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[ep.9]時間遊戯の終盤戦

【今回のあらすじ】
最後尾グループがロスタイム制度を活用しながらコース終盤を歩いています。私は2回目の腕湯を愉しみました。

【前回までのあらすじ】
[ep.8]両極端の誤算~日が昇るまで
Twitter不具合と腹下しに見舞われながらも夜明けを迎えました。

【メインテーマ】
100km歩こうよ大会 in 摩周・屈斜路の実行委員である私・便艦(べんかん)が「運営・サポートスタッフ」として、何をして何を感じたかを主観的に書き記すことを試してみるものです。


●タイムアップとロスタイム

AM5:30を迎えて、大会も残り5時間半となりました。1つ不安なことがあります。6CP(チェックポイント)「摩周第一展望台」の受付終了時間は5:30としていましたが、人数は少ないながらも現時点でも未着の方がいることがわかりました。

過去の大会ルールを踏襲するのであれば、これから来る徒歩参加者はタイムアップとしてリタイア扱いとせざるを得ません。しかし今回は4年ぶりの大会であることと、コースを大幅に変更したこともあり、ロスタイム(受付時間期限延長)の導入を決定しました。テントの片付けなど撤収の手順は進めますが、6CPへの到着が大幅に遅れるようでなければリタイアにせず歩いていただくことにしました。

●行方不明者発生と悩ましい顛末

その一方で、肝を冷やすような困ったことが発生しました。到着していない徒歩参加者のうち、本来であれば7CPを通過するペースで歩いているはずの方が、6CP・7CPどちらもゼッケンチェックが出来ていないことがわかりました。

嘘だろ…。この大会において起きてはいけないことの上位に入るのが「行方不明者の発生」です。発見できないということになれば大事件で、今後の大会の存続にも関わります。今回のコースは以前に比べて入り組んだ道は少なく、且つこの時間帯に歩いているコースは一本道のルートのため、コースを誤って別の道を歩いている可能性は考えづらい気がしました。そうなるとコース外から外れてしまったのか…。いや、何かの手違いであってほしいと願います。事務局炭田さんが行方不明者に電話をかけますが繋がりません。眩暈がしてきました。

巡回スタッフの藤田氏がいち早く捜索に向かいました。一気に本部が慌ただしくなります。その数分後、事務局炭田さんの携帯電話に着信があります。先程繋がらなかった行方不明の徒歩参加者からでした。話を伺う限り、5CPでリタイアして帰途に就いたとのことです。ああ本当に無事で、そしてすぐに確認が取れてよかった。巡回に出た藤田氏には捜索の中止を伝えました。なぜこのようなことが起きてしまったのか、しばらく後に理由がわかります。

リタイアが発生した時にはサポートLINEに投稿してもらうルールとしていたのですが、リタイア報告が漏れていたことがわかりました。LINEでのゼッケンチェックのフォローのために紙でも到着時刻を記録しておりましたが、その紙が本部に回収された際、該当の方の備考欄に「リタイア」と書かれているのを確認しました。このようなミスを再び発生させない体制・ルール
づくりが、来年の課題の1つとなりました。

●最後尾グループの到着 6CP摩周第一展望台

6CPの終了時間5:30から遅れること15分、最後尾グループが6CP「摩周第一展望台」に到着しました。この先も最後尾グループが歩ける体力・気力が残っているかをCPリーダーに確認したところ、いずれも問題ないとの回答でした。ただし7CPで大幅に遅れるようなことがあれば、対策を考えなければならないことが不安要素でもあります。最後尾グループはAM5:58に6CPを出発します。

テントを片付ける6CP・巡回・資材スタッフのみなさま

●時間を玩び、玩ばれることで生まれるもの

本心としては、早いことも遅いことも時間を気にすることなく徒歩参加してもらえることが理想です。それでも時間制限を設けるのは、運営上やむを得ない点もありますが、時間制限がドラマを生むという理由もあります。一見無慈悲なようにも思えるタイムアップという制度ですが、その悔しさを次に生かしたり、目標を達成できた時の喜びなど、制限がかかることで鮮やかに彩られる感情の色を見えることもあるはずです。

私が4年前に徒歩参加した時にはバディを組んでスタートからずっと2名で歩いていたのですが、コース途中でタイムアップの恐れがあることがわかり、私が先行して5CPに到着しました。私は受付時間に間に合いましたが、受付終了の1分前になってもバディが来ません。呆然と虚空を見つめている中、5CPの終了時刻と同時に、一度は別れたバディと再会することができたのですが、この時の溢れ出る安堵の感情は今でも忘れることが出来ません。この気持ちを味わうことができたのは、時間の制限があったからです。

運営・サポートスタッフも、時間制限によって感情を揺さぶられます。あの人は時間に間に合うだろうか、あまりペースを落とさずに無事に歩いているだろうか、一生懸命にゴールを目指す徒歩参加者のことを慮り、少しでもその一助になれるのならと感情を巡らせるのです。

●最後尾グループの到着 7CP摩周湖下り

AM7:16、7CP「摩周湖下り」に最後尾グループが到着しました。受付終了時刻は7:00と設定していたのですが、ロスタイム許容範囲として処理することにしました。

体力は残っているようで、そのまま次の8CP「川湯駅前交流センター」を目指して出発しました。ここからしばらくは急勾配の下り坂が続く区間で、かなり身体を、特に下半身を酷使します。14年前(2009年)にドロンジョ様らと一緒に歩いたときは、この区間で止め処なく睡魔に襲われました。6CP摩周第一展望台に向かう上り坂とは異なり、ここから先の下り坂は勾配がきついだけでなく、曲線半径が小さいヘアピンカーブが続きます。今までのペースを計算し、8CPの到着時刻を予想します。

