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L 新宗教の喪主さまも満足された仏教寺院

お母さまがご逝去されたということで、ふたりの娘さまからお葬式のご相談をあずかりました。当時わたしたちは自社の営業効率はこだわらず、お客様にお会いして背景をお伺いしたうえでお葬式の形態と費用のバランスを検討し、実現可能な寺院・葬儀社・式場の組合せを提案する形態をとっていました。大規模な葬儀社さん、互助会さん、個人経営の葬儀屋さんと友好関係にあったので、それぞれの利点を把握し、お客様の背景にマッチングしていました。

本件では、ご自宅の近くに親しくお付き合いいただいていたお寺があり、ご本堂でのお参りが念頭に浮かびました。外観は一般の民家のようなたたずまいながら由緒あるお寺で、本堂のお内陣が美しく整えられていて清潔感があり、定期的にピアノや弦楽コンサートも開かれていることを知っていました。お亡くなりになったお母様が郷里のお寺を大切にされていたと聞き、同じ宗派だったことも提案理由の一つでした。

ふたりの娘さまは「母も望むでしょう」と仰ってくださったのですが、ここで懸念事項があることがわかりました。それはご長男である弟さまが新宗教を信仰されていて、違和感をお感じになりそうなことが想像できたからです。

そこでお寺に三人みなさまをご案内し、背景のすべてをお話しして相談に乗っていただくことにしました。娘さまおふたりはお母さまのお気持ちを、弟さまもご自身の信仰に添ったご希望をお寺にお伝えされました。そのお寺のご住職は、まだ継承なさってから日の浅い女性。先代のご住職であったお父様もたいへんおおらかで面倒な相談事に真剣にご対応くださる方で、お嬢様もご主人様もそのお考えを引き継がれていました。この度のお客様より若い世代で、十分に意向を聞き入れてくださいました。

結論として、まずは当院のご住職の司式でご参列者皆さまでお勤めをされ、休憩をはさんで弟さまがおひとり祭壇に向かい、お母さまへ「感謝」の思いを伝える経文を述べられる流れにすることが決まりました。わたしは中立の立場として、当日の両方の場面に立ち会わせていただきました。ご住職の法衣はこれまで見たことがないような美しいお着物で、お経の声も僧侶としては聞いたことのない透き通ったお声。また弟さま自らのお経は身振り手振りを加え、こちらも見たことのないほんとうに気持ちのこもった信仰の姿でした。

わたしたちの仕事では、時間が無いので早く結論を出したいと仰るお客さまもいらっしゃってその際は先に葬儀社さんを確定してある意味でパターン通りに進めたのですが、可能であれば一生に一度のことなので半日もしくは一日の余裕を持って、悔いのない選択をしていただきたいと思っていました。もちろんことが起こる前にご相談を受けていればベストな選択が前もってできたのですが、ご逝去後は難しい判断が必要な場合もありました。

それを可能にしてくださったのが今回のお寺です。葬儀社さんの式場や公営の斎場なら同じことが出来るでしょうが、お母様が望まれたであろうことを重視された娘さまからすると、今回のお寺で希望がかなえられたことは良い選択だったと思いました。後日うかがったところ、このお寺で末永くお世話になりたいと仰っておられました。こういった関係性をご提供できることは、仲介したものにとっても有難いことでした。