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イヨボヤとは「魚のなかの魚」の意

鮭の遡上を見に北越へ。

この辺りでは鮭を「イヨボヤ」という。イヨは魚(ウオ)の古い発音で、ホヤもまた広く魚介をあらわす。ホヤの語源については今ひとつ分からないのだが、寄生木(やどりぎ)の古名だった「ホヤ」が寄生する原索動物としてのホヤを指すようになったといわれている。して、なぜ魚介全般に?
またアブラハヤやタカハヤなどの「ハヤ」と語源は異なるのだろうか。
私の勝手な解釈では、ボヤは「坊や」みたいな呼び名で「イヨボヤ」で「さかなっこ」みたいな愛称なのかな、と思っていたのだけど。

ともあれ昔から魚といえば鮭、というのは感覚としてよく分かる。正月の年取り魚であり、瓶詰めの鮭茶漬けは鉄板のご飯のとも。筋子を買って来て自家製のイクラにして貰うのが大ご馳走だった。

寒風に晒された塩引の口元の歯はまるで鰐のようになっていて、成熟した鮭特有の変態した格好よさがある。雄は特に甚だしく、体表には紫がかったブナ模様があらわれる。

軒先にぶら下げて風に当てる。海からの潮風と湿度と冷たい気温によって、アミノ酸発酵が進み旨味が出る。
この腹を開いて尻尾から吊り下げるスタイルは、シベリアからベーリング海峡、アラスカまでに渡る鮭文化圏において一般的だそう。

鮭の獲り方はさまざまあるらしいが、この鮭文化圏に共通するのが写真のような鉤(かぎ)を使った引っ掻き漁だ。群れで遡上する鮭はあまり人を恐れない。水量にもよるけど、胴長で入る人の足元へほとんどぶつかってくる剣幕で泳いでいる。川に上がると産卵するだけの鮭は餌を取ることもないから、熊の爪でひっかくのと同じようにして釣りあげる。

また、もっと原始的な捕り方として素潜り漁という方法もあった。

褌一丁で素っ裸のまま、寒風の川面へ飛び込み、銛でついて獲物をとらえる。川辺の白いのは積もった雪だろう。寒くて大丈夫なのかと訝しむと、写真の解説にはこう書いてある。

「寒中、醤油をコップ一杯飲み干し一気に血圧を上げて川へ飛び込んだ」

おそろしく豪儀な漁師のいた時代は、昭和30年代に幕を閉じている。

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