VALORANTの現状」は現状の説明ですので、読み飛ばしてもらっても構いません。

VALORANTの現状

 皆さんは「VALORANT(ヴァロラント)」というFPSゲームをご存じだろうか。

 RIOT GAMESというゲーム会社よりリリースされた、基本無料FPSゲームである。日本版の正式サービス開始は2020年6月2日。記事作成時点(8/1)でリリースより2か月経っていない、出来立てほやほやのオンラインゲームだ。

 このゲーム、正式リリース前のベータテスト段階、もっと言うとリリース発表直後より大きな期待を集めたタイトルであった。チーター(不正プログラム使用者)の徹底的な検知と排除、各プレイヤーの通信環境差による理不尽なゲーム結果を極力排除するためのシステム作り、それらに大きな力を注ぐと運営側が大々的にアピールしていたからである。

 撃ち負けた時の言い訳を「チーターが」「糞ラグ野郎が」「今日調子悪いわ」以外に持たないのがFPSプレイヤーの常だが、裏を返せばそれだけ従来のオンラインシューティングゲームは応答速度の芳しくないもの・不正プログラム使用者が跳梁跋扈していた。

 VALORANTはそれらの懸念を排除すると宣言したのである。FPS界隈が色めき立つのも無理はなかった。

 そして2か月弱が経った現在。記事作成主の主観ではあるが、不正プログラムが疑われるような挙動をするプレイヤーにあたる事もほぼなく、通信環境を考慮したマッチングが機能しているという実感もある。ゲーム自体の完成度も非常に高く、無料で遊べるというのははっきり言って驚きの一言だ。

 Twitter等でも試合中のキルクリップ(上手に敵を倒したシーンを編集してPV風にした動画)投稿が次第に盛んになってきており、7月に導入されたコンペティティブ(ランクマッチ)もアマチュアプレイヤー界隈の盛り上がりに寄与している。

 総じて、この2か月VALORANTは上り調子であったと言えるだろう。

「競技」としてのVALORANTと、「興行」としてのVALORANTの魅力の違い

 既にこのゲームはE-SPORTS(個人的にこの呼称は好きではないが、便宜上用いる)タイトルとして、その競技性を見込まれ大小さまざまな大会が催されるに至っている。

 大きいもので言えば「UTAGE VALORANT」「RAGE VALORANT JAPAN TOURNAMENT」などが挙げられるだろうか。

 大手のプロチームもこれら大会を見据えてVALORANT部門を次々立ち上げており、競技シーンはすでに十分形成されていると言って差し支えない。

 今後、VALORANTはその高いクオリティと競技性をもって、E-SPORTS界の寵児の座を欲しいままにする―――――。

 今までの事実を客観的に見れば当然導き出されるこの予想を、しかし、私はどうしても支持することができない

 このゲームはその高い完成度と競技性故、E-SPORTSとして成功しないのではないか。私はそう考えている。

 それは何故か。

 そこには、昨今隆盛してきたE-SPORTSシーンの傾向と、観客に見せる商品である「興行としてのE-SPORTS」の側面が関わってくる。

 結論からはっきり言ってしまおう。

 VALORANTは「競技としては90点のゲーム」だが、「興行としては良くて50点」のゲームだ。

 この点差は何故なのか。それを説明するにはまず、VALORANTというゲームのルールを概観する必要がある(既知の方は読み飛ばしてもらってかまわない)。

5対5で戦うチーム戦。アタッカーとディフェンダーに分かれ、勝利条件を達成したチームが勝利となる。各陣営による勝利条件は下記の通り。いずれかの条件を満たせば勝利だ。
 
 アタッカー
・敵を全滅させる
・スパイクを設置ポイントに設置して起動させる
 
 ディフェンダー
・敵を全滅させる
・設置されたスパイクを解除する
・スパイクを設置させずに制限時間生き残る

1ラウンドはふたつのフェーズによって構成されていて、ひとつは「購入フェーズ」。もうひとつが「バトルフェイズ」となっている。
購入フェーズ(30秒)

