雪だるま
小さい頃、雪が降った日。
私は公園で友達と遊んでいた。
冷たさに耐えながら小さな手で雪だるまを量産していたが、どこからか現れた同じくらいの年の子に全て破壊された。一個作っては破壊され、またつくっては破壊され、を繰り返していた。
その破壊神の友達とは高校生になった今でも交友関係があるが、雪だるまに代わり、今度は私の周りの人間関係を破壊している。
「沙耶、一緒に帰ろう。」
「うん。」
破壊神こと杏梨は、帰り際いつも下駄箱で待ち伏せて声をかけてくる。
今日はクラスのなんとか山さんの当たりが強かったなとか、1週間くらい彼氏と連絡取れてないなと思いながら杏梨の横顔を見つめる。
視線に気づいたのか目があう。微笑みかけてくるとまた前を向いた。
いつもより足取りが軽く、歩く後ろ姿には音符が続いているようにも見える。こんなに機嫌が良い日は私に対して嫌がらせをする予定があるか、もう何かしているかだ。
「ねえ、カフェ寄っていこうよ」
「私課題あるから帰りたい。」
「ちょっとだけ!今日から新作ドリンク出てるの!
絶対沙耶も好きなやつだから、お願い!」
「しょうがないな。ほんとに少しだけだよ」
「やった!ありがとう!!」
人懐っこい笑顔を見せているが、腹の中では一体何を考えているのやら。
店の前にボードが出ていた。確かに私の好きな抹茶味のドリンクが新作のようだ。
レジで注文を済ませ、杏梨のお気に入りの席に着く。太陽の光が差し込む窓際の席で、SNSに投稿する用の写真を撮ると、ようやく自由が与えられた。
ドリンクはこの季節にはやや冷たいが、予想通りの甘くて美味しい抹茶とチョコの味がした。
投稿された写真を見ると、ドリンクを受け取ってすぐに壁を背景にして撮った方が採用されたようだ。淡いフィルターとそれに合うように程良く散りばめられたハートの加工が施され、いかにもふわふわとした可愛らしさが溢れる杏梨のビジュアルを象徴する投稿となっていた。
私はというと今撮ったばかりのドリンクを主役にしたなんの加工もない投稿をして、それにすぐ杏梨がいいねで反応していた。
ドリンクの上に添えられたうさぎ型のホワイトチョコを口にいれると、
「沙耶、あってほしい人がいるんだ。」
これから起きることはなんとなく想像がつく。
ああはやく終わってほしいな。
「えー誰?」
「もうすぐ来ると思う」
5分も待たないうちに杏梨の隣は埋まった。
「え、どうしたの?」
「ごめんずっと連絡しなくて。」
「沙耶あのね、怒らないで聞いてほしいんだけど…」
1週間も無視されていた彼氏にやっと会えたと思ったら、別れてほしいと告げられた。
まあ予想はついていたけれど。
また杏梨が奪ったのだ。
私はその後、物分かりのいい彼女を演じて円満にお別れをした。
「ねえ、実は怒ってるでしょ。」
「いや別に。ただまあ杏梨のこと好きになっちゃう人多いなあとは思うけど。」
「…」
「ほんとに怒ってないよ!今度こそ続くといいね。」
本心だ。怒りなんて全く湧いてこない。
「…沙耶は…沙耶はさ、
私のこと好き?ずっと一緒にいてくれる?」
目の前にいる彼女に破壊神の面影はない。
人の生活を奪ってさぞ楽しんでいるかと思いきや、私以上に淋しそうな顔して、大きな瞳には今にもこぼれ落ちそうなほどの雫をためて見つめてくる。
身長差のせいで子どもに見えるな。
出会った頃からずっと私の後ばかり追いかけてくる。
気を引きたくて、私だけを見てと訴えてくるその行動を咎めることができないのは、そんな杏梨が可愛くて仕方がないから。
世界に杏梨以外の人なんていなくていいし、杏梨にも私が1番だと思ってもらいたい。
「もちろん。ずっと友達でいようね」
醜いエゴで世界を閉ざしてることに気づいてる?
でもきっと理想しか見えてないよね。
中身はこんなにも薄汚れているから、友達の仮面を被って隣は誰にも譲らない。
誰になんて思われてもいいよ。杏梨さえいてくれれば。
「うん!沙耶大好き。ありがとう。」
卑しい笑顔を向け、それに応える。
私がその言葉を口にする時は関係を終わらせる時。
壊れることがわかっているのにわざわざつくる必要はない。
でもまた矛盾を生み出して繋ぎ止めるのだ。
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