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肉食

少し前ですが…嫁がヴィーガンになってしまい、私もその煽りを受けて豆腐やソイミートなど豆という豆を食べさせられておりました…

ああ、また豆かとウンザリしていると「人間は植物から100%栄養を補給することができるの…動物を殺すなど野蛮な行為から解放されるべきなの…」と畳みかけてきます…「ああ…私は植物も生きていると思うんだけど…」と返すと無言で食器をさげてしまいました…

私は人間は実は肉食寄りの雑食だったのではないかと考えています。
穀物などの炭水化物を含むものは火を使えるようになるまで食べることはできなかったでしょう。
また、殆どの動物がビタミンCを自分で生成することができるのに人間にその能力が備わっていないのを見るとおそらくビタミンCはいつでも補給できる状況だったために退化したのか時代とともに淘汰されそういった個体が生き残ったのか…

上記2点をまとめると原始人の生活様式は動物や魚を狩り小腹が空いたらフルーツを食べるという食文化だったのではないでしょうか…

人が何を食べようが自由であるべきですが、菜食主義者が陥りやすいビタミンB12やオメガ3脂肪酸などが不足しないか心配でした。
私はこっそりと肉を食べておりましたが妻は何かを決めたら徹頭徹尾そこに打ち込む性格ですのでヴィーガンになると決めたら他の道に逸れることはないでしょう…
最初はヴィーガンの効果で肌が綺麗になったと言っていた妻も次第に肌がカサカサになっていったのですが、これは好転反応だとさらにヴィーガンに傾倒していきました。

私は普通に妻を説得しても聞く耳を持たないのは明らかなので妻を止める為に大好きな米を捨てて低炭水化物ダイエットをすることにしました…同じ家にいながら肉を食べまくる私を見ては肉の誘惑に勝てないだろうと踏んだのです…

妻に「僕は最近太ったから低炭水化物ダイエットを始めるよ」と伝えると「まぁ…肉だけを食べるなど非人道的で前時代的な行為ですね」と言われたのですが私には勝算がありました…

妻が豆を食べている横で換気扇も付けずにステーキを焼いて肉の匂いを充満させます…普段ならすぐに換気扇をつけろという妻も私の戦略に気づいたのかあえて注意してきません…「ああ、獣の臭い匂いがしますね…ファブリーズしておいていただけますか??」と一言言い残し出ていきました…

たまに私が食べようとしていた肉がソイミートにすり替えられるというトラップに引っかかりましたが、この肉と野菜をかけた戦いはほぼ私の全勝という形でした…

しかし…ついに妻は奥の手を使ってきたのです…毎食シリアルだとか鳥の餌のようなものを主食にしていた妻は米の上に何かを乗せる丼物の食事に変えてきたのです…
その日は麻婆豆腐でした…植物性のものしか使っていないといえど豆腐と胡麻油とあんかけがご飯にかかる…美味しいことは間違いありません…私はもう妻の栄養不足のこと忘れてしまい…怒りに変わっておりました。

どうしても麻婆丼が食べたくて「君の料理に肉が入っていないか確かめさせてもらえないか??」と餡の部分だけを食べたのですが…その強烈な旨味がご飯を吸い寄せようとするのです…私の心のダムは決壊寸前…白いご飯への渇望…私は奇声を上げて仕事に戻りました…
その日は何を書いても米に関わる作品ばかり書いておりました…

米という戦略をとってきた妻でしたがそれは諸刃の剣でもありました…私も反撃とばかりに妻と私の間に七輪を置いて鰻の蒲焼の煙が妻の方へ行くように団扇を扇いでいると今度はご飯の上に鰻を乗せたいという欲望に耐え切れなくなったのか妻が奇声を上げて出ていきました…

ある日、私が肉を焼いていると隣でヴィーガン食を用意していた妻の肩が当たり手元が狂い妻の用意していたどんぶり飯に肉がのってしまいました…「何をするんだよ…」
と言いつつ偶然に完成された焼き肉丼に私は目が釘付けとなりました…

艶めく白い大地の上を侵食していく肉汁…それはまさしく食物連鎖…ひとつのどんぶりが地球をそのまま表現しているようでした…私はもう思考が停止してしまい素手で焼き肉丼に貪りつきました…
おそらく妻も、もう限界だったのでしょう菜箸を私と丼の間に差し込み焼き肉丼の取り合いとなりました…

2人で1つのどんぶりを食べ切ると私は妻と顔を見合わせてお互い頬を赤らめて…熱い抱擁を交わしました…
「私たちは何かに挑戦しているつもりだったけれど…これは性質の違うものが混じり合う宇宙の妙…先祖たちが積み上げてきた文化への背徳だったのかもしれないね…」というと「ああ…今は何も言わずにこのままでいましょう…」と言いました…
まるで2人が真理を得て宇宙になったかのような不思議な充足感に半日ほど妻と私は抱きしめ合ったのでした…

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