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[ep.10]30時間の結末

【今回のあらすじ】
最後尾グループがゴールに到着してグランドフィナーレを迎えます。今年の大会も終了する時を迎えました。

【前回までのあらすじ】
[ep.9]時間遊戯の終盤戦
あと2時間半で大会が終わろうとしている中、最後尾グループが予想外の時刻に8CPへ到着しました。

【メインテーマ】
100km歩こうよ大会 in 摩周・屈斜路の実行委員である私・便艦(べんかん)が「運営・サポートスタッフ」として、何をして何を感じたかを主観的に書き記すことを試してみるものです。


●壊れた感情と涙腺と鼻腔

AM9:32、最後尾グループが8CP(チェックポイント)「川湯駅前交流センター」に到着したと、地元サポートスタッフのおもちから連絡が入りました。

殿は「との」ではなく「しんがり」と読み、最後尾の方のことを指します

[ep.9]の最後にも書きましたが、私の計算上ではAM9:50~10:10くらいに8CPへ到着する想定でした。そしてその後、ゴールの川湯ふるさと館(受付終了時間AM11:00)に間に合うかどうか、薄氷を履むようなタイミングで戻るのではないかとストーリーを組み立てていました。その自分勝手で雑な物語は、最後尾グループが8CPへ9:32に到着したことで大きく覆されます。心に潜めていた期待が、くすんだ鈍色から光沢に溢れた黄金色に変わっていくような気がしていました。

8CPからゴールの区間距離は3.6kmです。例えば10:00に8CPへ到着していたとしたら、ゴール締切時刻の11:00まで残り1時間となるので時刻3.6km/hで歩く必要があります。これはここまで歩いてきた速度からペースアップしないといけないので、相当チャレンジングであると考えていました。ゴールでのロスタイム制度の導入も視野に入れていたものの、やはり最終的に当初のゴール受付時間をクリアすることは一層の達成感を味わうことができるはずです。ここまで物凄いタイミングで到着したペース配分。何という体力と気力でしょうか。

想定外の吉報を目の当たりにしたとき、人の感情はおかしくなることがあるようです。写真と文字情報しか手元にないのに、そこで表された奇跡のような現象が、私の中にある色々な物を壊していきました。

一切の誇張なく過去全ての大会の中で、間違いなく一番涙が止まらなかった瞬間です。完全に涙腺が壊れてしまった。最後尾グルーブが当初の予定時間内にゴールに到達できそうであるという喜びよりも、その状況を作り出せそうなペースで8CP到着時刻を迎えたことの凄まじさにやられてしまったと自己分析しています。

顔がビチョビチョになっている中でも、他の徒歩参加者がゴールに到着してきました。私には到着時のゼッケンLINE投稿を行う役目がありますのでその責務を全うしますが、涙声で撮影を行う私は少し異様だったかもしれません。

最後尾が8CPに到着してから10分間くらいでしょうか、涙腺と鼻腔が壊れてしまっていたようです。もうズルズルビタビタグショグショです。

泣いている姿も、鼻をかんでいる姿も、不思議と見られても恥ずかしくないと思っていました。いやむしろ「人に見られたら恥ずかしい」という考えには及んでいなかったかもしれません。これはとても自然な身体の現象のような気がして、なすがままに顔中から体液を垂れ流していました。そしてAM9:50、おもちから最後尾グルーブが8CPを出発したと投稿がありました。

●不具合が生じたTwitterのその後について

未明に不具合が発生して利用をストップしたTwitterですが、ドロンジョ様から情報をいただきました。どうやら困っていたのは我々だけではないようでした。

ドロンジョ様の情報を得る前から、実はトレジャー後藤氏がいろいろと対策を調べては私に教えてくれていました。しかしトライ&エラーを繰り返すも、残念ながら解決に至ることが出来ませんでした。

●ゴールに向かう徒歩参加者は残り4人

AM10:00の時点で、ゴールを目指して歩いている徒歩参加者はあと4人となりました。既にゴール以外のCPは撤収が済んでいますので、ゴール地点の川湯ふるさと館には多くのサポートスタッフが集結していました。全員の到着を今や遅しと首を長くして待っています。

10時を過ぎた頃、1名がゴールに到着しました。この方は3CPで最後尾グループとして歩いていたうちの1人です。7CPくらいから最後尾から離れて歩いていたと伺いました。

●大会と音楽の関係、世代交代と高齢化

ドロンジョ様より「松山千春をかける時が来た」という投稿がありました。かつて2000年代後半~2010年代前半の頃は、ゴール地点で「大空と大地の中で」という曲を流しながら徒歩参加者を迎えるのが恒例になっていました。

