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ChatGPTは国際特許分類を判定できるか

1.はじめに


特許の願書には国際特許分類(IPC)を記載しなければいけません。大抵の場合、先行技術に基づいて記載しますが、非特許文献を先行技術にした場合には、自分で調べなければいけません。この作業をChatGPTが肩代わりできるか否かを調査してみました。

2.調査方法


(1)できるだけランダムな選択条件で特許公報をピックアップするため、7000000から順番に調査しました。母集団に技術分野の偏りがあるといけないためです。また、特許査定を受けたものに限定することで、特許庁の審査を受けており、出願人が付与した国際特許分類がそもそも不適切であった場合を除外します。
(2)ChatGPTには、発明の名称、課題、請求項1の文章に続いて、「この発明の国際特許分類を教えて」とプロンプトに記載しました。

3.調査結果

3.1.特許第7000000号「排水処理方法」

(1)特許第7000000号に付与されている国際特許分類は以下です。
C02F 1/56 (2006.01)
C02F 1/52 (2006.01)
C02F 1/28 (2006.01)
C02F 1/461 (2006.01)
C02F 9/02 (2006.01)
C02F 9/06 (2006.01)
C02F 9/04 (2006.01)
G21F 9/06 (2006.01)
G21F 9/12 (2006.01)

(2)発明の名称で問い合わせ
 発明の名称「排水処理方法」で問い合わせた結果、C02F1C02F9をメイングループまで当てています。あと、「G21F9 放射性汚染物質の処理;そのための汚染除去装置」については予測できていません。

(3)課題で問い合わせ
 課題「従来のような活性炭の吸着量に制限されない排水処理方法」で問い合わせた結果、C02F1/28 をサブグループまで当ててきました。

(4)請求項1で問い合わせ
 請求項1で問い合わせた結果、C02F1/28C02F1/52をサブグループまで当ててきました。本件をChatGPTが判断した結果は、結構よい精度じゃないでしょうか。

3.1.特許第7000001号「遊技機」

(1)特許第7000001号に付与されている国際特許分類は以下です。

A63F 7/02 (2006.01)

(2)発明の名称で問い合わせ
 発明の名称「遊技機」で問い合わせた結果、A63F7がサブグループまで当たっています。他にも色々と候補とその説明を併記してくれています。

(2)課題で問い合わせ
 課題「不正行為に対する抑止力の向上を図ることが可能な遊技機」で問い合わせました。強くG07F17を推薦されたのですが、もしかすると米国特許ではスロットマシンの発明にG07F17が付与されているのでしょうか。

これは発明の名称 "slot machine" の米国特許に付与されているIPCを調査した結果です。予想とおり、"slot machine" の米国特許付与されている主なIPCは、A63F13/00, A63F9/24, G07F17/34, G07F17/32, G07F17/00 です。推定ですが、ChatGPTは米国特許公報を学習しており、これをベースに国際特許分類を判定してているのでしょう。

(3)請求項1で問い合わせ
 請求項1で問い合わせた結果、ChatGPTの回答は、正解からどんどんズレてきました。
 遊技機(パチンコ)の発明について、ChatGPTはうまく予測できません。恐らくChatGPTが学習した米国特許には遊技機(パチンコ)特許が無いためだとおもいます。

3.3.特許第7000002号「フォークリフト用ルーフ」

(1)特許第7000002号に付与されている国際特許分類は以下です。
B66F 9/075 (2006.01)
 この分類は、どうやら、最新のIPC8では廃番となった国際特許分類のようです。本件の出願日は令和2年5月28日なので、本当に最近に廃番になったのだとおもいます。

(2)発明の名称
 発明の名称「フォークリフト用ルーフ」で問い合わせた結果、候補のうちひとつにB66F 9/075 - フォークリフトの構造 をずばりと当てています。
 しかし、このIPCは、既に廃番なので新たに付与できないのですね。これは、ChatGPTの学習範囲が1年半前の情報だから、IPCが廃番になっていることは情報として学習されていないか、または廃番前の情報に引っ張られているのだとおもいます。

(2)課題で問い合わせ
 課題「走行時に発生する振動によってルーフ板が破損することを防止することができるフォークリフト用ルーフ」で問い合わせました。プロンプト情報が増えたのに候補が増えて絞り込めないのは何故でしょうか。

