コスプレと著作権

角田政芳=関真也『ファッションロー』(勁草書房・2017)は、「コスプレは、著作権法上は、著作物であるアニメ、マンガ、ゲームソフト、映画などの登場人物、つまりキャラクターを複製または翻案してコスプレイヤーがメイクアップやヘアデザインをし、衣装を身に付けて二次的利用をする行為である。」(227頁)とした上で、「コスプレの制作は、キャラクターの翻案のうち、二次的な表現形式を立体的な表現形式に変更する変形行為(著27条)に当たり、原則として、それらの原著作物の著作者の許諾が必要となる。」(228頁)とします。しかし、肝心な、コスプレが、キャラクターの複製または翻案にあたることの論証がありません。

コスプレの本質は、アニメのキャラクターが身につけているものと似た衣装等を身につけ、アニメのキャラクターの髪型や髪色と似た髪型や髪色にし、時にはさらにアニメのキャラクターに似せた化粧をすることによって、特定の個人が、特定のアニメのキャラクターを彷彿させる外形となる点にあります。コスプレは、キャラクター絵という既存の著作物の「具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現する」ものではないので、二次的著作物創作行為の一つである「変形」行為にはあたりません。

では、キャラクター絵の複製となりうるのかというと、難しいと思います。複製とは、著作物を有形的に再製することをいい、言い換えると、著作物たる表現を有体物に化体して、著作物たる表現を反復継続して人が知覚できるようにすることを言いますが、コスプレの場合、キャラクター絵を彷彿させるのは、上記衣装等を身にまとった人間であって、有体物ではないからです。法律の世界では、人と物とは峻別されているからです。

もちろん、コスプレする際に身につける衣装等それ自体は有体物なので、当該衣装等単体で、元のキャラクター絵の表現上の本質的特徴部分を直接感得できる場合には、当該衣装自体が元のキャラクター絵の複製物となるということが理論的にはあり得ます。ただ、二次元キャラクターの衣装等を実際に人間が着用できるものにする過程で衣服としての形状は大いに変わっているので、元のキャラクター絵の表現上の本質的特徴部分を直接感得できるものは相当少ないと思います。また、通常衣装等は、本来的には応用美術にあたるので、それ自体で美術作品と同視すべき高度の観賞性を有する例はそれほどないのではないかと思います。例えば、スーパーマリオのつなぎの服を彷彿とさせるつなぎ服を制作した場合に、そのつなぎ服自体がスーパーマリオというキャラクター絵の複製物ないし変形物となるのかといわれると、ならないのではないかと思います。つなぎ服自体はス-パーマリオ以前から多数作られており新たな形状のつなぎ服を作っても創作性の幅は極めて狭いところ、人が着ることができるように立体化する過程で、形状において創作的な部分を感得することはできなくなっていると思われるからです。まあ、人が着れるつなぎ服をみてスーパーマリオを彷彿とさせられるのは、つなぎ服の色味にあるのでしょうが、あの色味に著作物性を認めるのは困難だと思いますし。

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