勝ち点2に意味をつけて。 2023.09.02 湘南ベルマーレvs鹿島アントラーズ マッチレビュー
開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。
▫️過酷な仕事
9月になっても暑さの残る平塚でキックオフ。湘南のスタメン表を見た時には並びがわかりづらかったが、左CBに田中が入り奥野がアンカーを担当する以外は見慣れた配置。キムミンテは期限付き移籍に伴う契約上の理由で出場不可のため、大野がDFラインの中央を任された。2日前に戦った天皇杯:アビスパ福岡戦でゴールを挙げた鈴木もスターターに名を連ねた。
一方の鹿島も前節からメンバーを複数名入れ替え。体調不良者が出たため練習を非公開にするといったアクシデントもメンバー選考に影響していると思われる。累積警告による出場停止の鈴木優磨のほか、直近の新潟戦からは樋口・安西がメンバー外。代役としてFWには知念、右SHには土居が入り、溝口・須貝が左右のSBに起用された。
直近2試合は試合開始早々から高い強度で相手に挑み、早いうちにリードを奪う展開へと持ち込んでいる鹿島は、この試合でも同様のスタンスで臨む。丁寧に繋ぐよりもアバウトに長いボールを蹴り、強度の高いプレスでセカンドボールを勝ち取って主導権を握った。湘南はなんとか耐え忍ぼうとしたが、8分に佐野のドリブル突破から中央を破られ失点。鹿島は目論見通り、早い時間にリードを奪うことに成功する。
15分ごろまで高い強度が続き湘南はまともにボールを持つことすら出来なかったが、鹿島がボールを繋ぐ方向に舵を切って出力を調整したこと、湘南が強度に慣れてきたことから徐々に試合の様相も変わり始める。鹿島のボール保持では、中盤から前の6人が使いたいスペースに入ってくる(=動きながらボールを受ける)形を取るが、湘南の3−5−2相手では使いたいスペースに元々人がいる状態。いつものスライドでは相手を困らせられない上、行き詰まった時にボールを引き取ってくれる鈴木優磨も不在のため保持局面で思い通りの展開に持ち込めない。
鹿島は繋ぐ方法を模索するも湘南のプレス網を掻い潜る方法を見つけられず、結果的にロングボールをFWへ送る形を継続。ただしプレスの強度を落とし、タスク過多であるSHの走行距離が嵩んでくると、湘南が跳ね返してマイボールに出来る場面が段々と増えてくる展開に。
※鹿島SHのタスク過多
ビルドアップするCBへ縦のパスコース、SBに出れば斜め・または平行のパスコース、ロングボールの受け手、またはそのサポート(ボールに合わせたスピードでスプリント)、バイタルエリアでのチャンスメイク、ゴール前でのアタッカー役。これらを全てこなした上で、高い強度で相手ボールホルダーへのプレッシングと4−4ブロックを形成するために相手アタッカーと同じスピードで自陣に戻る。超人。
鹿島は直近2試合(新潟戦、鳥栖戦)のようにボールを足元で持てる時間が作れればSHの仕事量も調整できたのだろうが、システムと起用選手の都合で早く前線にボールを送ってしまい、徐々に陣形が間延びしていく。ボールが互いの陣地を行ったり来たりすればするほど埋めなければならないスペースが広がり、その結果鹿島SHは相手のみならず味方によっても体力を削られるような様子に。24分にはボールを奪った垣田と知念の2トップのみでカウンターを仕掛けて逆にボールを奪われたところ、鹿島の中盤は展開についていけず、まるで後半アディショナルタイムか体育の授業のようなスペースがら空きのシーンが生まれた。
鹿島のガス欠によって呼吸が出来るようになった湘南は、浦和戦と同じく左サイド(=鹿島の右SB)の裏を使うのが狙い。鹿島が前4枚(2FWと2SH)でプレスを掛けてくる分、WBをSBがマークしてくるため空くであろう裏のスペースを活用する。浦和戦では大久保や伊藤が戻ってきてしまいうまく使えなかった場所だが、この試合は土居の戻りが遅くピトゥカの強度も弱かったため、湘南は狙い通りに得点を挙げる。
35分の大橋のゴールは鹿島のプレッシングをひっくり返した一本のパスが起点。約束事の通り前4枚でプレッシングを開始する鹿島。左CB田中がボールを持っているシーン、WB杉岡が下がって足元で受けようとするよく見る形。これは準備してきたぞと言わんばかりに須貝が杉岡に食いついたところ、平岡は須貝が空けた裏のスペースへランニングし、ボールは杉岡の頭を越えて平岡の足元へ。平岡にはピトゥカのマークがついていたが、しっかりと収めてプレスの網を脱出した。
この後の場面で秀逸だったのは杉岡とそれに呼応した小野瀬のランニング。自身の頭をボールが越えるや否や、反転して内側に向かって走り出した杉岡に須貝はついていけず、中盤の広大なスペースを1人で任されていた佐野も間に合わない。数秒後に杉岡がフリーでボールを受ける未来を予測した小野瀬も最前線に加わるためスプリントをかけ、大橋のシュートをお膳立て。大橋のゴールはもちろんスーパーゴールであり彼の技術による賜物であるが、その技術を発揮できるシチュエーションを作り出したのは複数名が連動した働き、すなわちチームによるものだと言えるだろう。完敗したG大阪戦、浦和戦でも繰り返し狙っていた左サイドの外→内の関係が貴重なゴールを呼び込んだ。