(3)請求項1で問い合わせ
 請求項1で問い合わせると、ChatGPTは、B66F9/075 を当ててきました。しかし、B66F9/075は、廃番になっている国際特許分類なので、願書に書くと特許庁に補正されてしまいます。そしてChatGPTが追加で挙げてきたF16Bは、視点としてはあり得るとおもいます。
 ところで、F16Bは公式に定義されている説明は、「構造部材または機械部品同志の締め付けまたは固定のための装置,例.くぎ,ボルト,サークリップ,クランプ,クリップまたはくさび;継ぎ手または接続(回転の伝達用継手F16D)」なのですが、ChatGPTの説明は「一般的な固定または固定の解除方法」であり、相当に意味を独自解釈した内容となっています。

3.4.特許第7000003号「架台運搬車」

(1)特許第7000003号に付与されている国際特許分類は以下です。
B60P 3/00 (2006.01)
B62B 3/10 (2006.01)
 どうやら、最新のIPC8では廃番となったIPCのようです。本件の出願日は令和2年9月25日なので、本当に最近に廃番になったのだとおもいます。

(2)発明の名称
発明の名称「架台運搬車」で問い合わせた結果、B60P,B62Bを、サブクラスまで当てています。

(3)課題で問い合わせ
 課題「走行時に発生する振動によってルーフ板が破損することを防止することができるフォークリフト用ルーフ」で問い合わせました。B62B3/10が割と近いものを当ててきたのですが、B60P3/00が予測から漏れてしまいました。

(4)請求項1で問い合わせ
 請求項1で問い合わせました。G62B3/10をメイングループまで当ててきたのは課題の問い合わせと同じですが、新たにF15B1/00, F15B3/00を提示してきました。これは「昇降用油圧アクチュエータ」を考慮したものだとおもいますが、これはこれで、出願人が国際特許分類として付与していてもよかったのではとおもいます。

3.4.特許第7000014号「AC/DCコンバータ、駆動回路」

(1)特許第7000014号に付与されている国際特許分類は以下です。
H02M 7/12 (2006.01)
 なお、特許第7000004号は遊技機であり、技術分野の被りがあったため、番号を10だけ進めたものを対象としました。

(2)発明の名称
発明の名称「AC/DCコンバータ、駆動回路」で問い合わせた結果、H02Mをサブクラスまで当てています。H03Kは、駆動回路に引っ張られた結果でしょう。ChatGPTは、文章を単語分割して各単語に該当する国際特許分類を引いているようです。

(3)課題
 「中・大電力適用時にも高効率で交流入力電圧を直流出力電圧に直接変換することのできるAC/DCコンバータ」で問い合わせました。ChatGPTの答えは、発明の名称で問い合わせた結果と同じ H02M1/00 です。

(4)請求項1
 請求項1の内容を記載して問い合わせました。すると、ChatGPTは、H02M3/00,H02M3/335,H02M3/338を勧めてきました。H02M3/00 の正しい説明は「直流入力一直流出力変換」なのですが、ChatGPTの説明は「交流入力と交流出力、または交流入力と直流出力を持つ変流装置(コンバータ)」であり、誤っています。

上記は、発明の名称"AC/DC Converter" の米国特許に付与されているIPCを調査した結果です。付与されているIPCの1版の順位は、H02M3/335です。やはりChatGPTは米国特許公報を学習して国際特許分類を判定してているのでしょう。

(5)本件のファミリー特許 US-B2-010483859
 本件のファミリー特許 US-B2-010483859には、H02M3/335の国際特許分類が付与されています。このように、各国特許庁は、基礎出願の国際特許分類とは独立に、当該国における出願の国際特許分類を決定します。
 本件のファミリー特許 US-B2-010483859 のClaim1をChatGPTに問い合わせた結果、H02M3/335 を当てています。やはり、米国特許の判定には強いようです。

3.6.特許第7000015号「濾材の製造方法」

(1)特許第7000015号に付与されている国際特許分類は以下です。
B01D 39/16 (2006.01)
B33Y 10/00 (2015.01)

(2)発明の名称
発明の名称「濾材の製造方法」で問い合わせた結果、B01D39/16をずばり当てています。「B33Y10/00 付加製造の工程」は、この記載からでは難しいでしょう。

(3)課題
課題「従来よりも製作が簡易である濾材の製造方法」で問い合わせた結果、メイングループのB01D39までしか予測できなくなりました。

(4)請求項1
請求項1で問い合わせた結果です、メイングループのB01D39までしか予測できなくなりました。そして、B01D39/16を的確に当てると共に、付加製造(いわゆる三次元印刷)に係る国際特許分類のB29C64/00を提案しています。B29C64/00のの説明を見ると、「付加製造,すなわち付加堆積,付加凝集または付加積層による3次元[3D]物体の製造,例.3D印刷による,ステレオリソグラフィーによるまたは選択的レーザー焼結による」と記載されています。この国際特許分類が付与されてもよいのではないでしょうか。

