2022.11.13 at 福岡 DRUM LOGOS / the pillows "RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.4"
ピロウズ、アルバム「ペナルティーライフ」、「GOOD DREAMS」、その再現ツアー福岡編、その記録。
(個人話)というわけで旅行支援という遠征にもってこいのキャンペーンを駆使し、遥々福岡までやってきてしまった。自分の住む札幌にも今月末に来るが、皮肉にもACIDMAN主催の「SAI」と日程が被っていたため、こうなったまでである。(「SAI」行きます。)
「アルバムを出してツアーを周る」というバンドのサイクルに、例にとらわれずピロウズも主にはそのような活動スタイルだった。2017年、突如「RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.1」と銘打ってアルバム「Please Mr.Lostman」と「LITTLE BUSTERS」の再現ツアーをすることを発表。「Vol.1」とつくからにはシリーズモノになることを期待し、結果今回4度目の再現ツアーである。
アルバムツアーの再現ツアーの何が良いって、そのアルバムの聴きたかった曲が「確実に」聴けてしまう。新譜が出るのは、ファンにとっては嬉しいことだが、と同時に過去の曲が聴ける頻度が減るという厄介な悩みが存在する。ピロウズほど活動歴が長く、曲も多く、そして、まだまだ衰えを全く見せない山中さわおの作曲スピードを考えると、この再現ツアーは待ってましたと言えるだろう。
そして、このピロウズの再現ツアーの良さと言える点がもう一つ。それは、アルバムの収録順に演奏するのではなく、新たにアルバムの曲でセットリストを構成し直して演る点である。
これによって、演る曲がわかってても、変な飽き感持たずに、次に何をやるのかというワクワク感があると思うので、粋な計らいだと思う。多分言い出しっぺは山中さわおだと勝手に思ってる(どこかのインタビューで言ってた気もする…)。
前置きが長くなってしまった。本編に入る。
定刻、暗転し、いつものSE、SALON MUSICの「KELLY'S DUCK」が流れる。
徐々に赤と青の照明がステージを照らし始め、山中さわお(Vo,Gt)を筆頭にメンバーが上手から現れる。やっぱり、さわおが一番先に出てくることにどこか安心感を感じる。モニターに足をかけ、前に出てくる所も変わらない。
全員が定位置につき、鳴らされるは、アルバムでもオープニングを飾る『Dead Stock Paradise』。照明も含め妖気な雰囲気が会場を覆う。アルバム「Wake up! Wake up! Wake up!」のツアーで演奏された時にステージ上からバンドロゴの電飾看板が降りてきた映像が脳内でどこかフラッシュバックされる。
軽快で疾走感のあるナンバー『Freebee Honey』、お決まりのさわおのタイトルコールから『ターミナル・ヘヴンズ・ロック』とライブは続く。
「久しぶりじゃないか。元気にしてたかい?
俺たちthe pillows、会いにきたよ。」
「久しぶりじゃないか」とは、もはや最初のMCでは、さわおの口から半ば反射的に出てくる言葉だが、客席、バスターズからは待ってたと言わんばかりの拍手。でもこの言葉を待っていた。
「当時のツアーに来れなかった人は楽しんでほしいし、この曲、どう楽しんだらいいんだ?、という曲もあるけど、大丈夫。俺らでも未だによくわからない曲もある(笑)。とにかく、今夜も良い時間にしよう。よろしく!」
そう述べ、次なる選曲は『ファントム ペイン』。端的に言ってしまえば、単調な曲の展開なのだが、一度聴くとどこか癖になる。そんな一曲。ギターソロでは、サウンドとともに、そのしなやかな身体の動きは真鍋吉明(Gt,Cho)、唯一無二のギタリストである。
そして早くも『モールタウン プリズナー』を投下してくる。てっきり最終ブロックで演るだろうと思っていたので、良い意味で期待を裏切られた。間奏では、なんとサポートの有江嘉典(Ba,Cho)含め、フロント3人が「全員で」モニターよりも前、ステージギリギリまで客席に近づいてプレイ。まだライブ序盤、そして3人同時というのが、ありそうでなく、恐らく初めて見た気がする。盛り上がらないわけがない。
