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あなたとスノーボードに行きたかった

今年は、雪が降らない。暖冬である。

もしあの冬にも、雪が降らなかったら、

わたしたちは別れずに済んだだろうか?

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大学4年生の秋、健太くん(仮名)という男の子と仲良くなった。

彼は2歳年下だけど、高卒で自衛隊で働いていた。

毎日の訓練で引き締まったスタイルのいい身体と、さわやかな笑顔が特徴の好青年である。

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卒論がどうしても進まず「しんどい…」とぼやくと

「こねぴぃならできるよー!頭いいもん!」

と返してくれる、天使のようなポジティブ男子である。

わたしは、そんな健太くんのことが大好きで、彼女にしてくれないかなぁと思っていた。

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大学4年の9月〜11月。
彼はわたしと2週間に1度ほどデートしていた。

彼とLINEしていると、毎回のように

「早く雪降らないかなぁ・・・」

と言う。

9月から雪の話をしてくる人って、そうそういないと思うんだけど。

「こねぴぃ、スノーボードできる?」

と聞かれた。

もちろん答えはNOである。

わたしは運動音痴なので、スポーツをするとロクなことがない。

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雪がなんだってんだ。

運転の邪魔だし、寒いし、あと何かいいところある?

こんなに雪を楽しみにしている人、初めて見た。

雪ではしゃぐ犬みたいで、かわいい。!

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12月初旬。

北陸には、とうとう雪が降った。

クリスマスよりも先に雪が降ってしまったのだ。

健太くんがスノーボード好きといっても、せいぜい土日のどこかに行く程度だろうと思っていた。

しかし、予想以上に、彼はスノーボードに出かける。

どれだけデートに誘おうとも、

「12月1日と2日と8日と9日と15日と16日と22日と23日と24日と29日はスノーボードに行くからダメ」

みたいな状態である。

どうやら彼は、ゲレンデのシーズンパスを持っており、

吹雪が来ようとなんだろうと、スノボに行きたいのである。

ありえない・・・休日すべてスノボかよ・・・!?

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健太くんの言い分では

「スノボは冬しかできないから、後悔のないように滑らなきゃ!」

「春夏秋のぶんまで滑らないとね!」

と、意気揚々としていた。

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しかし、わたしには策があった!!!!

「わたしがスノーボードを始めればいいんだ!!!!」と!

そうしたら、健太くんにスノボを教えてもらえる!

毎週会える〜〜!たのしい〜〜!

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わたしは、健太くんに内緒でスノボを始めることにした。

なぜなら、健太くんに「わたしもスノボやる!」と宣言したら、重い女だと思われそうだったからだ。

そしてわたしは、バイト代を10万ぐらい使い、

まっしろなゲレンデに映える、おしゃれなウェアとボード。
そのほかグッズ一式を揃えた。

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そんなにすぐにスノボ用品を揃えず、

「レンタルにすればいいじゃない・・・!」

と言う人は多い。

しかし、レンタルのものは、ボロいし、かわいくない場合も多い。

ゲレンデで女を連れて行くなら

そりゃー、かわいいほうであろう。w

そう思っていた。

スノボは重装備なので、顔の造形のかわいさよりも、

ウェアの雰囲気が可愛さを左右するのである。

かわいいニット帽に大きいゴーグルを付けていると小顔に見える。

白いゲレンデは、天然のレフ板となって、笑顔を綺麗に見せる〜!

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健太くんに、意を決して、LINEをした。

「健太くん!わたしもスノボに行きたい!」

「スノボやったことないんでしょ? 
まったくの初心者はちょっとなぁ・・・

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そう。健太くんはガチ勢なのである。

Youtubeで、スノボでジャンプしてぐるんぐるんと回転している動画を見ているほど。
まぁ上級者である。

たしかに、わたしが健太くんの立場なら
足手まといになりそうな女など連れて行きたくはない・・・

わたしのように、スノボでの曲がり方や止まり方すら知らない初心者は、はっきりいって邪魔なのだろう。

もしドラゴンボールなら

「餃子は置いてきた」案件である。

つらい・・・さみしい・・・

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しかし、わたしは、「そんなぁ・・・」と引き下がるような女ではない。

なにせ、10万円も投資したのだ。スノボ用品に!

健太くんが、初心者のわたしとスノボに行くのがイヤだというのなら

わたしがスノーボード教室にいって、脱初心者すればいいのだ!

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わたしは、車を運転し、ひとりでスキー場へいった。

そのスキー場では、毎日スノボ教室をやっている。
2時間、3500円で、まぁまぁ良心的なお値段で教えてもらえるのである!

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そしてレッスンが始まった。

なんと、教えてくれるのはスクールの校長先生。

ほかに客がいなかったので、マンツーマンレッスンである。

ラッキー!