3.7.特許第7000016号「レーダターゲットシミュレーションデバイス及び方法」

(1)特許第7000016号に付与されている国際特許分類は以下です。
G01S 7/40 (2006.01)
G01S 13/931 (2020.01)

なお、G01Sは、IPC8最新版では廃番となっています。

(2)発明の名称
発明の名称で問い合わせた結果、G01S13を当てています。

(3)課題
課題で問い合わせた結果、G01S7 を当てています。何故かG01S13は候補ではなくなりました。

(4)請求項1
請求項1で問い合わせた結果、ChatGPTは、G01S7G01S13 の両方を予測しました。予測は概ね正しいのですが、これらの番号は廃番されており、新たに願書に書くことはできないことに留意すべきです。

(5)ファミリー特許  US-B2-010527715
 本件のファミリー特許 US-B2-010527715には、G01S7/40の国際特許分類が付与されています。
 本件のファミリー特許のUS-B2-010527715のClaim1で問い合わせた結果は、日本語の請求項1で問い合わせた結果とほぼ同じです。

3.8.特許第7000017号「書き味向上フィルム」

(1)特許第7000017号に付与されている国際特許分類は以下です。
G06F 3/041 (2006.01)
B32B 27/20 (2006.01)
G02B 5/02 (2006.01)

(2)発明の名称
 発明の名称「書き味向上フィルム」で問い合わせると、G06F3/041をサブグループまで当てた他、B32B27G02B5も当てています。

(3)課題
 課題で問い合わせると、G06F3 (サブクラス)までしか当たらなくなりました。B32B27G02B5は引き続き当てています。

(4)請求項1
請求項1で問い合わせた結果も、課題で問い合わせた結果と概ね同一です。ただし活性エネルギー硬化樹脂の国際特許分類 C09D133/00, C09D183/04が追加されています。

3.9.特許第7000018号「冷却水路構造」

(1)特許第7000018号に付与されている国際特許分類は以下です。
F02F 1/14 (2006.01)
F01P 3/02 (2006.01)
F01P 5/10 (2006.01)

(2)発明の名称
 発明の名称「冷却水路構造」で問い合わせると、F01P3を当てています。しかし、F02F1F01P5は当てられていません。

(3)課題
 課題で問い合わせると、F01P3を当てており、その他は外れているのは発明の名称と同様です。

(4)請求項1
請求項1で問い合わせた結果、F01P3 まで当てていますが、それ以外を予測していないのが特徴です。「F01P5 冷却空気または液体冷媒」「F02F 
燃焼機関のシリンダ,ピストンまたはケーシング」は当てられていません 

3.10.特許第7000019号「波長選択装置及び分光測定装置」

(1)特許第7000019号に付与されている国際特許分類は以下です。
G01J 3/26 (2006.01)
G01J 3/36 (2006.01)
G01J 3/06 (2006.01)
G02B 26/00 (2006.01)

(2)発明の名称
 発明の名称「波長選択装置及び分光測定装置」で問い合わせると、波長選択装置と分光測定装置それぞれについて国際特許分類を示してきました。波長選択装置に係るG02Bと、分光測定装置に係るG01Jを当てています。

(3)課題
 課題「フィルタの正確な波長選択特性を得ることが可能な波長選択装置及び分光測定装置」で問い合わせても、発明の名称とほぼ同様でした。

(4)請求項1
請求項1で問い合わせた結果、波長選択装置に関する国際特許分類が予測されなくなりました。G01J3 の予測を当てています。

(5)請求項10
本件発明は請求項10に波長選択装置が記載されていましたので、これをChatGPTに問い合わせると、G02B26を当てることができました。カテゴリが異なる独立請求項はそれぞれChatGPTに問い合わせるとよいようです。

4.おわりに

 ChatGPTを使うことで、或る程度まで国際特許分類を判定させることが可能です。判定のためには、例えば請求項1または課題に続いて、「~の国際特許分類を教えて」とChatGPTのプロンプトに記載して問い合わせればOKです。発明の名称だけでも、IPCサブクラスまでは予測可能です。
 但し、ChatGPTが提案する国際特許分類は、米国風であること、廃番になった国際特許分類を考慮してくれないことに留意する必要があります。言い換えると、米国出願時に付与する国際特許分類は、よりよい精度で予測可能です。また、ChatGPTによる国際特許分類の説明は、国際特許分類の正式な定義から外れている場合もあり、確認が必要です。

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