見出し画像

HALATION歌詞制作秘話③完結編

1月6日、仮歌が仕上がり、マホにシェアした。

Melodie of Shadows編のピークは、大同りんことの仮歌のシェアのひとときだった。
しかし、HALATIONのピークはそこではなかった。
彼女の反応は極めてお行儀が良く、多少誇張するが、
謹んでお受けいたします。良い作品となりますよう精一杯励みます。
みたいな感じであった。

その後Yonnyと、
「マホさんは、ギャァーッてならないんだね」
「リンコさんが特別なんだと思うよ」
大同りんこは大阪人である。

この反応の違いでもわかるが、2人は全くタイプの違うシンガーだ。
パワフルでソウルフルな歌唱が圧倒的なりんこ。
透明感のあるエアリーボイスが魅力的なマホ。

録音環境に関しても異なって、
りんこの場合は、録音をボイトレの先生のもとで行っている。
本番の録音に関しては何の心配もないし、録音日も定まっているので、こちらはそれを目指して待っている。

対してマホは、自宅で録音を行っている。私もそうだ。
なので、Yonnyからオーダーが入った時、すぐに対応できるのだ。

しかし、なかなかマホから録音が上がってこない。
仕事が忙しい事は知っているので、気長に待っていたのだが。

いつのタイミングだったか、私はYonnyに言ったことがある。
この曲はとても良いのだが、マホの得意分野と違うのでは?
Yonnyは「大丈夫だと思う」と言っていたが、実際マホ、今回の曲はかなり苦労したらしい。

★ー✳︎ー⭐︎ー❇︎ー★ー✳︎ー⭐︎ー❇︎ー★

得意分野と異なる楽曲

私は気にしていたことがあった。
仮歌の録音に際し、私は楽曲に合わせて、地声で元気に歌った。
しかし、空気成分が多い声質の彼女は、歌うイメージが掴みにくいのではと。

そこで、意を決して個人的にメッセージを送った。
マホさんはエアリーボイスなのに、私が地声強めの声で仮歌を録ったので、イメージが掴みにくいのでは?と。

これを送るのは、かなり躊躇した。

仮歌なんて、宇宙の塵にして差し上げます。とっくに歌うイメージは固まっています。仕事が忙しすぎて時間がないだけなのに、失礼しちゃいます。おとなしく待っててくださいな、プンプン。

と思われるかもしれないと思った。
いや、今はそんな感じではないとわかっているが、当時はマホが礼儀正しすぎて、よくわかっていなかったのだ。

返信があった。
なかなか掴めず、録っては聴くをずっと繰り返していた、とのこと。
よかった、プンプンしてなかった。

大同りんこは平気で仮歌をぶっ壊してきたが(もちろん最大の賛辞である)、
どうやらマホは、どのように自分の歌唱に落とし込めば良いか迷ってしまったようだ。

私は、一発で決めようと思わず、気楽に歌ってみてYonnyの意見を聞いてみては、と言い、マホもそのようにすると言っていた。

★ー✳︎ー⭐︎ー❇︎ー★ー✳︎ー⭐︎ー❇︎ー★

新境地への道のり

マホの最初のテイクを、Yonnyは非常に喜んでいた。
私もその可愛らしい声に、良い仕上がりになることを確信できた。
ただ、この曲の疾走感に対して、とても慎重な歌唱だなと思った。
Yonnyは、本番の録音に向けてマホにアドバイスしたと言うので、一体何と言ったのかと聞いてみた。
細かい事は言わず、もっとアグレッシブに、と言ったらしい。

アグレッシブは良いのだが、具体的にどうすれば良いのかを伝えた方が良いのではないだろうか、と私は思った。

昔ボイスレッスンを受けていた時、先生に
「なんでもっと大きい声出さないの!!」
と言われたことがある。
いや、私は大きい声を出したいんですけど!
どうすれば大きい声出るか教わりに来てるんですけど!
と思った。
あの先生は、「大きい声出そうっと」と思いさえすれば出るタイプだったのだろう。

