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現代のGossip Girl的物語Bridgerton

Netflixのブリジャートン家を観た。同名タイトルでアメリカで人気になったJulia Quinnの小説が基になっている、19世紀イギリスの結婚相手探しに奔走する女性たちの物語だ。

あらすじは別の記事にまとめたが、それ以上に色々このドラマについて語りたい点がいくつかあったので新しく書いてみた。

Gossip Girl x Jane Austen

これはTeaserだけ見てもすぐに気が付くことだが、ブリジャートンではGosspi Girlのような主人公たちを取り巻くゴシップライターのような立ち位置のLady Whistledownというナレータが存在し、物語を第三者目線的に導いていく構成になっている。Gossip Girlでは、セレーナやブレアを取り巻くセレブ学生たちを筆頭にその恋模様などを面白おかしくクリスティン・ベルが「xoxo Gossip Girl」でナレーションするが、こちらは19世紀のイギリス。当時はブログなんぞ存在しないので、あくまで新聞という形でLady Whitledownは社交界の事細かな様子をスキャンダラスに描き、ナレーターはクリスティンベルのようなセレーナ達と同じ女子学生を匂わせる声ではなく、落ち着いたおば様のような声のナレーターだ。(この辺りはどちらもGossip Girlが誰なのか、Lady Whitledownが誰なのか、というライターの正体暴きが話の一筋を担う点で、ナレーターの声優配役はカモフラージュになっている点も似通っている。)

また、Jane Austenも同じくこの時代に活躍したイギリスの女性作家で、主に女性の結婚についての物語を描いたことで有名なため、19世紀の女性の結婚を追う物語といえばJane Austenをモチーフにしていることはすぐわかる。

Jane Austen小説との類似点

なぜかアメリカ人はJane Austenが大好きらしい。イギリスにも当時のイギリスやJane Austenが大好きな一定層は存在するようだが、アメリカではAustenのオマージュと思える作品がこれまでもたくさん出ている。イギリスで有名なのはブリジット・ジョーンズの日記だが、Austen映画の焼きまわしが何度も出る割にはオマージュ作品は少ない。一方アメリカではCluelessもAustenのEmmaが基になっているし、最近だとPride and Prejudice and Zombiesというなぜか19世紀イギリスがゾンビだらけになり、ゾンビと戦うベネット家の姉妹とその結婚が描かれるアクションホラー作品が出て、そしてBridgertonである。

ブリジャートンでは、大体以下のような部分だけでもAusten小説から取ったのかな?というシーンがたくさんあった。例えば代表的なのがバーブルック氏。ダフネが結婚を申し込まれるが、即お断りする紳士だ。だが、ダフネに詩を捧げたり、しつこく言い寄る様子辺りは高慢と偏見のミスター・コリンズかな?と思った。また、ダフネのお相手の侯爵であるサイモン。二人は出会いは最悪だが、ダフネがバーブルック氏にパンチを食らわせたり、母のお気に入りの絵に自分の意見を述べる自立したダフネに惹かれる様子は、まさに高慢と偏見のエリザベスとミスター・ダーシーである。(途中サイモンがロンドンを去ろうとするところまで)

Fifty Shade of Gray?

日本でも人気があるフィフティ・シェイズだが、この作品のサイモンの生い立ち設定はどう考えてもフィフティ・シェイズを意識しているように思えた。

サイモンは恵まれない幼少期を過ごし、最悪な家族環境の元育った傷ついた魅力的な金持ち男性である。そこへ突然現れたヒロインに惹かれ、とてつもなく愛するようになって云々...というくだりは少女漫画的なお決まりの設定なのかもしれないが、この傷ついたお相手の心の傷を癒すヒロインとして物語が描かれる辺りも似ている。

フェミニズム的要素

Jane Austenの物語では、多少のフェミニズム的な要素(例えば恋愛結婚によってヒロインが理想の相手と結婚する、や主人公が自分の意志を持っている、など)はあるが、ブリジャートンはあくまで現代的な目線で主人公たちに喋らせており、かなり明確にフェミニスト的な目線で見た当時の状況を伝えている。

例えばブリジャートン家の三女のエロイーズは声はでかいが、姉たちのように結婚がすべてとは思っておらず、出来るならレディ・ウィッスルダウンや町の仕立て屋のように自分で稼ぎを得ながら家庭に縛られない人生に憧れている。自分が男性だったら大学に行かせてもらうのに、女性だから行かせてもらえない、と愚痴をこぼし、暇さえあれば書き物に勤しんでいる。