そしてアルバム唯一のインストナンバー『スーパートランポリン スクールキッド』が続く。
演奏後、「『Funny Bunny』を演らずしてこの曲を演るツアー(笑)。このツアー終わったら一生やらないぞ(笑)?」と笑いながら言っていたが、おそらく間違いないだろう…。
「次も最近演ってなかった、久しぶりの演奏」と言って披露された『ロンサム ダイヤモンド』は、サビ以外の殆どのパートを占めるベースのスライドのフレーズがライブで聴くととても印象強く耳に残る。
そして、佐藤シンイチロウ(Dr)がドラムスティックからマレット(木琴とか叩く時に使うアレ)に持ち替え、演奏されるは『昇らない太陽』。
上に載せた部分に限らず、曲全体どこか鬱屈とした歌詞、深く沈んだような曲。曲中、相反するかのようなオレンジ色の照明がステージを照らしていたが、とてもディープな時間だった。
続く『ムーン マーガレット』は、歌メロをなぞるような真鍋のギターが気持ち良く、『昇らない太陽』のディープな雰囲気を一変させる。その次の、爽快なロックナンバー『I know you』の間奏では、最前のバスターズとグータッチを交わすさわおの姿がとても印象的。
そして、『傷跡の囁き 誰もいないパラダイス』が演奏され、アルバム「ペナルティーライフ」のパートが終了する。
「GOOD DREAMS」のパートに入る前にさわおが話す。
「ここまで『ペナルティーライフ』を全曲聴いてもらった。どうだ?躁鬱な曲が入り混じってるから聴いてる方も大変じゃないか?『モールタウン プリズナー』もう演るのか?って思った人いるだろうけど、色々試したけど、これしか(セットリストが)なかった(苦笑)。」
「あと、俺は『ペナルティーライフ』のパートが終わるとホッとする(笑)。」
と語るのは、見ていて思ったが、「ペナルティーライフ」の曲たちのさわおのフレーズは、コードを弾くよりも単音だったり、歌いながらでは容易ではないようなフレーズを弾くような場面が結構あり、同時に歌も、となると、とても忙しい。
「きっと当時『ペナルティーライフ』のツアーを終えた自分は思ったんだろうねえ。だって『GOOD DREAMS』の俺のギター簡単だもん(笑)。(真鍋の方を見て)やっぱりそういうことは専門家(真鍋のこと)にお願いして演ってもらおうと。こっからなら俺ビール飲みながらでもできる(笑)。」
そして、アルバム「GOOD DREAMS」パートのオープニングを飾るのは、こちらもアルバムと同じく、1曲目の『Xavier』。そして、『WALKIN' ON THE SPIRAL』と続く。
『WALKIN' ON THE SPIRAL』の最後、
と歌っている。さっきまで《昇らない太陽》と歌っていた人が、今度は《太陽に近づいていた》と歌っているのだから、この続けてリリースされた2枚のアルバムではあるが、その世界観というものは、まるで「陰と陽」くらいの位置関係に値すると思う。
「30年以上バンドを続けてると、トップカルチャーもすごい入れ替わるけど、次演る曲は、そんな中でも俺の中で一生輝き続ける名曲。」
そう言って披露されたのは『フロンティアーズ』。また個人的な話だが、このアルバムの中で一番好きな曲がこの曲なので、そういう曲に対して、作曲した人がそう述べてくれるのは、なんだかこちらも嬉しい。そして、さわおの頭を振り全身でプレイする姿、真鍋の力強いギターソロがその言葉を後押しするようだった。『フロンティアーズ』は、間違いなくロックだった。
そして『ローファイボーイ, ファイターガール』、『New Year's Eve』と続くのだが、『New Year's Eve』では、1番で歌詞が飛び、やり直す一幕も。
「俺、ずっと2番歌ってたよな?(笑)。
さっき、ビール飲みながらでもできる、って言ったけど、これは実力です。」
と、半ば開き直り再開。
