【音楽雑記】#72 古内東子「逢いたいから」「誰より好きなのに」(1993年①)
古内東子の2枚目のシングル「逢いたいから」がリリースされたのが1993年の10月。夜中にテレビのCMか何かでこの曲のサビが流れてきたのが耳にとまった。歌手名と曲名を覚えてCDを買いに行った。
「逢いたいから」
改めて最初から曲を聴いて、まるでドラマをみているように完全に映像が浮かぶ歌詞だと思った。
まず冒頭の数行で2人の年齢や性格や関係性が想像される。
季節は冬で男性は一人暮らし。外に面したアパート。覗き窓がついたドアから見ると彼女は肩をすぼめ白い息をしてドアが開くのを待っている。彼女はこの男性と共通の友人と付き合っていて付き合いだして間もなく嬉しくてしょうがない。そしてこの男性の事をものすごく信頼して心を許している。性格は明るいが繊細、でもちょっと空気が読めないところがある。抱えるほどの買物袋で買ってきてきっちり料理をしようとしている、、、とか。
そしてサビでは男性のどうしようもなく切ない想いがあふれでる。
この曲には何らかの脳内物質を刺激するのか、何度もリピートして聴いた。
凄い新人が出てきたなと思った。調べると当時まだ21歳。
既にブレイクしていた20代前半の槇原敬之もすごいと思っていたが、女性の大物新人が出てきたと思った。
そういえばちょっとした共通点だが、「逢いたいから」の歌詞も槇原敬之1992年の「もう恋なんてしない」のサビの歌詞のように最後で文章で意味をひっくり返している。このまどろっこしさも魅力だ。
槇原敬之も 古内東子も 恋愛や人生の機微を繊細に描く達人だ。
「買い物袋」や「キッチン」「料理」などのアイテムを使って歌詞を映像化しつつ、感情を表す描写をくわえながら、色々な想いを考え続ける。
気持ちはすれ違うし、お互いの想いはかけ違えてしまう。
次の記事を読むと“恋愛の教祖”と呼ばれることに違和感があり、自分は「ああでもない、こうでもない、どうしたらいいんだろう」と言っているだけで全然恋愛を導いていない」と答えている。
「誰より好きなのに」
多くのアーティストにカバーされている名曲「誰より好きなのに」の歌詞もああでもない、こうでもないと、まどろっこしい。
J-POPの中には
「桜舞い散るこの道で 君への想いを胸に抱き
強い気持ちを忘れずに
いつまでもこの手を離さない」
、、みたいな感じで気持ちに迷いがなく、身も蓋もない歌詞も多いが、古内東子は迷い、結論が見えない中でも考え続ける。
槇原敬之と古内東子が共演した「誰より好きなのに」が2013年にリリースされている。槇原敬之の歌の説得力が半端ない。涙腺を刺激する名作だと思う。
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