7CP~8CPの区間距離は8.8km、受付終了時刻はAM10:00です。うまくいけば8CPの受付終了時刻に間に合うかもしれません。ただそれよりも私の思いは、とにかく無事に帰ってきてほしいと願うばかりでした。

●終わりの始まり

時刻はAM8:00を回りました。この時点で69名の方がゴールしていました。あと3時間、残り17名の到着を待ちます。お宿欣喜湯のサービスも終了となりました。

このくらいの時刻になると、開設しているCPが8CPのみになったということもあり、川湯ふるさと館には巡回スタッフや別のCP対応を終えたスタッフが帰還して賑やかになってきます。川湯ふるさと館が賑やかになればなるほど終わりが近づいていることでもあり、やっと終わるという気持ちよりは、もう終わってしまうという寂しい気持ちの方が強く感じられます。これは毎回のことで、徒歩だろうがサポートだろうが運営だろうが、この気持ちの流れが変わったことはありません。例年に比べて今年は5時間ほど大会時間が長くなっていますが、個人的にはあまり間延びしている感覚にはなりませんでした。終わりの手前は感傷に浸るものです。

徒歩参加者が来るまでの間、この場にいるサポートスタッフで4年ぶりに開催できたこの大会について、少し早いものの大会運営に関する振り返りの雑談を行いました。今回はLINEをフル活用した大会でしたが、ほとんど電話でのやりとりが無かったことが印象的だという意見が挙がりました。数年前まではLINEやMessengerを利用していなかったため、各CP⇔本部⇔巡回との間で頻繁に電話でやり取りしていました。電話をかけた当事者しか状況を知ることが出来ず、今の環境から考えたら著しく非効率だったと思います。当時大会が終わるころ、私は声を枯らしていました。加えて電話代の精算方法も確立されておらず、自己負担を余儀なくされた例もあります。現在の伝達手段の導入は、通信インフラの発展がもたらした好結果と言えましょう。

●腕湯 2Laps

この後はしばらく、ゴールに到着する徒歩参加者がいないようだという情報が入り、せっかくなのでもう一度足湯に行き、ボチャンと温泉に腕を浸けてきました。もうすっかり周りは明るくなっているので、足湯の外観と説明の看板を写真に収めてみます。

写真の右側に足湯が設けられている
温泉の詳しい効能などは看板の左側に貼られたA4用紙2枚に書かれている

8:00を過ぎたので、深夜に比べて僅かながら気温も上がってきました。気温計は13.9℃を示しています。太陽が出ていないためか、やはり少し肌寒い気候です。

私はずっと川湯ふるさと館の中で、暖かいというよりは少し暑い気温で過ごしてきましたが、巡回担当として配属された地元スタッフのおもちは「4CP美留和会館の深夜帯がものすごく寒かった」と話していました。7月には似つかわしくないようなガチガチの防寒具を着ていたことが印象に残っています。おもちは数年前からこの大会でサポートを担当してくれており、絶え間なく湧き出るバイタリティとキレのある抜群のトークセンスに、出会った頃からずっとノックダウンされ続けています。おもちは私よりも若年ではあるものの、こんな人間になれたのならと、私が目標にしている人のひとりです。イントネーションは「お↑も↓ち↓」で、食べ物の「お↓も↑ち↑」とは区別しなければなりません。

●足の違和感

川湯ふるさと館に戻りコントロールセンターに着座したのですが、かなり前から足の裏に違和感を感じていました。靴下を履いているのに裸足で歩いているような感覚です。不思議に思いながら足の裏を見てみると、

このエキセントリックな事態を、実行委員のかわけんこさんが撮影してくださいました

両足ともに、かなり大きな穴が開いていました。そりゃ裸足で歩いている感覚にもなるものです。幸運にも、周りにいたスタッフのみなさんがゲラゲラと笑ってくれました。この靴下もこんな風に笑ってもらえて本望でしょう。大会終了後、この靴下は無事にゴミ箱行きとなり、天寿を全うしました。

●最後の誤算

リモート実行委員のドロンジョ様より、最後尾の位置情報が届きました。8CPまであと2kmくらいの場所を歩いているそうです。私は、結果的にはこれで最後となる徒歩参加者数情報共有を投稿しました。

最後尾グループが7CPに到着した時点での私の想定では、現在地と推定徒歩速度から考えるに、最後尾グループはAM9:50~10:10くらいに8CPに到着すると計算していました。この8CP到着予想時刻だと、グランドフィナーレ(最終ゴール受付)のAM11:00に間に合うかどうか未だ判断がつかない状況です。

少し前にも触れていた8CPの到着予想時刻(AM7:22に投稿)

私の計算が誤っていたのか、急勾配の下り坂を考慮しきれなかったのか、想定外のペースで進んだのか、夢を見ていたのか、脳の回転が停止してしまったのか、何かの魔法をかけられたのか。全く心の準備をしていなかった出来事が、サポートLINEに投稿されました。

[ep.10]30時間の結末 につづく