悪意により虚偽の情報を拡散することと名誉毀損

 中部大学教授の玉田敦子先生の

女性研究者、教授昇格の際も、男性研究者には問わない特殊な条件を課されていると感じる。私自身も女性上司の粘り強い高所、同時に昇格した年長の女性の先輩たちからのアドバイスがなければ、何十本論文を積んでもダメだったと思う。

とのツイートに対し、関西大学の岩本先生が、

少なくとも関大商学部にはそうしたことは一切ないでしょうね。いや、ホント良い組織っす。

ツイートしたところ、

玉田先生は、
悪意により虚偽の情報をTwitter上に拡散されることは名誉毀損に当たります。
ツイートしました。

 玉田先生が誰から教わったのかは存じませんが、現行法上、「悪意により虚偽の情報を拡散する」こと自体は名誉毀損に当たりません。あくまで、他人の社会的評価を低下させるものであることが必要です(特定の人のアイデンティティに関する事実(国籍とか民族とか)について誤った認識をさせることを名誉毀損に含める見解はあり得ますが、そのあたりが限界だと思います。)。

 岩本先生の上記ツイートは、関西大学商学部では「女性研究者、教授昇格の際も、男性研究者には問わない特殊な条件を課されている」ということはないと、関西大学商学部の教授としての立場として言及したに過ぎませんので、中部大学教授である玉田先生の社会的評価を低下させるものではありません(中部大学では女性研究者が「教授昇格の際も、男性研究者には問わない特殊な条件を課されている」とする玉田先生のご認識を否定すらしていません。)。また、玉田先生のアイデンティティに関する事実について誤った認識をさせるものですらありません。したがって、上記岩本先生のツイートが玉田先生の名誉毀損となるということはないと言えます。

 なお、玉田先生は、岩本先生の上記ツイートをして、「悪意により虚偽の情報をTwitter上に拡散されること」としています。
 これは、
① 関西大学商学部においても、女性研究者は、教授昇格の際に、男性研究者には問わない特殊な条件を課されていること
② 岩本先生は、そのことを知りながら、あえて、そのようなことがない旨の虚偽の情報をTwitterを用いて拡散したこと
の2つの事実を摘示したと言うことができます。
 ①は関西大学商学部の、②は岩本先生の社会的評価を低下させるものと言えそうです。
 関西大学が玉田先生に対し名誉毀損に基づく損害賠償請求訴訟を提起した場合には、玉田先生の側で上記①の事実を立証する必要がありますし、岩本先生が玉田先生に対し名誉毀損に基づく損害賠償請求訴訟を提起した場合には、玉田先生の側で上記①及び②の事実を立証する必要があります。上記事実摘示を行った時点で摘示事実を真実と信ずる相当な事由があれば免責されるのですが、岩本先生のご認識について裏付け調査を行った上での発言ではなさそうですので、相当性の抗弁が成立する余地はなさそうです。

 「男性研究者には問わない特殊な条件」が一体何なのかを特定した上で、関西大学商学部においても、女性研究者を教授に昇格させるにあたってそのような条件を課していること、並びに、そのことを岩本先生が知っていたことを、玉田先生の側で立証する必要があります。

 greeks_psychoさんは岩本先生の上記ツイートに対して「関大商学部の教員ジェンダー比率って5:5?」とツイートしていますが、「教授への昇進」というかなり特殊なイベントについて、日本社会全体の属性比率と異なる属性比率に至ることは当然あり得るので、教授に昇進した人の男女比が5:5から離れていることをもって、関西大学商学部において「女性研究者を教授に昇格させるにあたってそのような条件を課している」と推認することは無理があります。

 また、人文社会科学系学協会男女共同参画推進連絡会は、


社会的要素については、すべての学術分野において、女性研究者は男性研究者よりも教授昇進の確率が低いことが明らかになった。この結果は先行研究とも一致するもので(Fotaki, 2013)、日本のアカデミアには“Matilda effect”が存在すると言い得るのではないかと考える(Rossiter, 1993)。

ツイートしています。しかし、これは、そのような教授昇進の確率の低さが、女性研究者の教授昇進にあたって「男性研究者には問わない特殊な条件」が課されたために生じたものであるとは言及されていないようですし、中部大学はともかく、関西大学商学部において女性研究者の教授昇進にあたって「男性研究者には問わない特殊な条件」が課していたことを基礎づけるものにはなりえないように思います。

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