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乗り越しした上に、遅刻しそうでタクシーに乗せた話。

まさか、急行が、本気を出すと思わなかった。いつも、〇〇まで各駅なはずだったが。
気がついたら二子玉川。
二つ戻って タクシーに乗った。
あたりようがない(^◇^;)

その時かいていたもの。

僕の父は無口な人で、言葉よりもタバコの煙を吐き出している時間のほうが長い人だった。

 それでも僕たちは休みになると、あちらこちらに連れていってもらい、やたらはしゃぐ母や姉と共に、楽しいんだかつまらないんだかわからない、少し疲れた父の撮る写真におさまった。アナログだけど、今ではいったいどこの場所かわからない写真が沢山詰まったアルバムがある。しかも姉用にひとつ、僕用にひとつと二つもあるのだ。母に尋ねると、いつか2人がうちを出る時それぞれひとつずつ持っていけるように、と答えた。それでいつか自分がウチを出る時にはアルバムを持っていくのだと知った。そして数年後に、姉が就職しうちを出た時、確かに姉の部屋は空っぽになったのをみた。東向きの朝一番のお日様が入る部屋には、姉がいた時のまま数年来取り付けられているレースのカーテンが引かれていた。換気のために窓を開いてもカーテンはそのままで、家具が除かれた木の床を、四季を問わず差し込む日差しから守っている。そうしてたまに戻ってくる姉や親戚が泊まりにきた時の客間に変わった。
 ある日、父がロッキングチェアを買ってきた。そしてそれを件の部屋に置いた。するとそれまで滅多に上がってこなかった2階に頻繁に上がってくるようになった。そうしてしばらく部屋で過ごすと1階に降りていく。だんだんそれが日課となっていった。時間は決まっておらずとにかく一日一回、父が2階にやってくる。受験勉強そっちのけで、プラモづくりをしているとスーッと部屋の前を通りながら、ちらりと横目で僕を見ていく気配を感じる。それで、今たまたま息抜きにプラモをいじり始めたようなふりをしたり、これから机に向かうところなどを演じてみせたりするようになった。本当に机に向かい学習をしている時に前を通り過ぎるときの父と、絶賛息抜き中の時に通り過ぎる父は明らかに違った。父は、机に向かっている僕には、なぜかため息をつき、プラモをやってる時の僕には微笑んでいるような感じを受けた。ある時、トイレに行くため部屋を出ながら、父が何をしているのか、ちらりとのぞいてみた。父は、真っ暗な部屋の真ん中でロッキングチェアに座りながらゆらゆらしている。月あかりが父を照らして歪な影を部屋に広げている。
『父さん、何してんの?』
と尋ねてみたが答えなかった。まあ、想定内。それでトイレに行き用を足して部屋に戻ろうとした。
『あんまりこんをつめないように、な』
唐突に父が声をかけてきた。僕は、うんと答えて部屋に入った。
もともと大学の付属校に通っていたから、日日の学習をしっかりやり成績をキープし、定期的に実施される模試もある程度の成績をとれていたら進学を悩むことはなかった。そうこうするうちにあっという間に進学先も決まった。うちからは通えない場所にあったので、来春には僕もうちから出る番が来る。
 ある夜、父の持ち込んだロッキングチェアになんだか座ってみたくなった。
 
 

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