神などいないと思った3.11【第2話】

この世のモノとは思えない影。

これが、津波を始めてみた私の感想だ。

その影は、黒く、凛々しく、そしてなぜか静寂。

轟音は響き渡っているはずなのに、なぜか静かだったのだ。

あれは、例えるなら「闇」。地獄の入り口。恐怖の塊。魔物。

私は、理解できず、ただ魅入ってしまっていた。

近所にある5mはあるであろうビルも黒い影で隠れている。

「バキバキッ」

近所の家が音をたてて流れていく。電柱は火花をあげながらまるでクッキーの様に折れる。

車も流れている。明らかに人が乗っている。

死を覚悟しているのか、ハンドルを両手で握って動こうとしていない。

材木業社が使うであろう大きな丸太が、津波と一緒に家を貫いている。

そして、津波はとうとうこちらに気付いたかのように、牙をむき襲い掛かってきた。

「にげろっ!」

私は叫んだ。それ以外に言葉は出てこなかった。

津波は、私たちの足をかすめて、笑っているかの様だった。

おちょくっているのだ。

私達は、家の裏手にある畑になっている高台に走って難を逃れた。

そして、見晴らしのいい高台から、悍ましい光景を長い時間見ることとなる。

実家が波にのまれていく。大事にしていた車は、いとも簡単に浮き上がり流されていく。

1階は完全に海の中。

何が起きているのかまだ理解できないでいた。

津波は、予想外な動きをする。

先ほどは、自分たちの方に向かって襲ってきたにもかかわらず、それを急に止め、方向転換をし、予想もできない場所から現れるのだ。

まるで生き物だ。

私がいた高台の前は道路になっていて、急な坂道になっている。その坂道を下っていくと住宅街になっているのだが、その住宅街は低くなっている。

ここと比べると、3m以上の差はあるだろうか。

そこを1台の車がかなりのスピードで走っていく。きっと、職場から自宅に急いで帰ろうとしていたのだろう。

その車が下り坂を下りきった時、横から津波が狙っていたかのように襲い掛かった。

「プーーー」

車のクラクションの音がした。車は浮き上がり、木の葉が流れていくかのように流されていく。

クラクションは、長い間、鳴りつ付けていた。そこで初めて気づいたが、辺りから多くの車のクラクションの音が響き渡っていた。

運転していた人達がクラクションを鳴らしていたのか、それとも、津波の衝撃でクラクションが誤作動しているのか。

辺りは薄暗くなりつつある。

そして、空からは季節外れの雪が降ってきた・・・・

第3章に続く。

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