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電気あんま

私には馴染みのあん摩さんの「トメさん」がいたのですが…最近はあまり見かけなくなりました。
最近、根を詰めて書いていたので腰が痛くなり横になったところで小笛の音が聞こえました。
「あ、トメさんだ!!」と思うが早いか玄関に言ってトメさんを呼び止めました。
トメさんは江戸時代から続く一子相伝のあん摩師でトメさんの小笛は江戸時代から代々受け継がれているとのことです。
「トメさん、最近来ないじゃないか…」とトメさんに聞くと最近めっきりお客さんが減ったとのこと…
GHQがあん摩は非科学的であり不潔だとあん摩を廃止しようとした時もあん摩師達ほ60日間に及ぶ猛抗議を行いあん摩に関する法律ができたと聞いております。
そんな、あん摩の歴史ですがトメさん曰く…「ついにあん摩の歴史は終わってしまうかも知れないねぇ…」といつになく弱気でした…「トメさんらしくないじゃないか…いつも元気だけが取り柄なのに…恋でもしたのかい??」とからかうと「私はもう今年で60だよ…それより娘が心配だよ…」と言いました。
トメさんのあん摩は絶品でトメさんが腰を平手で打つとすっと痛みが消えていくのです…仕上げはお尻と腰をゆすり振動が腰の芯に効いていきます。
「ああ、これでいい作品ができそうだよ!また来ておくれよ!」というとトメさんは「私は今…研究をしているのだけど…どうしてもこの機械には勝てないんだよ…もう、あん摩師はいなくなるだろうねぇ…」と言って取り出したのは鼠色のコケシのような形をした電動マッサージ機でした。
「トメさんバカ言っちゃいけないよ…こんな機会がトメさんの腕を越えるなんて…」そう言ってその電動マッサージ機を返すとトメさんはコードを繋ぎスイッチを入れるとおもむろに私の腰に当ててきました…
「正直な感想を言っておくれ…私の手とどちらが…??」と聞いてきましたが電動マッサージ機のほうはトメさんと比べると強い振動があるのですが表面の摩擦だけで気持ち良くはあるのですが長く当てると少し肌が痺れるような感覚でした。
思った通りを伝えたのですがトメさんは「ああ…やはりあん摩のことはあん摩師にしかわからないんだろうねぇ…」と言ってバッグに電動マッサージ機をしまうと帰って行ってしまいました。
3ヶ月ほど経って娘のチヨが小笛を吹きながら家の前を思ったので「トメさんはまだ研究しているのかい??」と聞くとチヨは顔色を変えて…「すみません、私は今…何とかして平常心を保っているのです…あのマシンを思い出させるのはやめてください…」と言いました…私には何のことかサッパリ分かりませんでした…
それから数ヶ月…この辺ではあん摩師が来ることはパッタリとなくなりました。
風の噂ではトメさんの家にあん摩師を集めて電動マッサージ機を越える為の研究が毎日行われているとのこと…
私はそれからというもの…腰が痛くなると「機械がトメさんを越えることなんてできないよ…」と呟きながら自分で腰をさすりトメさんのあん摩を思い出すのでした…

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