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アベノミクスによって『雇用が改善したから、実質賃金が下がった』は正しいか

アベノミクスによって『雇用が改善したから、実質賃金が下がった』と主張する者がいる。
今回はその主張の正当性を検討していく。

倉山満氏の主張

この記事の中で倉山氏は下記のモデルを用い、雇用改善により実質賃金が下落したと主張する。

 ある月の3人の給料である。
Aさん 28万円
Bさん 20万円
Cさん 0円(失業中)
 これが翌月、変化したとする。
Aさん 30万円
Bさん 22万円
Cさん 17万円(就活成功)

実はこれだと、名目賃金の説明にしかならない。実質賃金を説明するなら本来はこれに「物価の変動」も見ないといけないが、説明を簡略化するために省いたのだろうか。せめて、『物価は変動していない』と記述するべき。

 ちなみに3人の賃金の合計、48万円から69万円に、21万円増えている。失業者が減ったのだから当たり前だ。さらに平均賃金は24万円から23万円に減っている。平均賃金は実質賃金とほぼ同じである。

「平均賃金は実質賃金とほぼ同じである。」と倉山氏は説明しているが、これは名目賃金の説明である。実質賃金の説明ではない。

ただし、これ以外にもこのモデルの説明には致命的な欠点がある。

新規雇用者割合を過大評価しすぎている

このモデルの致命的な欠陥は新規雇用者を全雇用者の3人に1人としていることである。現実ばなれし過ぎている。

実質賃金_就業者数_対前年比_修正版

上のグラフは「実質賃金指数(事業所規模30人以上)」と「就業者数」の前年比である。
第二次安倍政権下の2013年から2019年までは毎年就業者数が増加している。しかし、実質賃金は2016年と2018年以外下落しており、通算でも実質賃金は下落している。

また、このグラフを見ればわかるが、就業者数が増加しながら実質賃金が上昇している年は珍しくもない。

既存雇用者の賃上げが十分に行われているのなら、実質賃金は上昇する

倉山氏のモデルを検証すると、既存雇用者の賃上げは約8%で、新規雇用者は既存雇用者の約65%の賃金で雇われるということが分かる。

仮に、24人が既存雇用者で新規雇用者が1人とし、他条件は倉山氏のモデルと同一で算出すると、約6.3%平均賃金が上昇する。

結論

新規雇用者の増加および物価上昇の影響を上回るほど、賃上げが行われていれば実質賃金は上昇する。
第二次安倍政権下では賃上げが不十分だったから、実質賃金は下落した。


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