【ショートショート】カミングアウトコンビニ#毎週ショートショートnote
財布の中は89円。仕方ない。カミングアウトするか。
俺は周囲を見回し、証明写真機風のボックスに入る。
カーテンを閉め、丸椅子に座る。スリープ状態だったATMのような機械に光が灯る。
ディスプレイに触ると「カミングアウトをどうぞ」の表示になる。
マイクに向かって、咳払いをひとつ。
「俺、左利きなんだ」
ディスプレイに「照合中……」の文字が現れる。やがて100円玉が出てきた。まあこんなもんか。
「初恋の相手は、小学校のとき同じクラスだった相川詩織ちゃん」
「照合中……」の文字が「カミングアウト済」に切り替わる。何をカミングアウトしてないのかもう覚えてない。
「女性の足裏の匂いが好き」800円。
「部長愛用のマグカップを割ったの、俺」10200円。
「飯野が言ってた早川の悪口を本人にチクった」2250円。
「机に放置してあった大野の財布から1万円くすねた」4400円。
突然、入口のカーテンが開く。
「さっきの話、詳しく教えろよ」
逆光の中、人影が低く呟いた。
(400字)
前回に引き続き、たらはかに(田原にか)様の企画に乗っかっています。
今回のテーマは「カミングアウト」「コンビニ」。
一度カミングアウトすると後戻りができません。
秘密は墓場まで持っていきましょう。
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