バトルフェーズ(1分40秒)
このふたつのフェーズが終了すれば次のラウンドへと進み、同じようにふたつのフェーズを繰り返していく。

勝利条件を満たせば1ラウンド先取となり、先に13ラウンドを先取した方が勝ちとなる。なお、11ラウンドが経過すると攻守交代となり、12ラウンド目からはアタッカー側はディフェンダーに、ディフェンダー側はアタッカーへと陣営が変更される。

【VALORANT攻略】初心者必見「メインモード「アンレート」の 基本ルールを学ぼう」https://esports-world.jp/column/5572

 要するに、攻撃側5人はスパイク(爆弾)を設置して守り切り爆発させれば勝ち。

 防衛側5人はスパイク(爆弾)の爆発を阻止すれば勝ち。

 その最終目的を達成するために銃撃戦が発生し、様々な戦略が考案されていくのである。

 このゲームルール自体はVALORANTが初というわけではなく、「5対5爆破」といった名称で20年以上オンラインシューターに存在する伝統的な形式である。

 この、「伝統的」といった部分が、実は曲者なのである。

 このVALORANTというゲーム、リリースから2か月にも関わらず既に「抜群に上手いチーム・上手い選手」というのが出てきている。あまりに早いその登場スピードの裏には、「旧来の伝統的な5対5爆破で培ったノウハウを適用している」という事情がある。別のゲームで5対5爆破に慣れ親しんだプレイヤーが、「VALORANTにも適用できる部分」を存分に適用し、力の差としているのである。

 「適用すること」自体は全く問題ではない。積み重ねてきた経験は生かすべきだ。しかし、このゲーム、上位帯になればなるほど「力の差」が覆しがたくなっている。

 これはVALOTRANTが戦略性の高いゲームである故だ。積んだ経験とプレイヤースキルがゲーム内での一挙手一投足を洗練させ、隙を無くさせていく。上手い者ほど行動にムラとミスが無くなっていく。相手側からすれば「付け入る隙」が無くなっていくのが、このゲームにおける「上達」なのである。

 最終的に、トップ層同士の対戦は「特殊部隊VS特殊部隊」のような様相を呈する。倒した・倒されたは常に一瞬で決まり、その積み重ねでラウンドの勝敗が決まっていく。冷静さを保ったプレイヤーが一瞬で状況判断を済ませ、よどみなく次の行動を決定しキーを入力する。

 その流れの中で戦況の掌握できる部分を掌握し流れをつかみ、劣勢の側は僅かな隙とも呼べない間隙を突いて再度流れを変える。

 文字に起こせば魅力的に見えるかもしれない。だが、プレイした者ならば理解してもらえると思うが、このような針の穴を通す試合はとてつもなく地味に見える

 そしてそれ以前に、VALORANTではこんな拮抗した試合が日本の競技シーンで起こる事自体が少ないのが現状だ

 先述したが、このゲームは高度に戦略的でありミクロの技術でもマクロの戦術でも練度が物を言うため、実力差が覆しがたい。

 通常のマッチングでは「レートマッチングシステム」という、大体同じような実力の10人を集めて試合を組むプログラムによってワンサイドゲームを防いでいるが、参加申請なり招待なりでチームが揃う競技大会では、当然ながらその配慮が不可能なため、ワンサイドゲームを防ぐ手段はない。

 結果、「13-0でストレート決着」といったような試合結果が頻発してしまっている。

典型的な例が2020年6月20日・21日に行われた「RAGE VALORANT JAPAN INVITATIONAL」で優勝したプロゲーミングチーム「JUPITER」の結果だ。

