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掲示板で出会ったひと はちにんめ④

「他と会うなら、自分は会わないよ。」

冗談交じりに「他のひととしたらやだ?」と聞いてみたら、そう返ってきた。
そっかー、やっぱりだめかーと思った。
予想通りではあった(1対1の関係で継続希望のひとが多い)ものの、予想より硬めのトーンだった。

彼にどんどん惹かれていく自分の中のバランスを取りたかった。
新しいひとを開拓したいとか、自分の体の追求をしようとかいう気は失せていた。

彼が与えてくれるものの代わりがないことがもうわかってしまった。
だからこそ、彼を失わないためにバランスが大事だった。
恋をする自分を好きになれないこと、誰かひとりにエネルギーを集中させる恐怖、そういうものをどうにかコントロールしたかった。
そして、彼にこんな自分を見せたくなかった。

「怖い」
そういうわたしに、彼は何度も何度も「だいじょうぶ」「きもちよくなっていいよ」と言い続けた。

何が怖いのか。
端的にいえば、受け取るあるいは受け容れるということで、自分を開くということかもしれないし、すべてを委ねて降伏するということかもしれない。

そんなことを考えながら、わたしはしょうがなく掲示板をやめることを決めた。連絡を続けていたひとたちに、「やめる」旨を告げてブロックした。

小さな事件が起こったのはそれから数日後だった。
とはいっても、事件と感じたのはわたしだけだったかもしれない。

スマホの画面を開きふとした操作から、以前の履歴を開いてしまった。
開かれたそれは例の掲示板のページで、「東京都」「男性」…わたしが設定した条件に合う投稿が並んでいた。
ある投稿に頭が白くなる。

彼の投稿だった。
IDも内容も間違いようがなかった。
今日と昨日と一昨日と、連日投稿されているようだった。
そして、その投稿はわたしとのチャットの合間になされていた。
わたしはどうしようもなく傷ついてしまって、その事実にさらに傷ついた。

問いが頭を巡る。
何度も見返しているうちに、現実が戻ってきて覚悟は決まった。

迷っていたのは、彼に言うか言うまいかだ。
会ったのは一度だけ、「つきあおう」とか約束をしていたわけではなかったし、元々そういう関係を望んでいたのは自分の方だった。
そして、彼を喪うダメージは殊更に大きくなっている。

彼の発言と現状は、フェアじゃないというのは感情じゃなくて事実だ。
問い詰めたら、彼はもう連絡をしてこないかもしれない、という不安をわたしは持っている。
けれどそれならそれでいいのではないかとも思う。
腹を括ろうと思った。
喪っても痛い、けれど続けたらもっと痛くなっていくだけだ。

わたしは、掲示板上に何度も繰り返された彼の投稿のスクショをとった。

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