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【引退選手ラストメッセージ】中島孝選手「言葉では表現が出来ない、自分の中で大きなもの、重たいもの」

2019/2020シーズン、3選手が現役引退を発表した。大きな決断をした3選手からのラストメッセージを掲載。今回は、長年フットサル界をリードしてきた中島孝選手からのラストメッセージ。

―まずは長い現役生活、お疲れ様でした。全日本選手権が急遽中止となってしまい、めまぐるしく色々なことを思う時間だったと思います。

ここ最近やっと全日本選手権の中止というのも受け入れ始めたというか、(全日本選手権中止を聞いた)当初は、なんだかんだ開催するのではないかと思っていたのですが、時間も空いたことによって本当に終わっちゃったんだな、という気持ちです。それと同時に毎日のルーティンが変わってきて、小田原にも行かなくなることで本当に引退したんだなと実感し始めています。

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―22歳から16年間続けて来たフットサルから引退するという大きな決意をされました。 

前所属がセグンド(サテライト)というカテゴリーで関東リーグを戦っていた中で、どうしても最後トップカテゴリーでチャレンジしたいという思いが自分の中にあったところで湘南ベルマーレというチームに途中加入をさせてもらって機会を与えてもらいました。入団する時にも話をさせてもらったのですが自分の中でしっかりと覚悟を持って加入させてもらった、その覚悟というのは年齢的な部分もそうなんですが、このチームに何が残せるか、どういった形で貢献できるのかということにすごくシビアな線を引いていました。その自分で(線を)引いたチームへの貢献という部分でなかなか思うようにできなかったというのが1つ目の理由です。もう1つは身体のコンディション的な部分。今まで自分の中で最大限、選手としてお金と時間を投資してきましたし、与えられた環境の中で全力で取り組んできました。その中で度重なる怪我があって、なかなかコンディションが上がらず、そうするとパフォーマンスを上げるのも難しくて。そんな時間を過ごして来たことで、これ以上選手としての自分へ時間を投資することは、今の生活を考えると難しいと感じました。例えばもう1年やったとしてもこれ以上のコンディションが上がるかというとなかなか難しいのではないかと思って。それではチームに迷惑もかけてしまうし、怪我が続いてしまうと結局試合にも出られず、1番自分がストレスを抱え、プレーしたいのにできないというもどかしさを感じてしまう。やっぱり選手としては試合に出たいですし、出れないのが何より辛いので。それを分かりながらも改善できず続けていったとしてもまた同じ時間の繰り返しになってしまうのではないかなと考えました。それならば信頼できる後輩たちに自分の枠を空けてあげることでチームにポジティブな状況を与えられるのではないかと考えついたのです。こういう理由が自分の中に大きく2つあって「引退」という決断に至りました。

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―湘南ベルマーレで過ごした今シーズンを振り返っていかがですか。

あっという間の10ヶ月でした。何もかも新鮮で、移籍という経験もそうですし、地域も違って、メンバーも違って、出会う人も違ってという中で、本当に毎日楽しくて。新しいことにチャレンジするというのはすごく不安ですし、勇気がいることではあるのですが、チームメイトだったり、クラブスタッフだったり、サポーターだったり、周りの方たちが温かく迎え入れてくれたことによって不安材料を全て短い期間で取り除くことができたというのが楽しかったという思いにさせてくれたのかなと思っています。移動距離が長くなったことの大変さはあったのですが、自分がしっかり目標を持ってそれに向かって一緒に頑張れる仲間がいるってことでそういったハードルも乗り越えることができたし、今振り返ると大変ではあったけど、自分の中での新しい発見があったりと、今後の人生の自信や経験になりました。地域のことを話すと、(トレーニングでの)体育館利用やジム利用で出会う人たちや、試合に来ていただくお客さんもそうなのですが、前所属とはまた違った層だったなという印象です。特に年配の方たちが多く応援してくれているというのが今までに無かった経験で、それって本当に地域に密着しているなと感じました。もちろん若い世代や同年代はフットサルに対して電波が張りやすいし、興味を持ってもらいやすいと思うのですが、本当に地域に届かすことができていると年配の方たちが集まってくれるんだなと感じました。その点では湘南ベルマーレが地域に与える影響とか、今までやってきたことっていうのは少なからず浸透していて、ホームの雰囲気だったりとか、地域の空気をつくり出しているんだなというのはすごく感じました。最後に自分について。今までの僕の選手としてのキャラとはぜんぜん違うシーズンだったのかなと振り返って思っています。それは(バルドラール)浦安のトップカテゴリーから外れてセグンドでやった時からもしかしたら少しずつ変わっていたのかもしれないですが、昔は自分が常に先頭に立って、自分が1番じゃなきゃ嫌だ、変な話ですけど自分が活躍しなければ勝っても面白くないと感じるくらいトゲトゲしていた部分がありました。しかしセグンドでプレーしたことで自分が出来ること、自分のあり方っていのうは若い選手たちに示さなくてはいけないと考えるようになりましたし、そういうことで若手選手を育てることも自分の中で出来ることだと使命感を持つようになりました。このようにこれまでの自分を一新し、セグンドでプレーした経験があったからこそ湘南に来ても昔の自分とは違ったスタイルで選手たちと接することができたと思います。また自分が持っている経験を選手たちに伝えていきたいというスタンスでいたのでコミュニケーションもうまく取れたのではないかと思っています。それは選手として考えれば良いも悪いもあると思うのですが、でも自分がやってきた時間というものに全然後悔はなくて、このスタイルでやってきたからこそ少なからずチームに何か与えられたものがあったのではないかという自負もあります。自分自身もそれに対して責任を持って取り組んで来たと思っているので新しい自分の発見に繋がりました。そんな新しい自分のキャラで過ごせたからこそ満足をしている部分もありますし、より充実したシーズンだったなと感じているのだと思います。