マホも、
いや、私はアグレッシブに歌いたいんですけど!
どうすればアグレッシブになるか知りたいんですけど!
と思ったりしないだろうか。

マホのように、流れるようなバラードを得意とするシンガーは、メロディーの横流れのラインと、歌詞の表現を重視しているケースが多いように思う。
私は、作詞家としての立場を超えすぎないように気をつけつつ、

「歌詞を表現しようと考えすぎなくてもよくて、楽曲のアクセント重視で歌って大丈夫」

と伝えてみた。
また、彼女は仮歌を聴いて、コーラスとの兼ね合いの事まで考えていたようなので、
コーラスはメインボーカルに合わせて録り直す。そのことは考えないで好きに歌いまくってほしいと伝えた。

かなり試行錯誤したのだろうと思う。
本番の録音が届いた時、私は躍り上がった。
最高にキュートで勢いもある。
マホはマホーの扉を開いた。
彼女の新境地だ。

★ー✳︎ー⭐︎ー❇︎ー★ー✳︎ー⭐︎ー❇︎ー★

ハモり再録と融合

Melodie of Shadowsに引き続き、今回も私がハモリとコーラスを担当させてもらった。
マホの歌い方に合わせて、改めて録音していった。

歌い出し方、伸ばす尺、語尾の収め方、声の質感、発語の癖のようなものも合わせていく。
例えば、「ハレーション」という言葉もマホは「ハレィション」と歌う。
また、「え」を「ぃえ」と歌っているところもある。
こういった細かい部分を聞き取って合わせていくのは、楽しい作業だった。

録音した後、音声を確認していた時のこと。
一瞬不思議な感覚になった。
マホとYonnyと同じ空間で演奏しているような気がした。
ハッとして震えた。
個人的には、これがHALATIONに関するもっとも印象的な瞬間の記憶である。

★ー✳︎ー⭐︎ー❇︎ー★ー✳︎ー⭐︎ー❇︎ー★

そして現在。

さて。
現在HALATION、そしてMelodie of Shadowsは、各種音楽配信サイトにて配信中。
楽曲紹介文は私が担当。力を入れて書いたので、ぜひサイトに飛んでみてほしい。

★ー✳︎ー⭐︎ー❇︎ー★ー✳︎ー⭐︎ー❇︎ー★

追記

プロジェクトに関わることになった時、Yonnyと
創作の楽しい部分を汲み取ってやっていこう。
ウェットになりすぎず、カラッとした感覚でやっていこう。
と話した。

彼には音楽制作は日常のことだが、私にとって今回の一連の作業は、いつもカラッとした感覚でと言うわけにはいかなかった。
私が何度か泣いたのはYonnyも知っていて
「泣きすぎ」
と。
つらくて泣いているわけではない。
私は心が動くと目から水が出るシステムになっているのだ。
それにこれは、精神をすり減らすようなものではない。
わが子の寝顔を見つめているときにじわじわと湧いてくる、時には、不意に突き上げてくる、あの感じに似ている気がする。

配信が完了した後だと思うが、ある日、思いっきり泣いてみたいと思って一人で車を走らた。
海辺の駐車場で、声を出してワンワン泣いた。
だが脳の1部は冷静で、時計を確認して、
「あ、そろそろ娘が帰ってくる時間だわ」
と涙を拭いて帰宅した。
これが私のリアルである。

今回このような文章を残すきっかけとなったのは、りんこが
「エッセイとか書いて欲しいです」
と言ってくれたことだ。
私は最初、りんこの歌声に惚れた。今は人柄にも惚れている。
彼女に喜んでほしくて、Yonnyに確認のうえ着手した。もしもYonnyが公開NGと言ったら、個人的に書いてりんこにプレゼントするつもりだった。

マホは前回までの文章を読んで、
「私で大丈夫かなー? とちょっと思ってたので、安心しました」
まさかそんなことを思っていたとは。
言葉にしなきゃ伝わらないこともあるのだな。
私で大丈夫かな?じゃない。
マホじゃなきゃダメだったよ。

最後にヨニーさん、数々の無礼お許しを。
改めて思う。
私、レスポンスが早くてよかった笑

2024年3月22日 小夏アユ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?