第1回戦       対 AVALON Gaming   13-1でJUPITER勝利

第2回戦       対 SunSister Rapid   13-0でJUPITER勝利

準決勝            対 野良連合        13-1でJUPITER勝利

決勝第一試合    対 Lag Gaming              13-8でJUPITER勝利

決勝第二試合    同上          13-6でJUPITER勝利

 最終的に見れば、JUPITERは決勝以外ではほぼストレート勝ち。勿論このチームの強さが異次元級であるという見方もできるだろうが、これだけのスコア差が付くのは「ゲームの構造自体が実力差を厳然たるものにしている」と言えるのではないだろうか。

 ワンサイドゲームの発生自体は善悪を問えるような性質のものではない。単なる結果だ。「E-SPORTSだし、そういうこともある」と言える。

 ただし、興行としては魅力に欠ける試合結果であることは確かだ

 負けた側のサポーターはもちろん、勝った側も正直な所反応に困るだろう。「勝ててよかった!」というのもストレート勝ちでは空虚に聞こえるし、「楽勝だったね」というのも角が立つ。それ以上に、ワンサイドゲームだと試合中も大きな見せ場が少ないことが多い。地力の差で勝っているから、どうしても地味になりがちなのだ。

 しかし、真剣な競技である以上ワンサイドゲームをしないようにと言う事も出来ない。

 「実力の差が如実に出るゲーム性」と、「戦略的な要素が大きく、練度の違いが勝ちにつながるがゆえに大番狂わせが起きにくい伝統的なルール」が合わさると、「下馬評通りのチームが優勝したね」という話になりやすい。

 ガチガチの本命馬が勝った競馬レースは話題にはならない。競技において興奮と熱狂が生まれるのは往々にしてジャイアントキリング、「大穴で万馬券が出た」時である。

 VALORANTは「努力と経験が力になる」という高い競技性の裏返しとして、「予想外の展開による話題性」という、興行としての大きな魅力の一部を欠いている。

 仕方のない事ではあるが。

「楽しむために知識が要る」というハードル

 上段にて「興行としてのE-SPORTS」という視点を挙げた。

 E-SPORTS界隈は今現在スポンサー企業からの協賛と広告収入を主な収益源としている。スポンサー企業がE-SPORTS主催者やチームに付くためには「話題性」や「集客力」が必要になる。

 早い話が、ゲームの世界で金を稼ぐには観客の数が多くなければならない。観客数の下地があって、企業が目をつけ広告塔としての存在価値を認めてスポンサードする。その金でE-SPORTS業界は発展する。

 この経路は何もゲームに限った話ではなく、野球もサッカーも仕組みは一緒であろう。

 では翻ってVALORANTだ。このゲーム自体の「集客力」はどんなものだろう?

 まず、先述のワンサイドゲームが発生しやすいという要素を抜きにしても、このゲーム、観客として楽しむためには最低限以下の知識が必要になる。

・場所、動きに関するFPS、5対5爆破界隈の専門用語の意味

・セットプレー(ラウンド開始時の動き)の意味

・チームのフォーメーションの意味(何を目的に動いているのか)

・マップ理解

 簡単な試合展開の例を挙げよう。

「アセントCT側ボトムと小部屋前にオーメンのセットモク、Bサイト壁にリコンボルト、Aメインでウルトオーブ取得音、対してCTオーメンがミッド中空にモク展開、ボトム門上にシュラウドステップし中央トップでピークした敵セージをアウプで抜きワンピックを取った」

 意味不明である。これが大体ラウンド開始から10秒で同時発生する。

 しかしこれが解っていないと、「なんか試合始まったばっかで実況がテンション上がってひとり死んだっぽいけどどういう事?配信じゃ薄橙色の半球しか見えないんだけど」としか思えない。