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(クラブや地域に溶け込み、みんなに愛される存在になるまでにそう時間がかからなかったように感じましたがご自身で振り返っていかがですか?)
  
実際めっちゃ不安でしたよ!全く別の色がついた人間が入って来たっていうのは自分でも思っていたから。ただ意識して何かやったというよりは敬人さん(奥村監督)を始め、選手たちのオープンマインドな姿勢だったりとか、(山川)太郎さんを始めとするサポーターの皆さんたちがリスペクトしてくれて、迎え入れてくれた部分に僕は助けられたと思っています。だから僕の人間性とか何かやったってことではなくて湘南ベルマーレというクラブのそういうスタイルが僕にとってはポジティブに働いて、何年も前からいたような雰囲気で一緒にやれたと感じています。

(在籍年数が長いクラブの中心となっていたキャプテンの鍛代選手や副キャプテンの刈込選手など、いわゆる中堅の立ち位置の選手たちが中島選手とコミュニケーションを積極的に取って、今までにない形の良い影響を与えているのではという印象でした。)
彼らとは濃い話をしてこれたと思っています。それは彼らの真面目さや学ぶ姿勢もそうですし、クラブへの想いがあったからこそ僕のところに色々な話をしてきてくれたのだと思います。だから僕自身のマインドだけではなくて、彼らの人間性がそうさせてたのだと思うので、それが結果としてクラブ、そして彼らにとって良いものになっていたら嬉しいですし、そうやってゲンキ(鍛代元気)やカリ(刈込真人)にとって良い相談役になってたんじゃないかという話をもらうと僕自身もすごく嬉しいですね。

―今シーズン、印象に残っているシーンはありますか。 

結構いっぱいあるんですが、試合の内容で言えばやっぱりゴールシーンですね。しかも対戦相手が古巣のバルドラール浦安で。本当にこれからも忘れることのないゴールになったのかなと思います。シーズンなかなかゴールが取れなくて、みんなが待ってくれていたのですが、でも全然取れなくて。そんな中やっと取れたのがあの浦安戦だったので、古巣相手にという部分もありますが、そういう苦労した部分というのもそう思わせる要因になっています。何よりチーム、クラブが取らせてくれたゴールなのかなと思っていて、試合出場時間もそんな長くない中、とにかく僕は長い距離を走ってワンタッチでボールに触っただけなので、そういうのも含めてチームが取らせてくれたんだなという、思い出になるゴールだったのかなと思います。 

でも(印象に残っているのは)それだけじゃなくて、(湘南への)加入を発表して初めてサポーターの前に立った時にコールしてくれたシーンも覚えていますし、リーグ最終節は試合にこそ出られなかったですがあの時のスタンドの景色だったり、ロッカールームに戻ってから誕生日をお祝いしてくれたチームメイトたちとの時間というのも印象に残っています。そういった思い出はこれからも絶対に忘れられないですね。

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―次のステップはどういったことを考えているのでしょうか。 

思いとしてはフットサル界に生かしてもらってきた恩があるので、それはバルドラール浦安もそうですし、湘南ベルマーレに対してもそうなのですが、フットサル界に対して自分が何が出来るかというのを行動に移していきたいなと考えています。具体的なところはまだまだ自分の中でも試行錯誤していますが、新しいチャレンジをどんどんしていきたいなと思っています。それがすぐにではなくても何年後かのフットサル界にとって良い影響になったり、色々な火種になれば良いかなと思っているので自分にしかできない形で、もちろん1人ではできないので色々な人を巻き込んで、これまで応援してくれていた皆さまにも協力をしてもらいながら、フットサルというスポーツをメジャースポーツに変えていけるような、そんな活動をしていけたらなと思います。

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―中島孝にとっての「フットサル」とは?

