♯29 耳管開放症という障害。

外の音

はっきりと覚えている急激な音の変化。

東日本大地震の話も薄れてきた頃のバイト中、丁度店も終わって締め作業中に猛烈な痒み、何かが当たって痒い感覚。

頭を思い切り横に振ったときに大きな音が聞こえて自分の声がいきなり耳に響いた。

この感覚は何年も味わってきたし知っている、息が呼吸が大きく聞こえる、でも今はチューブが入っているし鼓膜は無い。

音が響くはずが無いのに大きく聞こえる。

正直に言うともうパニックだった。
完全にトラウマになっているこの症状。

自分の呼吸、心拍、髪が耳に擦れる音、一瞬の瞬きさえ聞こえてくる。
少しの声量でさえ私にはうるさいし、心配して声をかけてくれる店長の声さえ煩わしい材料なわけで。

あぁもうこれはきっとチューブが取れてしまっている。
じゃあまたつけて貰えばいい、けど出来るのか、鼓膜が無いうちに何とかしなきゃいけない、この感覚のまま動けない、話せない、あの先生が何とかしてくれる、明日も学校はあるしバイトもある、どうやって母に話そうか、私が耳が気になってしまって痒かったから、頭を振ったから、声がうるさい、息もうるさくて。

どうやって帰ったのかなんてのはもう覚えていないけれど、すぐに先生のところに行った結果、言われたのはチューブが抜けていること、そして穴がもう塞がりかけていること。

それによってまた声が響いていること。

ただなぜここまで声が響いているのか、呼吸がうるさくなってしまっているのか、水も溜まっていないのにまだ完全には穴は塞がっていないのに。
確実な原因はやはり分からなかった。


『今現段階では鼓膜の内側に水が溜まって無いからチューブをまた入れるってよりもう少しだけ様子をみようか、辛いだろうけど』


また耳抜き生活、この日からずっと耳抜き、話してなくても呼吸をしているだけで動く鼓膜の感覚、水が溜まってる所見があればまずは抗生物質。

正直医者がこれを見たら完全にアウトな飲み方もした。

処方薬を二倍量飲み続けたら水が抜けて楽になる気がして飲んだり、抗生物質を飲んでる間は確かに楽になるから違う病院に梯子してもらったり、体が辛いと言うよりもう心がしんどくて、文字通り息するのに必死だった。

私は常にしなければならない耳抜きのために口を手で大きく覆って生活するようになった。



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