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【ショートショート】半分ろうそく#毎週ショートショートnote

「ロウソクを一本くださいな」

 ロウソク売りは棚のロウソクを一本取ると、少女に手渡した。

「こんにちは、娘さん。昨日も一昨日も、毎日毎日買いに来るね。どうして毎日ロウソクがいるんだい」

 少女はロウソクを痩せた手で大事そうに包み込む。

「毎晩、窓辺にロウソクを灯しているの。お父様が迷わずお家に帰ってこられるように」

 ロウソク売りは少女の家を思い起こした。ここからさらに上った山頂のお家だ。少女の父親は二年前に出兵したと聞いている。そしてそれが負け戦だったとも。

「そうかい。でも娘さん。このロウソクは一晩じゃ燃え尽きないよ」

「ええ、そうよ。でも二晩には足りないの。途中で火が消えてしまってはお父様が帰ってこれないわ」

「毎日買っていてはバカにならないだろう」

「街で私の朝食のパンを売って、ロウソクのお代に替えているから大丈夫よ」

 ロウソク売りは少女の骸骨のような指先を眺めて言った。

「じゃあ娘さん。その半分ロウソクを持っておいで、半分ロウソクを二つで、一本の長いロウソクと交換してあげよう」

 ロウソク売りは、半分ロウソクを窓辺に置く。娘さんのお父様の魂がこの店の前を通り、山の上のお家へ辿りつけるよう、祈るように灯した。


(500字)



前回に引き続き、たらはかに(田原にか)様の企画に乗っかっています。


今回のテーマは「半分」「ろうそく」。

ロウソクと聞いて最初に浮かんだのが小川未明の「赤い蝋燭と人魚」。なんか童話っぽいのが良いなぁと思ったら410字に収まりませんでした。無念。

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