続く、『天使みたいにキミは立ってた』は、「今の自分なら絶対新曲として出せないであろう、そんなラブソング。」と演奏前にさわおは述べていた。
そんな『天使みたいにキミは立ってた』の後に『オレンジ・フィルム・ガーデン』が続いたのはどこか必然のように感じる。
そして、続くインスト曲『BAD DREAMS』も恐らくリリースツアー以来の演奏だろうが、さわおと真鍋のツインリードのギターが織りなす世界観、堪らない。単純にカッコいい。「MARCH OF THE GOD」も良いけど、こっちもどうですか?(超主観的意見)。
そして、有江→佐藤→真鍋のいつもの順番でメンバー紹介。
メンバー紹介が終わるといよいよ最終ブロックである。
「20数年前にこの2枚のアルバムを作った俺たちthe pillows、その未来は今だ!」
さわおがそう叫び、始まった『その未来は今』。
そして説明不用の名曲『GOOD DREAMS』から『Rosy Head』とバンドはラストスパートを駆け抜けていく。『Rosy Head』では、さわおはステージから身を乗り出し、おそらく客席最前の柵に片足をつき、ギターをプレイしていたと思う。その時の表情がとにかく良くて、観てるこっちまで笑顔で満たされる。
本編が終わり、鳴り止まないアンコールの拍手にメンバーが戻ってくる。
「アンコールが当たり前のようにある」という考え方は、あまり良くないだろうが、ピロウズの再現ツアーのアンコールでは、その当時にリリースされたシングルのカップリングが演奏される傾向にある。
アンコール1曲目はシングル「ターミナル・ヘヴンズ・ロック」のカップリング『Sick Vibration』。これまたコアな選曲だが、聴けるのはきっとこのタイミングだからなのである。そして、間髪いれず、バンドは『BOON BOON ROCK』をプレイ。
2番のサビの歌い終わりの部分、《唸るギター聴こえるか!》の所は歌うというよりも客席を煽るかのように歌い叫び、力強い演奏プレイを見せてくる。
力の入るさわおのプレイを見ていると、こっちもより力が入ってくる。本編であれだけやり尽くしたのに、まだまだ力のあるプレイを見せてくれる山中さわお、どこかギターを触りたての少年のようにも見えるし、でも、本当にバンドのフロントマンで、誰よりもライブが好きなのだなと改めて思った。
なので。さわおが楽しんでる姿を見る、という行為と音を浴びるという行為はイコールで繋がると思う。とにかく最高なのだ。
曲が終わり、他のメンバーが捌け、さわお1人がステージに残る。
「20年も前のアルバムをこうしてまた何度も楽しめるのも良いよな。」
「世間でいうヒットチャートを賑わすような曲は、この2枚のアルバムにはないかもしれない。でもそういう変わったところが、君たちに見つけてもらえたきっかけであるとも思っている。」
そして、自身のいろいろな物事の考え方を「さわおの壁」と自ら揶揄し、しつつもその壁を乗り越えて、または、踏み倒してピロウズを見つけてくれてありがとう、そう感謝を伝える。
「I just like you.」
そう述べ、ステージを後にした。
誰もいなくなったステージに音源の「ムーン マーガレット」が流れる。そして、流れ終わる前に再びメンバーがステージに戻ってくる、缶ビール片手に。
そして、4人でステージ真ん中で乾杯したのち、さわおの爆笑タクシーエピソード(長いので割愛)を挟み、
「ロックを演って帰るよ」
そう言ってプレイされたのは、『僕は かけら』。
この曲、アルバム「ペナルティーライフ」の隠しトラックでもある。
そして、フィニッシュかと思ったら、鳴り止まない拍手に応えるかのよう、トリプルアンコールに突入。
「ライブハウスというのは、エンターテイメントとドキュメンタリーの狭間に位置するような所にあると思う。そして、その両方を兼ね備えるのが俺たちバンドマンなんだ。」
どこか、まだまだロックバンドを続けるという意思宣言にも取れる言葉のあと、『Blues Drive Monster』を力強くプレイし、この日のライブに幕を閉じた。
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