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鮭の日

 ここ最近はゾンビドラマに釘付けで、画面に張り付いたまま死ぬんではなかろうか、どうせ死ぬならこのゾンビのように老若男女のオードブルを食い散らかして死にてえ、とかなり堪えていたが、無事最新話まで追いつくことが出来た。
自慢ではないが、連続ドラマをぶっ通しで鑑賞することには定評があるので、6シーズンなど大した壁ではなかったのだ。

 ゾンビドラマ沼を抜けたからといって次の面白ドラマを見つけ出したのでは負のループである。PCを荒縄で縛り上げて近所の公園の高い木に吊し上げておいて、昨晩は積読ならぬ散読(未だ読めてない本が家中に散らばっている)に手を出した。

手に取った本は、ハロルド・ギャティ『自然は導く』。ニューエイジぃ香るタイトルながら、その実コンパスや地図を使わずに、自然の道標を頼りに目的地へ辿り着くナチュラルナビゲーションの指南書のようなものだ。
少年(24歳)の冒険心をくすぐる良い本で、読んでいるとどこかを当てもなくフラつきたい気持ちに拍車がかかる。

しかし要所要所かなりアカデミックな内容が書かれている上に、例として出てくる地名が馴染みのないカタカナばかりで、少年(24歳)のおつむには少々厳しい。
図らずも上質な眠りに誘われてしまう。
そのお陰で今日は朝8時に目が覚めてしまったので、大人しく倉庫へ出勤した。

 昼飯は倉庫から歩いて5分ほどのところにあるチェーンの家系ラーメン屋へ。
倉庫街を歩く5分間に自然の道標などあるわけもなく、あるのはコンクリ鉄筋トラックくらいのものなので、天下のナチュラルナビゲーションの出番はなく、悲しく思う。そんなつかぬことを考えているうちにラーメン屋に着いた。

店内に入り食券を買って席につくと、店員さんが食券を取りに来る。
すると鼻腔に物凄い違和感が。香水の香りがキツい、キツすぎてもはやうんちである。

香水にはスカトールという、うんちに限りなく近い香りを放つ成分があるというが、そういうことではなく、香水を振りすぎてそこにないはずのうんちを感じてしまうのである。

たまたま脂ギトギトこってり系の店だからまだ許せる。しかし、ここが仮に老舗の割烹だったらどつき回された挙句に板長に出刃でカチ割られてるぞと思ったが、そこまで考えて、ここは老舗の割烹ではなく、僕はうんちの香りが心底嫌いなわけではないということを思い出す。
 
これだから内省は大事だ。麺を食べ、汁を飲み干し、店を出る。完まくだ。
「ごちそうさまでした」
立った席を振り返らず、店を出ると背後からうんち店員の声が高い秋の空に響く。

「完まく一丁!」

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