現地にいないドロンジョ様は自宅でこの曲を聴いているのでしょうか。コントロールセンターでも同じ曲を流してみました。

残念なことに、この時代を知るスタッフは結構少なくなっていたようで、共感できるような話が出てくる雰囲気ではありませんでした。思えば、今回を含めて15回開催されたこの大会も、緩やかに「来る人・去る人」を繰り返してきたように思います。加えて、これも緩やかに「高齢化」が進んできています。ありがたいことに参画してくれている若人もいるのですが、この文化を継承していくためには今以上に若手の力が必要であることは自明の理です。一方で若手世代への継承が叶わず、細々と縮小し、消滅へと向かうストーリーもあるのでしょうか。これは悲観ではなく静観です。

私は「大空と大地の中で」に続いて、THE ALFEEの「星空のディスタンス」を流しました。これは前回の2019年大会でテールエンダーとして私らが最終ゴールを果たす瞬間に歌われていた曲です。

時代とともに大会を彩る曲が変わっていくのは、非常に興味深い動きです。

●最後尾を迎え入れるにあたって

最後尾グループが残り1km前後になったころ、サポートLINEへ頻繁に最後尾の状況を伝える動画が投稿されてきました。徒歩参加者の様子は疲労困憊のように見えますが、どうやら気持ちは死んでいないようです。ゴールの締切時刻まではあと30分ちょっとあります。間違いなく時間内にゴールできるようなペースに見受けられました。

運営・サポートスタッフも安心し、これから迎えるグランドフィナーレを前に写真を撮影しました。

グランドフィナーレを前に意気込む運営・サポートスタッフ一同

●グランドフィナーレ

そして、いよいよこの瞬間を迎えることになります。AM10:40、最後尾グループが川湯ふるさと館に到着します。残り3名のうち、2名が先んじてゴールに到着しました。サポートスタッフ一同、拍手で迎え入れます。私は動画を撮影しながらも、ゼッケンチェック用の撮影も並行して行いました。

そして最後の1名、ゼッケン46番さんが1分遅れで到着します。リュックに「最後尾」の小さい幟旗を携えて、スタートからゴールまでずっと最後尾を守ってきた方です。[ep.7]でも書きましたが、まさにこの大会のmaniaと言わしめるほどの熱量でしょう。

この方は毎年ゴールをすると、小さいくす玉を割ってゴールを祝うというささやかなセレモニーを実施します。大会実行委員長の松山氏が、くす玉を割る大役を担いました。

AM10:41、これにて全徒歩参加者がゴールとリタイアを済ませました。最後尾グルーブが到着した時の様子をYoutubeにアップロードしてみました。この時も私は涙と鼻水まみれでしたが、AM9:30頃の状態に比べれば少しは落ち着いていました。

●閉会式

本来であればAM11:00に閉会式を実施する予定でしたが、徒歩参加者の全員がゴールとリタイアを済ませたので、前倒しで閉会式を実施することになりました。その前に、徒歩参加者の動向を報告します。

当日参加者 133名
完歩者数 86名(64.7%)
リタイア者数 47名(35.3%)

閉会式の式次第は簡素なもので「実行委員長挨拶」のみとしました。司会進行は開会式に引き続き、私が担当することになってしまいました。

実行委員長の話を案内する前に、前座のような話として100kmに向けての個人的な想いを滔々と語ってから実行委員長松山氏にバトンタッチしたところ、「話したいと思っていたことをほとんど言われてしまった」と苦笑していました。確かに100km愛が漏れ過ぎてしまったかもしれません。

閉会の挨拶を語る実行委員長の松山氏(写真中央)
閉会挨拶を聞く運営・サポートスタッフ一同

AM11:00を回るか回らないかの時間に、閉会式は終了しました。これを以って2023年大会は本当に終了となりました。会場に残っていた徒歩参加者は、歓談を楽しみながらも徐々に解散していきます。いよいよ本当に終わってしまったんだなと感慨深くその様子を見つめます。

大会のスタートから今までの30時間を過ごして、あまり疲労感はありませんでした。いつの間にか大腸の調子も快復したようです。面白いことに、大会終了による解放感や喪失感はそれほど感じませんでした。心が凪いでいて、穏やかな感覚です。

ところで今回、私は何かの役に立つことができただろうか。どうやら今回も好き放題やらせてもらったという気持ちの方が強く感じます。インシデントも起こしましたし、現場からの問いに対して判断が遅いこともありました。迷惑ばかりかけていたのではないか、いやそれは今回に限ったことではないか、毎度そんな気持ちだったような気もします。それでも結果的に、私の動きとは関係なく、大会に関わる全参加者(徒歩・サポート・運営・関係者)が「この大会に関わってよかった」と思ってもらえるのなら本望です。[ep.6]でも書きましたが、ベストは求めるものの達成できないことの方が多いので、これからも最大限のベターを突き詰めていけるようなスタンスで臨みたいです。

この後、運営・サポートスタッフは川湯ふるさとの片付けと原状復帰を行うことになりますが、[水端]でも書き記した通り「書き残すのは大会終了まで」と決めていたので、ここで筆をおきたいと思います。

今回の大会に関わった全ての方へ、改めて心からの感謝を送ります。そして今年も楽しい時間を過ごすことが出来ました。本当にありがとうございました!

[跋語]フォールス・コンセンサス につづく