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はじめてわたしはスノボの靴を履き、板に乗って、傾斜を滑った。

先生が、「ゆっくりおいで〜〜〜」と言う。

3秒後、盛大に転んだ。

痛い・・・・・・・・・・・(泣)

(え、こんなの、2時間もレッスンするん!??無理じゃね?)

と思った。だってもう痛いし、立ち上がれないよ〜〜〜〜。

む〜〜〜〜り〜〜〜〜〜〜!

と、心がポキッと折れた。

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先生は「曲がり方」と「止まり方」を教えてくれた。

マジで止まれない場合は、

とにかく「尻もちをついて転べ」と教えてくれた。

そう。スノボ初心者は、とにかく転ぶ・・・。

その姿、決して、かわいいとは…いえない…

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わたしは2時間のレッスンをマックスまで使い切ることができなかった。

休憩挟みつつ、1時間30分でギブアップである。

身体が痛すぎる。これはとんでもないスポーツだ。

Youtubeで「初心者でもできるスノボ!」みたいなのも見たけど

運動神経がいい人しか、そうはならない・・・

体幹がしっかりしてない奴はやめとけ案件である。

レッスンしてもらったはいいものの、
リフト1本ぶんを滑って戻ってくるまで、1時間かかるような感じ。

収穫は、「転べば止まる」を学んだ程度。

そりゃあ、健太くんも一緒に行きたくないわな・・・

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わたしは、時間を見つけては、ひとりでスノボに行くようになった。

人が多いゲレンデだと、ぶつかったりして危険なので、

平日に人のいないスキー場を探し出し、マイペースに滑っていた。

あまりに下手なので、リフト回数券10回(¥2600)を1〜2回だけ消費し、

疲れてそのまま帰ってくるような感じ。

ちなみに、リフトから上手に降りれないので、いつも尻餅をついて滑って降りているような有様である。

もうウェアが可愛いとか関係ない。

かなり滑稽である。

けっきょく、わたしの運動神経では、
健太くんの足手まといにならないように滑れるレベルにすら、ならなかった。

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スノボは過酷なスポーツだ。

体幹があって器用な人しかうまくできないのである。

健太くんはやさしい顔をしつつも

わたしがスノボを滑れるようにならないことを見抜いていたのだ。

爽やかそうに見えて残酷な人・・・

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3月になった。

雪は溶け、スノボができなくなって暇になった健太くんは「遊ぼうよ!」と言ってくれた。

しかし、春夏秋は遊んでくれて、冬は遊んでくれない男なんて。

こっちから願い下げである。わたしは春夏秋の暇つぶしかよ。

わたしは大学を卒業し、就職のため金沢に引っ越し、

健太くんとは距離的にもなかなか会いづらくなった。

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スノボウェアを着たら、小顔で美肌に見えるとしか思っていなかったわたし。

ボードでジャンプして、技を決める爽快感を、春夏秋、ずっと待ちわびていた彼。

見ている世界が違いすぎた。

彼は「冬」のために、生きていた。

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そういうわけで、

「恋人や夫にするなら、無趣味な男がベター」

という教訓を得たわたし。

(そもそも、健太くんは、おそらくそういう意図もあり、積極的に彼女を作ろうとはしていなかったのだ。)

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好きな人と仲良くなるためには

「彼の趣味に興味をもって、教えてもらって仲良くなる!」

という、ありがちな恋愛本の知識から、スノーボードを始めてみたけれど

どんな趣味でも

ガチ勢と初心者の断絶は大きい。

下心満載の男なら「スノボ!?教えてあげるよ!」と、言ってくれるが、

スノボガチ勢は、基本的に、ベタ惚れした女にしか、スノボを教えてくれない。

足手まといなので、同行すら嫌がる場合もある。

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わたしは健太くんと離れて、まったく後悔がなかった。

春夏秋の健太くんは大好きだったけど、冬の健太くんはムカつく。

わたしのことを、ちっとも考えてくれない!

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なにかに夢中になっている人は、かっこいいと思ってた。

本当にそうだろうか。

今のわたしは、懐疑的である。

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この教訓を生かして、わたしは、常ににわたしのことを最優先に考えてくれる人と結婚したいなと思っていた。

しかし、結局のところ

わたしの旦那は2週間に1度、「麻雀にいってきま〜〜〜〜す!」

と言って、一日中いないことも多い。

ムカつく。

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昔のわたしなら、ずっと時計をみて、半泣きになりながら、過ごしていた。

「いつ帰るんだろう〜。もしかして浮気!??」

頭にうかぶ、あらゆる心配事を、もやもやと抱えながら待っていた。

***

しかし、やっと!28歳にして!

一人だとさみしくて死んじゃう病を乗り越えたんですよ。

まぁ・・・その趣味は、「育児」っていうんですけどね。(半泣き)

育児グッズを買ったり、映画や書籍代に使わせていただきます!noteに書くネタ代にさせてください!