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掲示板で出会ったひと はちにんめ⑤

▼彼が掲示板を続けていたことが発覚したwww前回

ボタンを押す手は震えていなかったから少し安心した。

「わたしには他のひとと連絡しないでと言って、掲示板を続けているのは自分勝手だと思う」「誰かと並行するなら、好きだとかはやめてもっと割り切りたい」というようなメッセージにスクショを添えて彼に送信した。
攻撃性を隠し切ることはできなかった。

わたしは、わたしひとりでもわたしのまま変わらず、まだやっていける。
だいじょうぶ。
小心者のわたしは、自分に言い聞かせる。
今なら引き返せる。

彼からの返信は、遅くもなく早くもなかった。
特に慌てた様子もなかったし、謝ってもいなかった。
「勝手だったね」
とシンプルな返信から始まり、
・別に他のひとと並行するつもりはなかった ←そんなはずはないwww
・(わたしが)他のひとと会ってもしょうがない
・嫌な思いをさせてしまったので無理に続けなくてもいい
というような言葉が続いていた。

返信を見たわたしは、すでに気が済んでいた。
ごめんと謝るでもなく、慌てた様子もない言葉に安心してしまった。
「もう、いいや」と思った。
彼がどうあろうが、わたしが彼を好きである事実は変わらないのだ。
あきらめるしかなかった。

もうひとつあった。
彼はわたしが怖くないらしい。
怒っているときのわたしは(とっても)怖い(らしい)けれど、わたしにはどうしようもない。
けれど、彼はわたしを怖がっていない、どころか彼にはわたしの怒りなど些細なことらしく、わたしに引いてもいない。
これにはびっくりした。
甘く見られているかもしれない事実より、安堵感が広がる。
正しいことを言ったのに、なぜか(理詰めだからw)怖がられるというトラウマに苦しめられていたわたしは思いもよらず救われていた。

なんというか、ちょうどいい温度だった。
彼のくれる反応は、いつもわたしにちょうどいい。

わたしは、別に今すぐ他のひととどうこうしたいきもちはなく、ただフェアじゃないことはいやだと伝えた。
そして、こんなようなことを付け加えた。
・毎日何十回も返信をくれている事実および労力を注いだ旨認識している。
・そのため、他で何かあったとて、こちらにある一定の好意があること事実であると理解している。
・ゆえに、わたしはこの関係を続けていきたいと思っている。

恋愛力学的には、この状況でのこれは敗者の発言だと理解していた。
けれど、それで軽んじられたり、今までと態度が変わるようならそれこそ諦めがつく。
そうなったら、わたしは今度こそ彼を見限ることができる。

けれど、そうはならなかった。

彼は表面上態度を変えたりはしなかったけれど、わたしが彼を信頼できるように小さな努力をするようになった。
あからさまじゃない、それは気づくか気づかないかくらいのぎりぎりの小さなもので、毎日降り積もっていく。

朝8時になると、彼からメッセージが届く。
それは、毎朝のルーティーンに変わっていった。
仕事中もお昼休みも仕事が終わってからも、毎日それは続く。
「ゆっくりね」と彼は言う。

わたしが、他のひとと過ごしているだろうと思っていた時間の空白は仕事だったんだなと信じられるようになるまでそれほどかからなかった。
わたしといるときの彼は、ほとんどスマホに触らなかった。
それが他の女性といるときも同じだとしたら、空白は昼間の数時間以外ほとんどない。残りのほんの少しの空白をもし他の女性に傾けたとして、もうどうでもいいような気がした。
以前会ったときの雰囲気で彼が仕事で忙しいのは事実だとわかっていたし、忙しいひとにとって時間が貴重であることは言うまでもない。
「もういいや」と再度思った。
気が済んだ。
彼のいうことが嘘だったとしても、もういい。

欲しいものはもうそこにあった。
彼からの返信は、わたしを毎日しあわせにしてくれる。
わたしの中の何かが彼に届いているとわかる。
彼の優しさは、わたしを時々泣かせる。
わたしが与えられなかったものを思い出させるからだ。
電話をしているわけでもないのに、彼はそんなわたしにすぐに気づく。
いたわりの後、必ず笑わせてくれる。
それは、大事にされているという実感をくれる。

そんなものを惜しみなくわたしにくれるひとは後にも先にも彼だけだった。


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