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巨大な英語圏の多様性とイギリス英語の多様性

初めに

この記事はQuoraに載せた回答の転載なので、まず、質問を提示してから、その回答を示す形で記事を書きます。そして、質問は著作権の関係で、少々、オリジナルを修正し、また、回答の方も読みやすいように多少の変更を加えています。質問は、「英語が公用語の国・地域で、イギリス英語と最も異なる英語を話すのはどこでしょうか?」というものです。

英語から大きく変化を遂げたピジン語

長年、英語圏の途上国を中心に仕事をしてきたので、それなりの回答ができると思いますが、結論から述べると、すでに英語とは言えないぐらいに英語から変化した言語は太平洋州に伝わるピジン語と言えるでしょう。もしも、ピジン語を英語の範疇に含めればの話ですが。

ピジン語の定義

この言語については、日本語版のウイキペディアによるとソロモン諸島に伝わる言語で、パプアニューギニアなどの周辺国は、この言語に近いクレオール語があると書かれています。ところが、英語版のウイキペディアでは、パプアニューギニアの言語はトック・ピジン語と記されており、実質的にピジン語の方言と書かれています。この方が、私がパプアニューギニアやソロモン諸島に在住経験のある友人から、直接、聞いた話と近いです。そのため、ここではソロモン諸島に限らず、太平洋州で広く話されている言語として、ピジン語を扱います。

ピジン・イングリッシュとは何か

そもそも、ピジン語とは、英語と現地の言葉が混ざってできた言葉で、元々はピジン・イングリッシュと呼ばれていました。ちなみに、このピジン・イングリッシュとは、奇妙な英語というニュアンスがあります。私が旅行で、オーストラリアの牧場に滞在したとき、そこの主人に私の話す英語はピジン・イングリッシュと言われてしまいました。正直、オーストラリアのカウボーイに汚い英語よばわれする筋合いはないと思いましたが、そこでの滞在は楽しかったので、まあ、良いです。

交易のためのピジン語

話をピジン語に戻すと、30年ぐらい前はピジン・イングリッシュと呼ばれていたのですが、あまりに英語からはかけ離れているので、イングリッシュが取れて、ピジン語と呼ばれるようになりました。そして、この言語は一国で醸成された言語ではなく、太平洋州での交易で発達した言語なので、語彙が少なく、文法が簡単と聞いています。同じように交易で発達した言語には、東アフリカでアラビア語と現地語が混ざってできたスワヒリ語があります。

インド英語とフィリピン英語

私は太平洋州に行ったことがないので、ピジン語は分かりません。その代わり、自分が赴任したことがある英語圏に様子について書いてみたいと思います。まず、他の回答で人気のインド英語ですが、私は隣のパキスタンに滞在していたことがあります。確かに、Rの発音が強いのですが、それに慣れれば大して聞き難くはありません。Rの発音が強いのはフィリピンにも同様の傾向があります。フィリピンは300年のスペイン支配の歴史があるので、スペイン語の影響も残っているためRが強いのです。

イギリスのインド英語

イギリスに滞在していた時には、随分とインド系の人達と会いました。彼らはRの強い発音で、かなり癖の強い発音ですが、イギリス人の反応を見ていると、そんな発音でも聞き取れないと言うことはありません。日本人である私の英語よりも、聞きやすいといった反応でした。

階級により異なるイギリス英語

イギリスではインド系などの移民ばかりではなく、一般的なイギリス人の中でも様々な英語が話されます。牧場で働く女性が、Ladyを「ライディー」と発音するのを聞いて、ああ、本当にこんな発音するのだと思いました。本当にと言うのは、イギリスは階級社会で、労働者階級では、標準英語で「エ」と発音することを「アイ」と発音すると聞いていたからです。例えば、労働者階級が多く移民したオーストラリアでは「today」を「トゥダイ」と発音することが有名です。そのため、「I am going to the hospital today」が「I am going to the hospital to die」に聞こえてギョッとすると言う笑い話があります。

聞き取れないスコットランド英語

私がそこそこ英語が話せるようになってから、最も話が聞き取れなかった英語の話者はイギリス人でした。英語圏であるアフリカのザンビアにいるとき、数名のザンビア人とイギリス人とで話をしていました。一人のイギリス人の話がほとんど聞き取れず、その後、その人が場を離れると、もう一人のイギリス人が「His English is difficult」と言っていたので、びっくりしました。なんでも、スコットランド人で訛りがすごいと言うことでした。

多様なイギリス英語

イギリスに話を戻すと、イギリスでは階級社会もあり移民も沢山で、街に出て会話をすると、日本人にとっては聞き難い英語で溢れています。そんなとき、帰国の折に立ち寄るヒースロー空港に入るとホッとします。何しろ、アナウンスが全て漏れなく聞き取れるのです。こんなふうに、空港英語にホッとするほど、イギリスの英語は多様です。

日本人に聞き易いアフリカ英語

私が滞在した外国で一番長いのは、英語圏アフリカです。日本から見るとアフリカは遠い世界なので、さぞかし凄い英語が話されていると思うかもしれません。でも、アフリカの英語はパキスタンやフィリピンと比べて癖がなく、聞き取りやすいです。また、アフリカの大抵の現地語は日本語と同様に母音主体の言語なので、英語の発音も日本人には聞きやすい訛り方になります。ちなみに、アフリカの現地語には日本語的な単語があって、びっくりすることがあります。例えば、茨城県には笠間市がありますが、ザンビアの北部州にはKasama Cityがあります。また、サンダルは、広く東アフリカでパタパタと言うし、唐辛子はピリピリです。

地域のみに依らない英語の多様性

最後にまとめると、英語の訛りが酷くなるのは、地域的にイギリスから離れるばかりではなく、話す人の属する社会的な階級や受けてきた教育にもよります。例えば、インド英語やフィリピン英語はRが強いですが、大学以上の高等教育を受けた人々は実にきれいな英語を話します。アフリカでも、こうした事情は同じです。また、イギリス人であっても、高等教育を受けないで労働者として暮らしている人々は、上述した通り、標準語とはかなり違う英語を話します。また、UKでもイングランド以外の地域では、元々、英語以外の言語があり、そうした言語の伝統を守ろうとの運動もあります。そんな様々な事情があり、イギリス、特に人種のるつぼであるロンドンでは様々な英語が飛び交っているのが実情です。


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