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モチベーションとボーナス(本紹介)

 ベンDです。大学の図書館でたまたま見つけた本が面白かったので、簡単にまとめてみます。スパーズに直接関係しているわけではありません。

 紹介するのは、『プロサッカークラブのマネジメント・コントロール・システム オックスフォード・ユナイテッドFCの事例』です。著者は、角田幸太郎さん、会計学の大学教授の方です。2020年9月30日出版でかなり新しい。

 超簡単に内容を表すと「選手のモチベをシステムで上げてオックスフォード・ユナイテッドの成績が向上しました!」です。(実際は、学術書なのでかなりカチッとわかりやすく書かれてあります)

 内容

 本書の題名にもなっているマネジメント・コントロール・システム(以下MCS)ですが、MCSとは「マネジメント・コントロール(MC)を適切、確実、効果的、そして効率的に行うための仕組み」です。MCとは「従業員が組織にとってベストな行動をとるよう促す活動を行うこと、及び、その活動を改善すること」だそうです。
 僕も今回初めて知ったので定義の説明で終わりますが、要するに「経営幹部と現場従業員の考え方に乖離がありすぎるので、双方にわかりやすいシステムを作ってつなげよう」ということです。「従業員をなまけないようにする」ではなく、「従業員に頑張り方を教える、従業員の努力を無駄にしない」ための仕組みというイメージです。

 事例として取り上げられているオックスフォード・ユナイテッドFC(以下OUFC)ですが、調査期間は13/14シーズンから16/17シーズンで、調査開始時点で当時Football League Two(実質4部)、調査中にFootball League One(実質3部)に昇格しました。

 ということで、この本で書かれていたテーマの中で僕が面白いと思った、ボーナスと選手のモチベーションとの関係の事例を紹介します。

①試合への貢献度に基づく報酬配分(ボーナス)
 試合への貢献度に基づく報酬配分とは、チームの成績と選手の試合への貢献度(出場試合数による係数)に応じて付与される給与ボーナスである。「チームの成績良かったら、お金あげますよ」ということである。これの経年的な変化を述べる。

 13/14シーズンまでは、プレーオフ出場権獲得である7位以上でシーズンを終えることができれば、ボーナス(1位~3位:£65,000、4位~7位£45,000)がチームに付与され、そこから選手の貢献度に応じてボーナスを配分する体系を採っていた。しかし、当時のOUFCはシーズン序盤に中位以下に位置付けてしまい、7位以上で終わることはなく、このインセンティブが選手のモチベーションの向上につながっていなかった。

 そこで、14/15シーズンでは、5試合ごとに暫定順位を確認し、そこで7位以上であれば、ボーナスをその都度付与する体系を採用した。しかし、この方式でも序盤に負け続けると、シーズン中に7位以上になることはなく、結果的に、9回の計測で一度も達成されることはなかった。つまり、このボーナスも支払われることはなかったのである。

 そして、翌年の15/16シーズンでは、5試合ごとの勝ち点の合計に基づくボーナスに変更したのである。具体的には、1シーズン46試合を5試合ずつに分割し、これを「ブロック」と名付け(5試合×9ブロック+1試合)、7位以上になるために必要な平均勝ち点75も、9ブロックで割り、1ブロックごとに勝ち点8以上を獲得できれば、ボーナスが付与される仕組みに変更した。つまり、1シーズンを通した順位に基づくのではなく、独立した5試合(1ブロック)で評価するようにしたのである。これにより、仮に今ブロックで成果がでなくても、次ブロックでは新たな気持ちで臨めるようになった。結果、9ブロック中、8回達成することができ、見事リーグ昇格を果たしたのである。

 なんとも単純というか、大学受験を控えた高校生でもやっていそうなモチベーション維持方法ではあるが、人間は単純にできているらしい。

②ボーナス配分の係数及びボーナス付与方式
 ①にて「試合への貢献度に基づく報酬配分とは、チームの成績と選手の試合への貢献度(出場試合数による係数)に応じて付与される給与ボーナスである」と説明したが、その「選手の試合への貢献度(出場試合数による係数)」の計測にも工夫がなされていた。

 13/14シーズンでは、「先発出場:1、途中出場:0.5、ベンチ入りのみ:0.25、ベンチ外:0」と出場試合に係数を設定し、その係数により選手ごとの試合への貢献度を計算し、ボーナスに差をつけていた。

 14/15では係数を「1、1、0.25、0」、15/16、16/17では「1、0.5、0、0」というように係数の設定にも工夫があったのだが、ここで取り上げるのは、15/16シーズンから変更した付与の方式である。

 具体的には、14/15シーズンまでは、支払われるボーナスを一旦チームに付与し、その総額を選手ごとの貢献度に応じて分配していたのだが、15/16シーズンでは、ボーナスを最初から選手個別に付与するようにしたのである。今までは先発出場の多い選手と途中出場の多い選手とが、お互いに受けるボーナス額に影響し合うことになり、先発出場と途中出場の選手とに敵対意識が芽生えてしまっていた。この変更により、先発出場の多い選手と途中出場の多い選手の受けるボーナス額が、独立することにより両者に協調関係が生まれ、チームがまとまるという結果をもたらしたのであった。

 ボーナスを付与する方法の変更という一見些細に思われることが、選手の意識に変化を生むという結果は、非常に面白い。

まとめ

 以上、経済的なインセンティブを如何にしてチーム及び選手のパフォーマンス向上につなげるかという問題を、システムを構築して解決したという事例であった。これが、経営層と現場(選手)をつなげるということである。

 他にも、試合前のロッカールームで選手に個別にメッセージを出していたが意味がなかったので、ポジションごとに行動目標を出すようになった話など、紹介したいことはたくさんあったが、書いてみると意外と長くなってしまったので、紹介するのは2点だけにする。気になった方は書籍を読んでほしい。また、今回紹介したことも変に端折って書いている部分も多く、逆にわかりにくくなっているかもしれない。本の中では、多分に一次資料が掲載されており、対戦相手の分析シートやチーム内罰金ルール表の写真等も見られ、貴重な内部資料満載です。

 加えて、著者は、単年契約の選手が多く、給与水準も高すぎないクラブにこそインセンティブシステムが大きく作用するとも述べており、プレミアのビッグクラブの選手のことを考えると、経済的なインセンティブがどれほどモチベーションに影響するのかといったことには注意する必要がある。

最後に

 AoNは、モウリーニョのマネジメントを中心に描かれていたため、選手のマネジメントに興味を持ったスパーズサポーターも多いだろう。マネジメントとなると属人的なスキルと思われがちだが、ある程度システム化できる側面もあるということでこの本を紹介してみました。
 スパーズのマネジメントに関する記事をほかにも2本書いているが、記事を補強する英語記事を探すのがめんどくさすぎて、完成させられずにいるので、おすすめの検索方法や媒体を教えてほしいです。

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