何であいつらはいろんな言葉を話せるのにおれたちには日本語しかないのか。そしておれはどうすればいいのか。
前回このnoteを投稿したからというもの、見違えるほど自信をもって会話が出来るようになった。ここ半年ほど面倒くさがっていろんなことを文字化していなかったが、やっぱり多少時間かけてでもちゃんと文章にして出力して客観視した方がいいなと改めて感じた。特にポジティブなことは。
よかったら読んでみてください。
このnoteを書いたタイミングで、日本の同じ大学から交換留学に来ている友人が一緒のテーマでエッセイを投稿していた。
テーマやタイミングが同じなのはたまたまではなく、きっと同じ出来事を経験して同じ感情になったからであろう。
私もこの場に居合わせていた。「Language explosion」という概念を知った際の衝撃は筆舌に尽くしがたい。セコすぎやろそんなん。そんなんこれからどないせえちゅうねん。今まで何をクソ真面目に机にかじりついて勉強してきたのか。
彼らは母語と英語以外にも言語を持っているらしい。広東語と中国語は全く異なるが、広東語が話されている香港から来た彼は中国語で話すことも出来るし、他にも、ドイツ人やオランダ人は前提知識なしでノルウェー語をある程度理解できるそうだ。
私は……日本語だけである。常に日本語で考え、日本語で世界を切り取っている。幼少期から英語に触れてこなかったわけではないと思う。英会話塾にも通わせてもらっていた。この差は何なのか。
1, 言語の性質
ドイツ人のフラットメイトが「ドイツ語とノルウェー語の起源は同じで、共通点が多いから大体意味がわかる。こっちに来てから今まで一回もGoogle翻訳を使ったことがない」と話していた。スーパーマーケットではいつもスマホ片手の私からすると信じられない話である。
私はノルウェー語を勉強している訳ではないが、ノルウェー語と日本語が大いに違うなら、その他のヨーロッパの言葉も日本語とは大いに異なるのだろう(青木先生のこの書籍は留学前から現在も非常に参考になっているし、インターネットが普及する以前における情報の価値の高さと留学のハードルの違いを感じられてとても面白いのでまた紹介したいと思っています)。
そういえば日本語は独立した言葉であるというのをどこかで聞いたことがある。
(本来なら書籍から引用をしたかったのだが)ググったらそれらしいものが出てきた。ぜひ引用元を辿ってほしい。
私は言語学の人間ではなく知識がなさすぎるので人の書いていることを引用することしかできないが、何にせよ日本語を母語とする者としては母語との共通点から英語を習得することは比較的難しいのかもしれないということが言いたい。何か文献を知っていたら教えてください。
2, 娯楽
留学前から阪大に来た留学生とかかわるたびに、彼らはみんなアニメや漫画、ゲームが好きで日本に来たという。私はそこまでその手の類に興味があるわけではないが、それでも放課後は友達の家でスーパーマリオをして遊んだし、平日にはおじゃる丸と忍たま乱太郎を、日曜日にはちびまる子とサザエさんをみて育ってきた。アニメ以外にも沢山の映画を鑑賞し、お笑いを見、音楽を聴いてきた。これらは全部日本語であった。洋画を見るときでさえ大体日本語吹き替えか、少なくとも字幕がある。
オランダ人の彼が英語で映画を見るようになったのは、オランダ語で楽しめる娯楽が限られていたからだそうだ。台湾人の彼女が日本語を知っているのは日本のコンテンツが放送されていたからだそうだ。特に日本に特別な思い入れを持っているわけではないドイツ人の彼は、ワンピースを全巻読んでいる。そして最近韓流ブームで韓国語を学ぶ日本人が増えている。
日本は私たちが思っている以上にコンテンツ大国だと思う。私たちは常に上質な日本語の娯楽を湯水のように浴びることが出来る環境にいる。それは豊かさの投影で、非常に素晴らしいことである。その反面、これは英語の娯楽にアクセスすることを自主的に選択しなければ、生きた英語に触れることもないということを意味する。
3, 可愛いさ
日本人の日本語を話さない人に対する対応も外国語学習の妨げになっていると思う。いや、これが今回いちばん言いたいことなのだが。
私はノルウェー語を一切知らない状態で留学に来たが、特に支障なく生活できている。それはどこに行っても必ず英語表記があるし、みんな英語を話せるためである。もし一切の英語表記が無く、人々が英語を話さなかったとしたらとても生活できなかっただろう。
一方、私は日本でお好み焼きのレストランで働いていた。外国人観光客の多い場所に店を構えていたのだが、英語のメニューが用意されていないのである。英語を話すスタッフも僅少。外国人にはGoogle翻訳で対応していた。今思うと、彼らはどれだけ不便だっただろうか。そして、店以外でもどれほどの外国人が日本で不便を強いられているのだろうか。
