〜に基づいて……が任命する。

法律の条文において、「Aは、〜する。」「Aが、〜する。」という形で、主語+動詞の終止形になっている場合、Aには、〜する義務があることを示します。英語で言えば「shall」が使われているのと同じニュアンスです。この場合、「〜する」かどうか、Aに裁量権はありません。例えば、憲法第79条5項の「最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。」との条文からは、最高裁判所の裁判官は法律の定める年齢に達した時に退官する義務を負っていることを読み取るべきであって、退官するか否かを自由裁量で決める権限が最高裁判所の裁判官に留保されていると読むことはできません。
 したがって、「〜に基づいて、Aが任命する。」という文言が用いられている場合、Aには任命するか否かを自由裁量で決定する権限はありません。

 そして、「〜に基づいて、Aが任命する」という文言が用いられている場合、Aが誰を任命するのかについては、〜に基づかないとならないということが示されています。〜で指定等されていない人を任命することはもちろんできませんし、〜で指定等されている人の任命を拒否することもできません。任命しないこととする権限が与えられていないからです。

 日本学術会議法7条は、日本学術会議の会員の人数を210人とし、その人気を6年とし、3年ごとに半数が任命されるという枠組みの中で、同2項において

会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。

と定めています。この条項を読む限り、同法第17条の推薦、すなわち、日本学術会議が内閣総理大臣に対して内閣府令に定めるところにより行った推薦の通りに、新たな会員を認定しなければならないのであって、内閣総理大臣に拒絶権は留保されていないと言うことになります。日本学術会議の会員に関しては、議会が定めた法律により、内閣総理大臣の裁量権が狭められているのですが、これは議会制民主主義においては当然あってよいことです。

 昨今は、この程度のこともわからない法律家が散見されるようで、嘆かわしい限りです。

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