見出し画像

採用面接で嘘をついたので本を買った

(この記事は以下のアドベントカレンダーに参加しています)


 採用内定をいただきました。営業職です。


これは何も関係がないポケモンのサンドイッチ。


 いただいたのは12月中旬。な~んでこんな時期になったかというのは、細かい事情なので省く。先延ばしにしすぎた結果ということでいい。

 オンラインでは2回ほど会社説明・採用面接を受けたことがあったが、実際に相対する面接は初めて。その採用面接はグループ面接で2(学生) vs 5(会社)だった。圧倒的人数不利。ゼノブレイドだったら迷いなく「逃げる」コマンドを選択している。なんだったら隣に座っている人も、数少ない採用枠を奪い合う敵と言えるかもしれない。じゃあ1(わし) vs 6(その他)だ。インペルダウンのLEVEL5でルフィを守るため軍隊ウルフと戦うボンクレーみたいなものである。


 面接にあたり、直前に「自己紹介シート」的なものを書かされた。いまいち何を書いたかを詳しく覚えていないが、このカードで一番曲者だったのが「趣味」の欄だったことは覚えている。自分で言うのもなんだが、僕は多趣味だ。だから実際に「ご趣味は?」と聞かれると、本来あまり生まれないであろうはずの「間」が生まれる。「さて、どれを話したものか……」という考えが渦巻く。広く浅い人間の弊害と言える。



 悩んだ末に、まず「読書」と書いた。



 嘘だ。


 いや、厳密に言うと嘘ではない。本を読むのは大好きだ。中学生のときには池井戸潤の『オレたちバブル入行組』(ドラマ『半沢直樹』の原作)とか、普通に夏目漱石の『こころ』とかを図書室に行って読んでいた。

 しかしここ1年は、趣味と呼べる読書をほとんどしていない。読んだ文章と言えば卒業論文のための言語研究関係の論文や書籍ばかりである。興味のある研究なので苦痛ではないが、必ずアウトプットが目的のインプットなので面白味が無い。


 というわけで「読書」と書いたあと、「釣り」「スキー」「ゲーム」などと書き、提出した。どれも本当に好きなものなので、しれっとした顔でしれっと出した。


 まさか聞かれるとはね、「読書」について。

 隣に座っているもう一人の入社希望者は趣味に「洋楽」と書いたらしく、質問した側の会社の方と意気投合していた。その段階で「マズい」と思ったが、趣味を書く欄の一番左に一番無難だと思って書いた読書について、まんまと聞かれた。


 「最近読んだ本で印象深かったものはありますか?」という質問だった。キツすぎる。僕は0.5秒で脳内を検索して、本のタイトルを言い放った。


 「『キリンに雷が落ちてどうする』……ですね。」



 嘘だ。


 正真正銘、嘘である。


 『キリンに雷が落ちてどうする』は、品田遊(ダ・ヴィンチ・恐山)が毎日note上で更新している日記「居酒屋のウーロン茶マガジン」を加筆修正し書籍化したものである。


 僕はこの本を読んでいない。しかし「ウロマガ」は講読している。その採用面接は『キリン』発売からあまり日が経っておらず、自分がインターネットで観測できる範囲でこの本が話題になっていたために、記憶に残っていた。


 「エッセイというか随筆なんですけど、日常の中で感じたことをこういう視点で見れるんだ、とか、なんとなくキツネにつままれたような感じになって、良かったですね」と続けた。これは『キリンに雷が落ちてどうする』の感想ではなく、「居酒屋のウーロン茶マガジン」の感想である。まあまあ嘘だ。


 その質問はスルっと終わり、面接は終了。内定をいただいているので、その面接には通ったということになる。


 改めて考えてみると「読書」を掘り下げられた場面で少しでも言葉に詰まったら、かなり印象が悪くなっていたはずだ。例えば、自分で考えたり構想したりするタイプの質問なら、多少言葉が詰まっても問題ないだろう。しかし、あの場面はただ単純に自分の体験、しかも趣味について話す場面だったので、あそこで本の名前がパッと出てこなかったら、この内定は無かったかもしれない。



 というわけで、買った。嘘の材料になってくれたお詫びの気持ちと、自分の罪を清算する気持ちをない交ぜにしながら、Amazonのカートに3000円の靴と一緒にぶち込んだ。自分の人生を救ってくれた本として大事にしようと思う。




 まだ「はじめに」しか読んでいない。



 これは本当です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?