 しかもこれは簡単な例である。他にも、

「Bサイトに最初攻撃側が寄っていたのに、中盤でいきなり全員Aサイト側に大移動を始めた」

「試合開始時いきなり1人が空に向かって矢を撃ちだした」

「撃ちあうゲームなのにナイフ持ってぴょんぴょんしてる」

「壁を撃ったら相手が死んだ」

 という傍から見ると不可解な行動がこのゲームでは頻発する。

 上で4つ箇条書きにした要素の知識を頭に入れれば、これら不可解な行動はすべて腑に落ちてすんなりとゲームを楽しめる。

 むしろ、VALORANTをプレイしている人間からすれば遊ぶ中で自然と身に付く知識ですらある。

 だが、正直な話それを「観る者」である観客に求めるのはかなりハードルが高い。不文律的な要素が多すぎて、「見ているだけではなかなかわからない」のだ。

 もっと深い次元になると、チームごとの各人の役割(スナイパーライフルを主に持って遠距離から敵を倒す人・最初に敵陣に突っ込む役割の人、等々……)まで頭に入れて試合を見ることになる。

 「ただ楽しみたい」観客にも「勉強」を求める(※楽しんでもらうためには求めざるを得ない)のがVALORANTなのである。

 こんなハードルの高いゲーム、はっきり言って「集客力」は数多のゲームの中でも最低ランクである。「本腰入れて知識つけて観よう!」と思わなければならず、ぱっと見の初見では何もわからないのだから。

 思えば、ここ2~3年で日本E-SPORTSの観戦文化を牽引してきた「バトロワジャンル」は、この問題を自然とクリアしていた。

 「PUBG」にせよ「APEX LEGENDS」にせよ、ゲーム内で何が起こっているかというのはかなり明快かつ単純だった。「どこどこのチームとどこどこのチームが戦闘を始め、片方が全滅しそれで敗退。チーム数が少なくなり居られる場所が狭くなり、最後には1チームだけが残りそれが勝者」という試合展開の理解ハードルは低い。初見でもわかる人は何となくわかるだろう。

(※また、前段で述べた「番狂わせの展開が起こりづらい」という要素に関しても、VALORANTとバトロワゲームは対極にあるという事も特筆すべき点だ。不確定要素の多いバトロワゲームにおいては下馬評が意味をなさないレベルで混沌とした試合結果になることも少なくない。必然的に、観客は予想外の驚きと熱狂を得る機会が多くなる。)

 バトロワブームに乗り、大きな発展を遂げた日本E-SPORTS観戦文化は、観客の側も「バトロワゲームで求められる程度の知識量・理解度」を持った者が多い。そこに5対5爆破のVALORANTが参入し、すんなりと定着するかと言われれば疑問符が付く。

 先述したように「知識が自然と身についているプレイヤー」からすれば、VALORANTの大会は面白い。しかし、「大会の観客≒プレイヤー」の状態では観客数は伸び悩むだろう。サッカーはしないが見るのは好き・野球はしないがTV中継は見る、といったような「見る専門」の人たちが増えていかないと、興行は発展していかない。

 観戦に必要な知識をどう広めて、観戦自体をいかに易化していくか。この部分に関するケアは必須であるとともに、発展に大きく寄与する部分であると感じる。

まとめ

 最初の方に、「競技としては90点のゲーム」だが、「興行としては良くて50点」のゲームと書いた。

 VALORANT自体もカスタムゲーム機能やコンペティティブなど、競技性を重視したゲーム作りをしており、その背景には「VALORANTを競技タイトルとして育て上げたい」という強い思惑を感じる。

 その作り方が的確であるがゆえに、競技性の高い5対5爆破ゲームとして生まれたVALORANTの、「"宿命的"な興行へのハードルの高さ」は歯がゆい。

 「面白いんだけどなあ……。とっつきにくいよなぁ……。流行らないのかなぁ……。」と思ってしまうのだ。

 だが、まだリリースから2か月である。今後どうなるのかは誰にもわからない。

 人気の出ないオンラインゲームの末路は「サービス終了」だ。

 これほどフェアで、奥深く、面白い無料ゲームは中々無い。悲しい形で終わってほしくはない。

 ハードルを感じつつも、記事作成主は大いなる期待をもってこのゲームを見ている。

 未来の大発展を願いながら、記事の締めとしたい。


 


 

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