フットサルとは…、簡単そうで難しいですね。
22歳までサッカーをやってきてプロサッカー選手になるという夢を持って、それまでの人生をサッカーに投資して過ごして来ました。しかしサッカー選手にならないという決断をしたあとの数ヶ月は本当に毎日が面白くないし、その期間何をしたか思い出がないくらい空白の時間だったなと今振り返っても思っています。そんな自分に新たな夢や目標を与えてくれたのがフットサルというスポーツとの出会いでした。そのおかげでこの16年間全力で走ってこられましたし、たくさんの成長を与えてもらいました。だからこそ何という言葉で表現して良いか分からないくらいに、自分の中で大きなもの、重たいものであるということは間違いないですね。

(フットサル、Fリーグの魅力もぜひ教えてください。) 
これまで経験してきたからこそ、ありきたりな言葉で表現したくないなと思っていますが、もちろん観ていて楽しいし、プレーしても楽しいと思えるスポーツだと思います。スピード感やゴール前での攻防も魅力ですし興奮するシーンもたくさんあります。ただFリーグはもっと盛り上がるためにできることがあると思うし、フットサルの魅力を十分に表現できていないと感じています。だからこそより多くのみんなで作っていけるものがあるのではないかと感じていて、まだ無限の可能性があるスポーツ、リーグだと思っています。そういった意味で言うと、もっとお客さんたちも巻き込み一緒にフットサルを盛り上げるために色々な事を起こしていけると思いますし、それによって変えられる部分が多くあるのかなと感じています。それは選手たちも同じで、もちろんレベルアップをしてもっともっと面白い試合をできるようにすることでより応援してくれる人が増えると思いますし、クラブスタッフも色々な形で色々な人を巻き込んで自分たちやフットサルの価値を上げようと頑張っているので、それにプラスして地域や行政も巻き込んでこれからもやっていく必要があると思います。何が言いたいかというと、フットサルにはまだまだ可能性があるし、そういった可能性は応援してくださる方々からも影響を受ける部分が多くあるので、一人ひとりの想いと行動でこのスポーツをメジャーにしていけるという部分がフットサル(Fリーグ)の魅力かなと今は思っています。

―今後の湘南ベルマーレへメッセージ

これまでもかなりの「BIG WAVE」を見させてもらいましたが、その「BIG WAVE」に限界はないと思うので、これからも選手やスタッフ、サポーターもそれぞれ全力を尽くし、さらに大きな「BIG WAVE」を期待しています。また選手(仲間)たちへは、いまある時間は当たり前ではないので後悔が残らないように毎日を取り組んでほしいなと思います。この先見える景色というのはこれまで積み重ねて来た時間によって良いも悪いも変わると思うので、一人一人がそれぞれにしか見えない美しい景色を見てほしいなと思います。そのためにも常に輝く未来をイメージして全力で日々の時間を過ごしていってほしいなと思います。その積み重ねがクラブに対しての功績に繋がりますし、試合の結果に結びつくと思うので、とにかくその時間、その一瞬を全力で頑張ってもらいたいと思います。そしてそれができるチームだと思うのでこれからも期待しています。

―中島孝 ラストメッセージ

1シーズン、途中加入という形でしたがこれまで本当に応援ありがとうございました。僕がこうして幸せな時間を送れたのは、多くの方たちに支えられ、応援をしてもらえたからこそだと思っています。僕がピッチでサポーターに対して挨拶をさせてもらったあの時、笑顔で受け入れてくれた皆さんがいたからこそ全力で戦い抜くことができました。やっぱり湘南のサポーターは最高です!敵チームとして見た時はとても嫌な存在でしたが、味方として後押しを受けながらプレーできたという経験は僕にとってすごくパワーをもらえた時間でした。本当に感謝と言いますか、すごいものを見せてもらったし、それを受けてプレーできたことが自分にとって最高の時間でした。こういった思いを持っている選手たちはたくさんいるので、今後も皆さんの力を借りつつ、湘南ベルマーレを日本一のクラブに導いてほしいと思います。これからも引き続き湘南ベルマーレフットサルクラブを応援していただければと思います。本当にありがとうございました。

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2019年5月、

「今日から練習生来てるから紹介するね」

そこには”練習生”という言葉が似つかわしくない選手が立っていた。
長年フットサル界を牽引して来たレジェンドだ。
言葉にできないほどの想いや葛藤、色々な感情があったのではないかと思う。

加入が決定してから”湘南のピケーノ”になるまでにそう時間はかからなかった。サポーター、ファン、選手、スタッフもみんな「孝さん」が大好きになった。

そして彼は、フットサルへの愛を中島孝らしく示し続けてくれた。

16年間、自身の全てをフットサルというスポーツに懸け、フットサルと向き合い、フットサル界を牽引してきた中島孝という男に最大級の感謝とリスペクトを。

湘南ベルマーレに来てくれてありがとう。
いつまでもファミリーです。

中島孝(なかじま たかし)
1982年1月11日生まれ 静岡県出身
大学卒業後にフットサルと出会い、Fリーグバルドラール浦安の前身チームであるPREDATOR URAYASUに加入。バルドラール浦安として2007年からFリーグに参戦し、その後15年間クラブに在籍。2019/2020シーズンに湘南ベルマーレへの途中加入を発表。在籍中にはFリーグ通算300試合を達成。2019/2020シーズンをもって現役引退を発表。


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