木のお酒の造り方 研修日記
鹿山です。
この度ご縁を頂き森林総合研究所で
研修生という名目で『木のお酒』の製造工程を
学ばせて頂く機会を得る事ができました。
その前に『木のお酒』について簡単に。
アルコール飲料の原料は主に
果実原料のアルコール(ワインやブランデー等)
穀物原料のアルコール(ビール、ウィスキー等)
人類史が始まってから何千年という歴史がありながら木本原料は存在しなかった。
それが今後存在する事となる。
それは
森林総合研究所が2020年に世界へ向け発表した
『木のお酒』の製造方法
(論文名)
Production of flavorful alcohols from woods and possible applications for wood brews and liquors.
(木材から香り高いアルコールの製造と
木の醸造酒、蒸留酒への応用可能性)
この森林総合研究所の知見をお借りし
BenFiddich✖️エシカルスピリッツ社の
共同プロジェクトとして民間として世界初となる
『木のお酒』『Wood spirits』
の蒸留所を立ち上げる計画が進行中
プレスリリースはこちら↓
鹿山は森林総合研究所が確立した知見を学ぶ為
研修生としての名目で今回『白樺の木』を使い
白樺の木がアルコールになるまでの製造工程を
学ばせてもらう機会を頂いた。
今回の研修目的は
①『木のお酒』の蒸留所を立ち上げるにあたって
何が必要か?その確認作業。
②実際に製造工程を間近で見て確認することにより新しい気づきを得る。
今回の研修は
白樺の木が蒸留酒になるまでの製造プロセス。
ざっくりと手書きで書いてみた↓
白樺→チッパー→粗粉砕→微粉砕→ビーズミル→
糖化発酵→減圧蒸留2回→白樺スピリッツ完成
これを読んでくれた方に『木のお酒』が
どのように作られてゆくか。
『木のお酒』の素晴らしさを知って欲しく
僕なりにまとめてみました。
森林総合研究所 白樺の木の蒸留酒の製造工程
【研修1日目】
〜ビーズミル事前準備及び器具の説明〜
ビーズミルは『木のお酒』を作るにあたり
他の酒類では使われない機材であり
最も重要な機材となる。
そもそもビーズミルとは何か?
ビーズ(ジルコニア素材の丸っこい粒)を使って粉体をナノ分散、微粉砕する湿式撹拌粉砕機。
ざっくり言うと白樺の木粉と水を合わせて
さらにナノレベルまで細かく破砕する装置。
ビーズミル装置の筒の中でビーズがグルングルン
回転して木粉をさらに細かくする。
(ジルコニア素材のビーズ↓)
ビーズミルで木粉を水と合わせて細かくする事により木がアルコール発酵をする事ができる。
なぜか?この図を見てほしい
木の持つ成分は
セルロース50%
ヘミセルロース20%
リグニン30%
セルロースは植物繊維の主成分で植物が持つ
炭水化物(ブドウ糖)である。
糖であるならばアルコールに変換ができる。
ただ、通常ではアルコールに変換ができない。
同じく植物が持つ成分であるリグニンの細胞壁が
プラスチックのように覆って醸す事ができない。
そのリグニンの厚さが
0.004ミリ〜0.002ミリ
よってビーズミルで0.001ミリで水と木材を破砕する事によりリグニンの細胞壁を壊し
セルロースを糖に転換する。
ここまで細かく破砕できるのが
ビーズミルという機械となる。
ビーズミルは通常はセメントやインクジェットを
作る時に用いられるがその機材を『木のお酒』用に転用したのだ。
この特殊機械があったからこそ『木のお酒』は
完成をする。
よって果実原料、穀物原料のアルコールの歴史は
人類史と共に歩んできたが木本原料のアルコールは今まで存在し得なかった。
研修一日目は主に機材の説明と機材の設置の準備で終了
【研修2日目】
〜白樺の木のビーズミル処理と殺菌〜
2日目は白樺の木を以下の工程で順に破砕。
白樺→チッパー→粗粉砕→微粉砕→ビーズミル
①チッパーでカットした状態
②カッターミルで粗粉砕の状態
③ハンマーミルで微粉砕の状態
この微粉砕で細かくした状態でビーズミルに投入
水と合わせ数時間かけビーズミルをかける。
最初の一時間から木粉が徐々にゼリー状になる。
それは木を覆うリグニンの細胞壁が壊れ
セルロースが水分を吸って膨張しプルンプルンになる。
【研修3日目】
〜白樺の木のスラリーの糖化開始〜
白樺の木をアルコールに変換させるセルロース(ブドウ糖)を分解させる糖化酵素がセルラーゼ。
こちらを投入し糖化。
前日までの白樺の木の木粉がナノレベルに破砕され白樺の木の成分であるセルロースが水を吸い
ドロドロのスラリー状になっているが、
糖化酵素(セルラーゼ)を入れる事により
セルロースが分解されサラサラになる。
【研修4日目】
〜酵母添加 発酵開始〜
セルロースを糖化し
酵母を加えアルコール発酵。
発酵器でゆっくり発酵する白樺の木↓
【研修5日目】
〜1次蒸留〜
白樺の醪(もろみ)を2回減圧蒸留する
『木のお酒』は常圧蒸留ではなく減圧蒸留で作るのが望ましい。それは木の醪(もろみ)の粘性がある為、常圧だと焦げてしまう可能性と
沸点を落としての減圧蒸留であれば木の香気成分を変質せず取り込めると踏んでいる。
【研修6日目】
〜2次蒸留〜
前回回収した1次蒸留液をもう一度蒸留し
アルコールの酒精を高める。
完成した白樺の木の蒸留酒↓
こちらは白樺の木の残渣↓
この蒸留後残渣の処理方法、活用方法は
今後の大きな課題となる。
残渣でも発酵してるので木の木粉の糠漬けとして
活用しても面白いし、
木の木粉の発酵残渣を温めて泥風呂のような形で入浴しても面白いだろう。
アイデアは尽きない。
今回の試験は『白樺の木』でした。
今後は黒文字、杉、ミズナラと試験は続く
『木のお酒』『Wood spirits』が
お客様の手元にいつか届くように
少しずつ少しずつ試行錯誤をして最高のものを
お届けしたいと思います。
この度研修生として受け入れてくださった
『木のお酒』の製造工程を確立した
森林総合研究所森林資源化学領域
チーム長 野尻昌信様
研究主任 大塚祐一郎様
誠にありがとうございました。