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山の民サンカと忍術、逮捕術

初めに

Quoraに書いた回答で、自分としてはかなり力を入れて書いたにも関わらず、それほど見られていないのでnoteに転載します。Quoraでの回答は自分に著作権が帰属するので、そのまま書いて問題ないのですが、その元になる質問は著作権の問題で少し言葉を変えています。でも、内容的には変わらないので、回答を読む上で支障にはならないと思います。

質問

「武術は武士の間で伝えられたばかりではなく、被差別階級には警備術や逮捕術が伝わったと聞きましたが、これについて詳細をご存知でしょうか」という質問に対する回答を以下の項目に述べます。一般的には意外に知られておらず、歴史や武術に興味がある読者にとっては、興味深いところではないでしょうか。

身分の流動性と武術

まず、前提として、武術は武士だけが伝承していたわけではありません。大体、江戸時代になるまで、一部の公家や武家の名家を除けば、結構、身分間の流動性は高く、江戸時代でさえ、ある程度の流動性はあったようです。こんなこともあり、自分の身、家族、村などを守るための武術は武士だけが学んでいたわけではなく、あらゆる階層が必要に応じて学んでいました。

武士以外が担った武術

上について、自分で見聞きした例を挙げると、3年ほど学んだ鹿島神流は鹿島神宮の神官の間に長年伝えられてきたと聞いています。有名どころで、宝蔵院の槍術と似た経緯です。そして、鹿島神流は近代で馬庭念流の影響を受けますが、これは主に農民の間に伝えられてきたもので、そのため、攻撃より護身の技が多いと聞いています。また、幕末に有名になった新撰組は天然理心流を使い滅法強かったようですが、彼らは農民の出です。

忍術と非人

さて、前置きが長くなりましたが、ご質問の被差別階級に伝わる武術について述べます。これは、私の年代の男性であれば多くの人が即座に回答できますが、一言で言えば、忍術です。忍者漫画の伝説的な作品である「カムイ伝」で描かれる基本設定は、非人が極貧生活から抜けるために忍者を目指すけれど、それも過酷なもので、カムイは追手を返り討ちにしながら、そうした運命に抗います。これは単なるフィクションではなく民俗学的な考察に基づいています。

サンカに伝わる特殊訓練

もっと、学術的な文献である田中勝也氏の「サンカ研究」P86〜87によると、山家(一般的な身分制度の外にいて山中や河原に住む人々、つまり、被差別民の一種)の男子は丹波に行って2年間、武技と職業の訓練を受けます。その武技の内容は、軽身の術、暗中を行く術、攻め手を防ぐ術、離れたものを投器で攻める術、秘密連絡・狼煙の術、隠身法・忍び込みの術です。まあ、現代で言えば、スパイや特殊部隊のための訓練です。

警備術と逮捕術を担う者

一方で、警備術や逮捕術についてですが、これは街の治安を守る同心やその補佐である岡っ引きや下っ引きが主に使っていたと考えられます。同心は武士ですが、岡っ引きや下っ引きは同心が個人的に雇う人材で、裏社会に通じた軽犯罪者から採用されることも多かったようです。そうであれば、その中に生活の苦しい被差別民が入っていたことも考えられますが、これは個人的な推測で、裏付ける伝聞や資料には行き合ったことがありません。

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