日本の英語表記の少なさについて、英語が公用語ではない国に来て初めて気づいた。今まで日本語話者というマジョリティの中でどれほど想像をせず無自覚に過ごしてきたのか思い知らされる。
このような非日本語話者に対する想像力の欠如は、優しい顔をして私たちの周りに存在する。
インドカレー屋に入ると、時折崩れたような字の手書きのポップやメニューを目にすることがある。ああ、今ナンを焼いているあのインド人のおじさんが書いたのだろうか。微笑ましい。可愛い。ついそう思ってしまう。しかし、私はヒンディー語を勉強している日本人中年男性のことを「可愛い」とは天に誓っても思わないだろう。もし、私がインドに行って商売をしようとなった際に私は「正しい」ヒンディー語で文章を考え、美しくポップをつくることが出来るだろうか。私がポップを見て「可愛い」と思うとき、その裏にある葛藤と人生と努力を見ることは出来ているのだろうか。
中学のとき、同じクラスに中国出身の男の子がいた。彼は日本語を勉強中で、「カタコト」の日本語を話していて、私を含めたみんなは彼の言葉を「可愛い」と思っていた。社会の教師もそれを授業中にまねをしてイジり、受けを取っていた。彼の「可愛い」言葉の裏の孤独や価値を誰も想像することは出来なかった。
普段日本語を話さない人のつたない日本語に対して「可愛い」と思う感情は既にコンテンツ化されて資本主義に組み込まれている。ミエセスはかわいいとか「ファニエスト外語学院」とか「世界からのサプライズ動画」など、枚挙にいとまがない(後ろ2つのコンテンツはここで述べたこと意外にも問題を孕んでおり本当に嫌いで詳しく言及したくないのでググってください)。
こうして、非日本語話者に対する「可愛さ」や笑いは優しい顔をしながら立派な差別意識として内面化される。だから私たちは発音良く英語を話そうとする同級生を嘲笑してきた。こうした意識を内面化した人間が日本語以外の言葉を話そうとすると一体どうなるのか。そう、自分も笑われるのではという恐怖心に直面するのである。この恐怖心は「間違えるのが怖い」「自信がない」となって目の前に立ち現れる。あとは自信がなくなって話さなくなり、語学が上達しない。前回のnoteで言及した末路を辿る。
これは私が単純に性格が悪いだけかもしれないし、逆にこれが日本固有の問題だといいたいわけでもない。前回のnoteで言及した川﨑宗則の動画は「可愛い」で有名になったのだろう。でも、みんな彼に敬意を持っている。
少なくとも私がそうであったということと今のオスロ大学の私の周りの人間はそうではないという話をしている。ここでは私の英語を誰も笑わない。
この3つの原因に立ったうえで、これからどうすればよいのか。
1, 言語の性質
これはもうどうすることもできない。今まで英語が自由自在に扱えないことに対して英語が母語の連中羨ましすぎやろと思って生きてきたが、ここに来て日本語が好きになっている。昨日、今日と10000字も文章を書いているからかもしれないが、やはり私は日本語が好きだ。マイノリティになって改めて多様性の重要さに気づいた。もし日本語が禁じられたらどうすればよいのだろう。馬鹿げた前提かもしれないが、歴史に、そして現在進行形で起こっていることだ。言語だけではない。多様性を守ることは巡り巡って自分を守ることに繋がる。
2, 娯楽
一緒に食事をした彼らとフラットメイトにどのように英語を勉強すべきかアドバイスを求めたところ、みな口をそろえて「赤ちゃんが言語を学ぶようにしろ」という。勉強しようと思うから続かないのだ。英語は手段であると。日本語字幕を封印することにした。中国人のフラットメイトは学部正規生としてオスロに来て5年が立つそうだ。私と同じように高校までたくさん勉強して渡航したが、はじめは全く話せなかったらしい。そんな彼が「今までで勉強は十分だから、これからは楽しむことが大事」と言ってくれて非常に心強くなった。
おすすめで流れてきたこの動画を実践してみることにした。なんにせよ、生きた英語を学ぶ必要がある。
3, 可愛さ
全ての差別を許さないことだと思う。差別意識はじわじわ私の心を蝕み、自分に影響を与える。差別意識は無知から来ることがある。だから想像し続けなければならない。すべてを相対化して考え直してまた飲み込んで、そしてまた吐き出すことを辞めない。「国際社会」の全体像は大きすぎて私にはまだ見えていないし、まだ英語を自在に操ることは出来ない。でも、少なくとも母語のありがたさと想像力を持つことの重要性に気づくことが出来た。これは私の強みだ。
まだ3週間たっていないとは信じられないくらい充実している。とりあえず今日はホラー映画を見る約束がある。ノルウェーのNetFlixは見れる本数がめちゃくちゃ限られていて最悪なので、VPNに課金してしまった。
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