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Melodie of Shadows歌詞制作秘話③コーラスと仮歌

チャレンジポイント

私は最初、書き上げた歌詞を、なぜかテキストではなく、音声でプロデューサーのYonny に送っていた。
それがほぼそのまま仮歌に使われたのだが、修正を指示された箇所がある。
もっと伸ばして歌って欲しいと言うYonnyに、思わず
「もちろんわかっていたけど、あれは難しいよ…」
とぼやいてしまった。
のちに大同りんこが「11割出した」と語る「歩き始めたー」と高音で伸ばす部分だ。

音の高さとしてはC5♯(いわゆる真ん中のドの1オクターブ上のド♯)。
極端な高音ではないのだが、声を張って歌わなければサマにならないところ。
力強い地声で長く伸ばして歌うには、高い。
ちなみに、この曲の最も高い音は、伸ばす箇所ではないが、そのさらに上のE5(ミ)である。
仮歌の修正録音では、私も頑張った。
2024年3月現在、JOYSOUNDにてカラオケも配信されているが、この部分は歌う人にとってチャレンジポイントになるだろう。

コーラスづけ

さて、仮歌の修正とともに依頼されたのは、コーラスづけだ。
Yonnyの指定は、

ラストサビの高域で伸ばしている所(上記のチャレンジポイント)は、バックで別メロを。
「めーーろーでぃーしゃーどーー」みたいな感じ。
最後になるにつれてゴージャスにしたい。
あとはおまかせ。

この作業にあたって、なくてもできるが、コード進行がわかれば作業効率の面でありがたい、と伝えると、翌日口頭で、とのことだった。

そこで、大体の流れを作りつつ、細かいところは翌日に持ち越すことにした。

私は驚きと安心と興奮が入り混じった、なんとも言えない気分だった。
作業開始からたった3日で作詞まで完了したのだ。
この日は制作の指示含め、ずいぶんいろいろなやりとりをした。
Yonnyも、新しいプロジェクトが順調に滑り出して、多少は気分が高揚していたのではないだろうか。
知らんけど。

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同時進行は当たり前?

翌朝、通話でコード進行を聞いた。
「F#m7、Dadd9、…」
どうやら歩きながら話しているようで驚いた。
私は作曲や作業にあたって、コードは書いていくのだが、Yonnyは書かずに記憶しているらしい。
人によってずいぶんやり方は違うものである。

このときの通話だったと思う。
「じゃ、マホさんとの話も進めよう」
私は
「ええっ!?」
と大声を上げた。
「もう!?」
Yonnyは、なにを驚く、当然じゃないかといった調子で
「そうだよ!」
平行で作業を進めて、2曲同時リリースするつもりとの事だった。
歌詞が1曲かけたことを喜んでいる暇もない。
最初「身構えなくていい」とか「期日があるわけでは無いから急がなくて良い」などと言われていたが、私がまあまあ食らいついて作業を進めるので、どんどん次のことを具体的に考えているのだな、と思った。
こうなったら私も、どこまでこのやり方についていけるか試してみようと覚悟を決めた。

マホの楽曲については、次回語ろう。

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さて、コーラスづけは、1カ所修正が入ったが、その他は基本的に順調に進んだ。
ラスト近く、ゴージャスにしたいと指示されたところは、4声重ねた。それぞれダブルトラックなので、アユ8人である。
このコーラスとハモリは、私の声がそのまま使われている。
ただし、このときの録音ではなく、りんこの録音の後、彼女の歌い方に合わせて録音し直した。
この本番のコーラス録音が、私的には1番ナーバスになった作業かもしれない。今でもあの時の気分を鮮明に思い出せる。私の宝物のような記憶だ。

トラックの本数で言えば、すべてダブルでとのことで、24本あったと思う。
これを音声ファイルに書き出すのが、私にとっては少しばかり大変な作業であったが、これが済んでYonnyに送信してしまえば、Melodie of Shadowsに関する私の仕事は終わりだ。