また長女で容姿端麗なダフネは一家の中でも良縁との結婚を望まれるが、その期待にこたえつつも女性が生きづらい当時の様子について時たま声を荒げている。バーブルック氏に乱暴をされそうになった事件について、兄には話さないがそれを指摘されると、ダフネは話したってどうせ女の言うことなんて聞いてくれないと反抗する。サイモンが話したから信じたが、自分が言っても兄は信じないと分かっているのだ。随所で女の意見は軽んじられることについてダフネは文句を言っている。

一方でブリジャートン家の長男アンソニーとの奔放な恋愛を楽しむオペラ歌手のシエナももう一人の主人公と言えるぐらい、物語では対照的に経済的自立した女性として描かれる。シエナは良家の出身ではないため舞踏会や社交界にも出ないが、人気オペラ歌手として次々良家の男がやってくるぐらい成功している女性である。だが、シエナは男性のサポートがないと生きていけないか弱い女ではなく、自分の食い扶持を自分で稼ぐ地に足のついた女性でもあり、窮屈なドレスを着させて舞踏会に出席させようとするアンソニーのことを拒絶する強い女性である。(ある意味ではアンソニーの誘いは女性にとっても魅力的だが、結婚してくれる見込みもないのに自分が望まないことを強制する女性にはなりたくない、というのである)

19世紀といえば、女性は刺激が強いことが起こればすぐ失神したり、血の気のないか弱い女を演じることが良しとされた。だが、ブリジャートンに登場する女性でそんな弱弱しい女性は誰一人として登場しない。ダフネのライバルであるクレシダが、皇太子の前で失神したりするシーンがあるが、ダフネはそれをばかばかしいと思ってすらいる。

むしろブリジャートンでは男性陣は特に良い描かれ方をしていないし、完全にフェミニズム作品なのでは?と思わせる内容であった。

人種差別的なファンタジー

一応ブリジャートンは19世紀イギリスの様子をかなり忠実に描いているのだが、一つだけファンタジー要素がある。それは黒人に対する舞台設定だ。物語の中ではジョージ3世の妻であるシャーロット女王が黒人という設定になっている。(実際はドイツ出身で白人だが)さらに、ジョージ3世はかなり認知症が進んでおり、随所でそれに悩む様子も描かれ、女王の手腕を発揮せざるを得ないことが度々起こっている。

その為ドラマの中では黒人にのみ同等の扱いが許されるようになり、サイモンは侯爵としての地位を得ているし、レディ・ダンベリーも未亡人だが裕福な家庭という設定である。ただ、物語の中では特にこの黒人に対するちょっとしたファンタジー的設定はそれこそ添え物程度にしか描かれていない。個人的には作者のJulia Quinnがアメリカ人なので、この辺りの配慮は気持ち的に必要だったから描かれたのでは?と感じた。

LGBTQ的な

当時もおそらくLGBTQの人々はいたはずだが、もちろんながら当時のイギリスでは許されていなかった。(むしろ第二次世界大戦で活躍したあのアラン・チューリングですら最近恩赦がなければ、その功績を認められなかったぐらいLGBTQの人々たちは世の中で罪とされていた)

こちらもそれこそちょっとした添え物的な要素としか描かれていないが、ブリジャートン家の次男で画家志望のベネディクトは当時宮廷画家?として有名だった画家のヘンリーの元に弟子入りするのだが、そこでヘンリーが別の男性と行為中なのを目撃してしまう。ヘンリーは公にも妻がいる身であるため、ベネディクトが問い詰めると妻とは仮面結婚であり、お互いの利益の為に偽装しているとさらりと告白するシーンがある。妻は自由な恋愛ライフを送れて、人気画家としての自分と結婚して地位も得られるし、そしてヘンリーはその一方で好きな相手との密事をもてると。

ただLGBTQとして登場するのはこのヘンリーだけなので、物語の中では大した重要性はないようだ。てんこ盛りすぎる色々な要素。

音楽

ブリジャートンでは、「なぜか」最近の曲が当時風にオーケストラ調でアレンジされて登場する。

Ariana GrandeのThank u, nextやTaylor SwiftのWildest Dreams、さらにはBillie Eilishのbad guy、Maroon5のGirls Like You。

https://www.youtube.com/watch?v=gn7HgzOEdHU

なぜ現代の曲をここに入れるのか全くよく分からないが、あくまでこれは19世紀のイギリス「風」物語であるということを視聴者に意識させるための設定なのだろうか。エロイーズの無邪気な発言の仕方といい、なんとなく個人的にはこのドラマがグレタ・ガーヴィグによって現代版っぽく描かれた若草物語のように感じられたのだった。

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