自身のマークミスが失点の原因となってしまった意識の表れか、39分に須貝がドリブルで右サイドを抉る。突破そのものと責任感の強さは良かったものの、疲弊した鹿島の中盤はそのプレースピードについていけていない。パスは湘南に跳ね返され、ボールはフリーの平岡から大橋へと繋がり、もはやCB関川とGK早川しかいない鹿島陣内へ湘南2トップが攻め込む。鈴木へのラストパスは大橋が丁寧に出した分、早川に距離をつめる時間を与えてしまいシュートは枠を外れてしまう。この時間帯は完全に鹿島の足が止まっており、陣形は間延びして各ライン間が開き、DFラインが晒される状況が続いていた。
そして41分、湘南は同点ゴールと似たような場所から攻撃を開始。田中がボールを持って杉岡が受けに下がる場面、今度こそ杉岡の足元にボールが入るが、ワンタッチで逆サイドの岡本に叩いてまたもプレスの網を脱出。岡本のパスを受けた畑がドリブルで運び、ペナルティエリア付近までフリーで侵入する。一度は仲間にボールを奪われるが奪い返して鈴木へパス。コンパクトな脚の振りで放ったシュートは対峙した植田の股を抜いてゴールに吸い込まれ、湘南が逆転に成功。
鹿島は田中と杉岡、平岡の位置にやや気を取られすぎているようにも見え(岡本へのパスコースが塞げていない)、1点目の映像が脳裏に焼き付いていたのかもしれない。また地味ではあるが、奥野が垣田を引き付けているところもプレス脱出の一助になっていたのも忘れてはならない。
▫️浅めの場所でペースを握る
理想的な入りからまさかの逆転を喰らった鹿島は、後半開始から須貝に代えて広瀬を投入。外でも内でもプレー出来るサイドバックを起点に得点を狙う。ビルドアップからの崩しはもはや諦め、ロングボールやクロスを主体に湘南ゴールへ襲いかかってくるが、前半のような早いテンポは控えるように。まずはFWをDFライン裏に走らせ、湘南陣内に侵入。ハーフタイムを挟んで復活した持ち前の強度でクリアボールを拾ってもすぐさま攻め込むのではなく、湘南を左右に揺さぶりながら自陣に押し込むようにしてボール保持の時間を長く取った。
またクロスの質も変化しており、前半の須貝のようにサイドの奥深くまで抉るのではなく、湘南のプレスが届きにくいハーフラインから少し相手陣内に入った位置、浅めのサイドから巻くようなクロスで、高さの優位性を活用できるボールを用いてきた。クロスを上げるタイミングや状況も前半と変わり、湘南DFライン裏のスペースを狙って陣形を引き延ばし、時間と空間を得てから上げてくる。湘南に縦と横のスライドを強制し、ボックス内の高さ強さでゴールを奪おうという狙いだろう。
湘南は平岡のプレスが広瀬まで間に合わず、クロスやパスを許すシーンが増え徐々に自陣へ押し込まれていく。作戦変更に一定の手応えを得たのか、鹿島は選手交代で取っている方針をさらに加速させる。スピードのある松村をFW、過酷な役割のSHにカイキを投入。左右のクロスと裏狙いに舵を切る。
しかしながら後ろの手薄さと高いリスクは相変わらずのため、湘南がカウンターを仕掛けるシーンもしばしば。こうしたところで決め切って試合を決定づけていれば、そもそもこの順位にはいないのだろうが。
65分に湘南も選手交代。疲れの見える平岡と奥野に代えて池田と舘が入る。池田は広瀬へのプレッシング強化、舘は途中から入ったスピードに優れた選手への対応が役割だろう。この時、田中が左CBからアンカーへ移動している。
▫️跳ね返すか、拾うか、出所を抑えるか
1点を湘南がリードしたまま迎えた最終盤、鹿島はDFラインに昌子を入れて植田を前線に上げるパワープレーを敢行。左右のクロス攻撃を主体に後半を戦う中、よりボックス内の優位性を強めるという意味では一貫して理にかなった作戦だ。
湘南も3−4−2−1にシステムを変更し、中央を厚めに守る形へ変更。2DHを担当する田中がボールハントに出かけ、山田がバランスを取るようなイメージである。しかしこの場面で主戦場となっていたのは浅めのサイドとゴール前であり、中央でのボール奪取とセカンドボールの回収率向上を主目的とした交代がどれくらい効果的だったのかはいささか疑問である。むしろマークをしていた池田の位置が前方にズレたことにより、広瀬が自由を得たようにも見える。池田投入後、中盤3枚で戦っていた時間の方が鹿島の両SBは窮屈そうだったような印象だ。
87分、セットプレーの流れからフリーで受けた広瀬が山田をキックフェイントでかわしクロス。ヘディングにいった植田の頭を蹴り上げる格好になった岡本のファールが取られ、鹿島がPKを獲得する。そのPKをカイキが落ち着いて決め、後半アディショナルタイムに鹿島が同点に追いつく。試合はそのまま終了し、互いに勝ち点3が欲しい中での痛み分けとなった。
相手に高さの優位があり、セカンドボールも拾えていないとなればどこから抑えていくか?という点で課題が残った試合。選手交代しても高さでイーブンに持ち込めないのであれば、ボールの出所・クロスの射出台役に激しいプレッシャーをかけてクロスを上げさせない、あるいはクロスの質を落とすといった選択の方が“湘南らしい“のかなと思う次第である。
最後に杉岡の試合後コメントを引用して結びとしたい。全てにおいて土台となる球際の部分でチームが何かを掴めたのであれば、残り8試合、ここで落とした勝ち点2に意味をつけて欲しい。
試合結果
J1リーグ第26節
湘南ベルマーレ 2-2 鹿島アントラーズ
湘南:大橋(35’)、鈴木章(43’)
鹿島:佐野(8’)、アルトゥール カイキ(90’+2’)
主審 清水 勇人
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