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仮歌完成

驚いたことに、コーラスを送信したのは夜だったのに、翌朝早くにはYonnyから音声ファイルとともに
「できた」
と言う連絡が入った。
聞いてみて一番驚いたのが、このとき初めて聞いたギターソロだ。
全身鳥肌が立った。
作曲も音作りもすごいが、この演奏には度肝を抜かれた。
「問題なければリンコさんに共有する」
とのこと、私は
「早く送ってあげて!!」
と返信した。

そして、りんこの反応は。

「ギャァァァァァァァァ!!!!!」
「とんでもなくかっこいいぃぃいぃぃぃ!!!!」
「これ歌わせてもらえるのめっちゃくちゃ嬉しい!!」
「歌詞のセンスすごいですね!!全体から孤独感がにじみ出てて、でも思いっきりたくましくさもあって、すばらしいです、言葉選びがヤバすぎ!!」
「ギターソロ、カッコよすぎて、みんな腰抜かしますよ、ヨニーさんやばい、凄すぎて、笑っちゃう」

などなど。
絵文字も何十個もつけて、これ以上ない最大の表現で喜びを伝えてくれた。
私も大いに興奮していたのだが、りんこが喜びを爆発させてくれたので、なんと言えば良いのだろう、プレゼントを受け取って大はしゃぎする子供を見る母親のような、とても温かい気持ちになったのを覚えている。

Yonnyはもっと落ち着いていて、
「こんな序盤で盛り上がりすぎ笑」
と言っていた。

しかし、当初の予定を思い返してみよ。
年末年始に曲の構想を練るのではなかったのか?
仮歌の完成は1月14日を目指すのではなかったのか?
それでも恐ろしいスケジュールだと思っていたのに、12月28日である。
そりゃ盛り上がるだろう。

りんこが
「こんなワクワクすること起こるなんて、2年前の私に教えてあげたい」
と言うので、私は
「2年前どころか、3ヶ月前の私に教えてやりたい」
と言った。
なぜ3ヶ月かと言うと、この時点で、Yonnyやりんことつながってから3ヶ月も経っていなかったからだ。
ぼんやり過ごしていれば、3ヶ月なんてあっという間。
だが、この出会いのおかげで、私はとんでもない経験をしている。

この、仮歌をシェアして喜びを分かち合ったひとときは忘れられない。
しかしその裏では、すでに次の話が動いていた。

次回からは、HALATION制作秘話を明かしたいと思う。

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以下、読み飛ばしていただいて構わない。

今回、作詞をする前は一抹の不安を抱いていた。
もしかして、クリエイトすることで精神になんらかの影響があるのではと。

10年前の私は、自分の負の感情を利用して曲を書いていた。
孤独感、不足感、悲しみを材料として音楽や言葉にしていた。
悲しみは音楽にすると美しくなることがある。そのことに救われていた。
その後なぜ創作をしなかったかというと、家庭を持ったからだ。
つまり、不足感が満たされ孤独感が消し飛んだ結果、自分のために曲を書く必要がなくなったのだ

思いがけない誘いにより、再び創作を行うことになった時、いまは精神的に満たされているが、クリエイトに集中することで、少しはシリアスな方向に心が傾くかもしれない、気をつけなければいけないと思っていた。

しかしどうだ。
全く精神をすり減らすことなく書けたではないか。
それどころか、充足感でいっぱいだ。

私は理解した。
精神をすり減らすクリエイターは、創作に自分の感情を利用しているのだと。
感情には必ず浮き沈みがある。それは創作の材料になるかもしれないが、非常に人間を疲弊させるものだ。
創作をするたびに自分を追い込んで、精神をすり減らす。
こういったクリエイターやミュージシャンを何人も見てきた。
魅力的な作品を生み出す代償として、己の精神や肉体まで傷つけているような感じがした。
若い頃にはそれが魅力的にも思えたが。
今後は、これまでの経験を活かしながら、決して枯渇しない、明るいエネルギーを使ってやっていければと願っている。

2024年3月19日 小夏アユ





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