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女性専用車両

一昨日、何名かの鉄道関係者と
鉄道業のサービスについて
話をする機会がありました。


鉄道の現場は、お客様の命を
預かる大変な仕事です。
緊張が連続であり、
強いストレスを感じながらも、
より上質なサービスを提供するべく
日々、努力されています。


・女性専用車

首都圏や関西圏、札幌などでは
一部の鉄道会社において
「女性専用車両」が導入されています。

戦前明治45年には婦人専用車が
導入されており、意外と歴史は古いのです。

その後、2000年。
ラッシュ時の電車の混雑がひどく、
痴漢被害が社会問題になったため、
各社が女性専用車の導入を開始しました。

ベストな選択でないことは
鉄道会社も承知の上で、
次善の策として導入が進められました。

私は昭和の終わり頃、首都圏の鉄道会社で
電車の車掌をしていましたが、
当時は朝のラッシュ時、ほぼ毎日、
痴漢による被害の申告がありました。

その都度、犯人の取り押さえ、
警察への連絡、
時には線路上を逃走するなど、
電車の遅延も常態化していました。

一方、えん罪もない訳ではなく、
当時は防犯カメラもなかったので
対応に苦慮したことが記憶に残っています。

現役の車掌さんに聞いたところ、
肌感覚ではありますが、女性専用車が
導入されてから、明らかに痴漢の申告は
減少していると感じるとのことでした。

もちろんすべての痴漢被害が申告される
訳ではないのですが、現場感覚としては
一定の効果があるものと考えています。


・子供さん、妊婦さん、障害者

女性専用車は小学生以下の子供、
障害者と介助者も乗車できます。

ラッシュ時の混雑の半端なさからすれば
対応としては極めて妥当だと考えます。

昭和の時代よりはマシになったとは言え、
日本の都市圏のラッシュはやはり異常です。

女性=弱者という定義づけは良くありませんが、
痴漢被害に日常的に接していた現場を知る身としては
女性専用車をもっと増やしても良いのでは
とすら思っていました。

・女性専用車には賛成の意見ばかりではない

現場の方から伺って驚いたのですが、
女性専用車そのものに反対する団体という
人たちがいて、主張を書いたシャツを着て
集団で女性専用車両に乗り込んできて、
あちこちでトラブルを起こしているのだそうです。

うかつにも私はこの問題を承知していなかったので
とても驚きました。

ある私鉄線では、この団体の方々が集団で
女性専用車に乗り込み、女性客からの指摘を受けて
駅係員が降りて頂くように案内したところ
トラブルとなりました。
(結果的に駅の責任者の判断で電車を降りて頂いた)

この時のやりとりが団体側によって撮影され
YouTubeで公開されています事態となったようです。


・女性専用車は鉄道会社のサービスにすぎない

驚かれるかも知れませんが、
鉄道会社の「女性専用車」という規定は
法律や条例に裏付けられたものではなく、
個々の鉄道会社が「自主的に」サービスの
一環として行っているとの定義づけです。

つまり、男性の寛大なる強力と理解の
もとに成り立っているサービスです。

同じように強制力のない、
「シルバーシート」「車内の携帯通話」
と同じレベルの「マナー」要請なのです。

にも拘わらず、
まるで男性は乗れないかのような
表示案内をしているのはけしからんと言うわけです。


・社会は日々変化している

20年前は「痴漢被害の軽減」この1点から
女性専用車が実施され、一定の効果があった
ことは間違いありません。

決して最善の方法ではないにせよ、
緊急避難的な対策としては有効でした。

その後、20年が経ち、
社会環境は激変しています。

個々の権利意識の変化
LGBTをテーマにした取り組み
障害がある方の社会参加

さまざまな変化に合わせて
鉄道会社も変化していく必要があります。

卑劣な痴漢は撲滅するべきですし、
私は現時点の日本では
女性専用車の存在を「是」と考えます。


・趣旨からずれていることも

だいぶ前ですが、大阪出張の際、
新大阪駅からメトロ御堂筋線に飛び乗りました。
昼下がりの緩い時間帯です。

車内は座席がほぼ埋まる程度で
私はドア付近に立っていましたが、
どうも乗客の視線がおかしいのです。

ズボンに穴が開いている?
顔になにかついている?

クスクス笑われるならいいのですが、
ご年配の乗客が一斉に私にガンを飛ばしている。

「あっ」

女性専用車でした。
関西では平日は終日の運用なのです。

そして、失礼と批判が殺到することを
承知で書かせて頂くなら、
車内は女性専用車というよりは、


お・も・て・な・し、

いえ、


お・と・し・よ・り・せんようしゃ・・・。

そう、
女性専用車の本来の趣旨からは
かなりズレた運用となっておりました。


・より良いサービスを目指して

この問題を鉄道会社だけに丸投げして

女性専用車けしからん
女性専用車は必要

と議論し、問い詰めるのはナンセンスです。
ネーミングがすでに前時代的なのかも
知れません。


札幌市交通局は男性が乗車することについてホームページにて、

「任意によるものなので、拒否することはできません。男性のお客様のご協力をお願いいたします。
このため、男性のお客さまが乗車されましても、乗務員が直接注意を行うことはありませんが、案内放送によりご協力の呼びかけを行います。」

とわざわざ表記しています。

・札幌市交通局
https://www.city.sapporo.jp/st/subway/anshin_syaro/anshin_syaryo.html

批判をかわす為の苦肉の策という見方も出来ますが、
国土交通省や警察などが音頭を取らずに
「鉄道事業者がやっていることですから」と
判断をさけてしまっている以上は、
私が経営者だったとしても、この表記をして逃げると思います。
係員は注意しない(できない)とまで断言しています。

この表記をしておけば、男性の乗車で車内が混乱する可能性はあっても、
鉄道会社の免責にはなります。根本的な問題は解決しませんが。


・ジェンダー議論が話をややこしくしている

試行錯誤している鉄道会社が、一方的に批判を浴びて
しまって気の毒に思いますが、法律の裏付けがない
シルバーシートやたばこのマナー、スマホ禁止などについては
社会の理解を少しずつ得ているのではないでしょうか。

私は以下の2点について、自分なりの考えを持っています。

1.痴漢対策の次のステージ

実は鉄道にはかなりの数の私服警官が
乗っていてスリや痴漢の警戒を行っています。
私も乗務中に現行犯逮捕の場面を何度か目撃しました。
(スリも痴漢も警察は現行犯逮捕が必要ですので
涙ぐましい尾行捜査をしています)

私服警官、そして防犯カメラ。
車内に防犯カメラの設置が進めば
相応の抑止力にはなるでしょう。

たとえば台北の地下鉄などは駅のホームに
「ここは防犯カメラで撮影されている安心スペースです」
と言った表記があります。 

電車にも「ここは常時録画されているスペースです」
という場所を作ることで、痴漢被害への抑止力になる
のではないかと考えます。

2.混雑車両に乗車が困難な人のための空間設置

札幌市交通局のスタンスを更に一歩進めて、
女性を守る、から「混雑車両への乗車困難な方」
へのセーフティ車両(又はスペース)の設置へと
移行していくのが良いのではないかと考えています。

痴漢の被害は撲滅する必要があり、
そのために現状では女性専用車が必要だとしても、
最適解ではないとの社会的合意形成は必要でしょう。


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ふあっとした「おもてなし」のような精神論では解決できない
現場のサービスのグレーゾーンについて、これからも一緒に考えていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

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