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彼女達から、私達に─ガーデン・ロストの話


「ガーデン・ロストが重版となります」
そう聞いたとき、まず最初に「しまった」と思いました。正確には
しまった、『あの』本、すぐに出てくるかな?
と思ったのですが、存外、作業部屋からすぐに出てきて、むしろ驚いて、感じ入ってしまいました。今回は、その話をします。

10年以上作家をしてきましたが、わたしは「初稿が美しい」作家では決してありませんでした。誤字脱字に表記揺れのオンパレード。そういえば、大学の卒業論文口頭試問でも、「大変いい論文ですが誤字脱字が多すぎる」と言われました。恥ずかしい。

でも今の初稿は比較的綺麗です。というのも、気心がしれて大変作業が丁寧な友人が、内部校正に入ってくれているので。いつも助かっています。で、その友人は確か、ガーデンロストの時期にはまだ校正には入ってもらっていなくて……出版されたすぐあとに、「重版でなおしてね」と付箋をたくさんつけた本をくれました。本当に細々とした修正でした。多分読み比べても修正点の発見は難しいと思います。
でも、結局ガーデンロストは重版がかからず……(とはいえ初版も多く大変手応えのある出版でありましたので、十二分に売れて届いた、という印象です、この本は。この本も)

それから10年の月日がたち、だいたい引っ越しは4回ほどしたかな? でも、付箋のたくさんついた本は常に、わたしの作業机の隣にの本棚におさまっていて。探し始めて数分で出てきた時、なんともいえない感慨を覚えました。ずっと、一緒にきたんだなと。
なお、付箋をつけてくれた当の友人は、「そんなの渡しましたっけ?」と言っていましたが、間違いなく彼女の字でした。
10年の月日と想いを重ねて、「第二版」ここに出来となります。

せっかくだからもう一冊買って欲しいだなんて、厚かましいことはいえないんですけども。まあ、もう一冊、買ってくれるひとは、いるだろうから。ぜひこの機会に、人にプレゼントしたり、おすすめです。(相手は選んでね!)

最後に、この本がどんな物語か少しご紹介します。

まだ携帯電話を持っている子が少数派だったあの頃。
地方都市の高校生であるエカ、マル、オズ、シバの四人は、四人きりの放送部員で、狭くてちょうどいい放送部室を彼女達の「花園」としていた。
「優しい人になりたい」エカと、「ダーリンがたくさんいる」マル。「自分ではない誰かになりたい」オズと、「自分も他人も大嫌い」なシバ。四つの季節とともに語られる、彼女達の「失花園」。

失われていくものばかりが美しく感じられる、と当時のあとがきでわたしは書いたのだけれど。
10年の月日で、彼女達はなにひとつ、失われることはありませんでした。
もちろんそんなことは、10年前のわたしには、想像もつかないことだったのですけれど。

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