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27歳、人生で初めて好きな人と付き合う


2022年8月15日。この夏毎日のように電話してわたしなりに本気で向き合った男の子を切った。泣きながら連絡を絶った。彼はバセドウ病を患い、日本に一時帰国中のアメリカの大学生だった。わたしは自分がどんどん削られていくような感覚になって、最後のほうはもう立っているのもようやっとというくらいだった。彼は痛みを抱えながらも生きる選択をし続けているひとだった。ひどいことたくさんされたけど、うまれてはじめて、おなじくらいの傷をもった他人と出会えたことはわたしにとって大きなことだった。さようならを決めた日、彼のことを歌にした。もう一生会うことはないけど生き抜いてねって気持ちを込めた。

2022年9月。マッチングアプリである男性と出会った。31歳、会社員。デートプランをPDFで送ってきたところが面白くて興味を持った。可愛いと5分に一回ペースで言ってくるところも、大事にしてくれるんじゃないかなんて思ってしまった。我ながらチョロい。でも前の人のことがあるので「最初だけだろうな」とわきまえていた。正しかった。

学祭ライブだったっけな

2022年11月。文化の日にドミコというバンドのライブを一緒に見に行った。5回目のデートだった。「お付き合いしたいなと思っているのですが…」とおずおずともじもじ言われ、無事付き合うことに。3回目で告白がデフォみたいになってるじゃないですか。世の女子たちよ、安心してください。5回目で付き合えた女がここにいます。

そして本日。2023年4月。明日で付き合って5か月を迎えるわけですが、なかなか普通とはほど遠い付き合い方をしている。二週間連絡来ないのがザラだし、2ヶ月に一回会うのさえままならない。どういうことだよ。詐欺だろ。付き合う前、「正直毎日でも大丈夫です」と言ってたんですよ。ところがどっこい。蓋を開けてみると社畜。一日2時間睡眠ってナメてるのか。連絡不精なことをたしなめると「フラれても仕方がないと思ってる」。フラれても仕方がない程度の気持ちでわたしと付き合ってるのか…?こんなかわいくてやさしくてイイ女であるこのわたしと…?!少し下世話な話まで持ち出すと、致す前にシャワーを浴びてくれなかったせいでわたしは無事膀胱炎にかかり、その上ゴムをつけないというマジでどうかしてる行為のせいで翌日アフピルに一万課金しました。最低。なんなら同棲の話を初回デートで持ってきたくせに全く行動にうつさない。詐欺ですこれは。完全に。最後にわたしがいまだに根に持っていること堂々の一位は誕生日をスルーされたことですね…たぶんこれは死ぬまで言い続ける。許さない。しかもマッチングアプリ退会してくれてないんですよね。見つけた時頭真っ白になった。

会えないし連絡も全然してくれないし誕生日におめでとうも言ってくれないしマッチングアプリ退会してくれないし奢るって言ったくせに高いとか言うのムカつくし、なんか突然ドイツ語話しだすのキモいし、私が倒れても心配するどころか怒られるのわけわかんないし、付き合った途端可愛いとか言わなくなるのマジで傷つくけど、好きなんだよ!なんでだ。なんでなんだ…… それはさ、傷つけられるしムカつくことされるけどわたしのこと、選んでくれたからだよ。可愛いって言ってくれたからだよ。手、繋いでくれたからだよ。頭を撫でてくれたからだよ。ホームで後ろから抱きしめてくれてあたたかくて安心したからだよ。手のひらの温度がわたしにはちょうどよかったからだよ。LINEの言葉選びがしっくりくるからだよ。誘う時、笑をつけないところとかね。もう今じゃそんなことないかもしれないけど、あの時確かに、けいちゃんじゃなきゃ嫌って言ってくれたからだよ。

でも、LINEは言葉が少なくなって、デートもドタキャンするし、わたしより仕事を優先するし、遊びに行ったりもしない。同棲しようなんて言うくせにいつまで経っても進まないどころか、会うこともままならない。しあわせな気持ちより、悲しいきもちになる日の方が多い。ずっと。どうしたもんだかなあ。毎日つらくて、帯状疱疹でるくらい自分で自分のこころ、追い詰めてしまっている。別れを考えてしまうことはある。わたしは笑いのツボがちょっとみんなと違くて、だから彼の笑いのセンスがわりと合うことがあまりに大きい。抗えぬ関西の血…。つらい。本当にこの「同じポイントで笑える」という一点のみで別れるに至れないまである。さて。いつまでもつかしら。永遠は来ない?

ここからは追加です。あのあと会えたのは6月29日。私と彼が最後に会った日です。じゃあこの日に別れ話があったのか?と思うでしょうが、ありませんでした。ぎこちないながらも楽しく会話して、終わった。でも、きっと彼は別れを切り出せないだけで(というか話すこと自体面倒で諦めていた)この日で最後にしようと思っていたんだろうな。わたしは、いい彼女でいたかった。彼の仕事への理解があって、寂しいとかウザイこと言わなくて、返信ないと鬼電するとかしなくて、物分かりがいい女に徹してた。でも裏を返せばそれは「相手にとってだけ」都合が良い彼女でもあった。わたしが我慢しているだけの構図だった。最後に会ったその日の夜に話がしたいから電話できるか聞いたけど、既読無視で一週間。追いスタンプは未読無視で一週間。

7月13日。どういうところが好きだったかを手紙に書いて送り、別れたということでいいですかと聞いた。返事はなかった。それが答えだった。32歳にもなって音信不通で終わらせるなんて、これが大人の別れ方ですよで罷り通るならこの世はふざけていますね。結婚や同棲の話をして、身体を重ねたりもして、お互いの時間をこんなにも共有してなお、8か月付き合ってなお、面と向かって話し合う勇気もないなんて。呆れてしまう。情けないというか、それどころじゃないよね。そもそも恋愛って良い面ばかりがフューチャーされるけど、人と人が向き合うんだから面倒なものです。大人になるって痛みも全部背負って決断するということなので。自分のためだけじゃないですよ、他人のために決断して罪悪感を認める覚悟です。人を傷つける覚悟。

許すことは正しいという風潮があります。許すことであなたが救われますとか神様ヅラした人間が説いてきたりもします。クソくらえですよ。許さなくていい。呪っていい。相手の不幸を祈ってもいいんです。でも一つ、あなたがそれをしなくても彼は許されないから安心して恨み辛みを手放してもいいとも言いたい。なぜかというと、世界はわりとうまくできているからです。誰か一人にとってだけ都合が良く、甘えたり、忖度したり、しないのが世界だから。安心していい。彼はわたしに謝罪しない限り、神様は一生、彼にまともに恋愛をさせてくれない。そういうもんです。

元彼は熱しやすく冷めやすい人だからどうせ新しく彼女ができたところで半年もしたら冷めるんでしょうな。それを踏まえない上でも、付き合った女に別れも告げず逃げ、謝りもせずのうのうと生活してるあなたは一生いい恋愛できないから。世界、そんな甘くないから。等価交換ですよ、この世は。全部返ってきますよ。そういうもんだよ。

古書ビビビにて。


彼がわたしに買い与えた本は売ってお金にした。数日後、9月2日は一年前、ちょうどわたしたちが初めて会った日だ。下北沢の中華料理店。黒いワンピースとスーツ姿。忘れないでしょう。

最後に会った日、Galileo Galileiの新譜の話をした。きみはわたしに、どの曲が好き?と聞いた。I Like Youが好きだって伝えた。君に出会わなきゃよかったってそう思うくらいには好きだったよ。

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