【雑記/紹介/応援】葬送について考えるミステリー。蒼に溶ける #創作大賞感想
前々から思っていたけど、アイコンが動物の方は実力者が多いと思う。以前紹介したパグの豆島圭さんは、2年前に初執筆、初小説、初公募でいきなり一次予選通過という度肝(=鶏レバー)を抜く経歴ですが、今回の柴犬もすげえ犬です。
6年前から執筆を始め、第31回 やまなし文学賞 佳作 からの新聞連載・書籍化を筆頭に、数々の受賞歴を誇るお方です。全部紹介してると大変だから、詳しくはプロフィールをご覧ください。
ショートショートから長編までと守備範囲の広い秋しばさんは、公募とnoteだけでなくエブリスタでもご活躍の様子です。量・質ともに鬼クラス。
で、今回の応募作はこちら。
すでにタイトルがかっちょいいミステリー小説です。
30年先の未来という、わりとリアルに想像できる設定。この時代の日本では、火葬が少なく水火葬が主流になっています。ちなみに水火葬というのは最近徐々に出てきた本当にある方法。ってことをこの作品で知りました。
上の記事をご覧いただくとなんとなくわかるかと思いますが、アルカリ加水分解で体を溶かして最終さらさらの骨粉になるそうです。ハワイやアフリカだけでなく、イギリス・アメリカでも増えてきているそうで、ああ時代の変化だなぁとしみじみ思う。
キリスト教系は基本、火葬ではなく土葬です。いずれ死者が復活するタイミングがあるんですが、その時に体がないと困るから。でもそういう宗教的価値観って世界的にも薄れてきているのかもしれません。
日本も同じくですね。今現在ある、墓守問題。墓土地は高いし田舎の墓は放置しがちだし法事大変だし嫁入り先の墓に入りたくないし、最近はマンションタイプなんかも一般的になってきました。
日本はほとんど仏教で、技術が備わってからは火葬が一般的です。
仏教は、死んじゃったら生き様を採点され逝き先が決定する。そして、また生まれ変わるという思想。死んでから次生まれ変わるまでは結構長いし、その間何度も生きている人が法事をするわけだけど、その辺の思想は現代っ子には薄く、永大供養で済むならそれで、となる。
その意識がどんどん進めば、葬式はするけど寺とか墓は無くてもいい。海に還るとか素敵じゃん、というのが秋しばさんの描く2054年・日本。うーん、ありうる。
そしてそれが主流になりつつある時代に、火葬して墓に入るというのが富裕層の特権になっている。維持費と手間がかかるけれど、それは選ばれた方にしかできない特別な方法なのです。うーん、ありそう。
その特権階級に嫁いだ沙和子は、幼い頃に火事の経験があり水火葬を望むも、昭和感あふれる夫に一蹴される。
この夫の描き方が良いのです。いるんですよ、こういう人。たくさんいる。名前も挙げられる(別に恨みはないけど)。
読者は沙和子に感情移入して読むのだけど、この夫の話の仕方で、夫の考え方というか物事の発想の仕方がわかる。長男もそう。こいつもいる。名前も挙げられる(本当に恨みはないです)。
こういう人物の立体的な描き方はそうマネできるものではないと思いつつも、あわよくば技術を盗み取りたいと何度も読み返しました。
そして妻を失った後の夫の変化。この変わり様が個人的に好きです。
宗教好きとしては、亡くなった人に対する遺族の向き合い方を考えてしまう。いや、お話自体はそんな宗教チックな書き方はされていないけど、宗教的な考え方が希薄になっているからこそ考えさせられるな、と思う。
いつまでも手元にお骨を置いておくという人も実際にいる。いつまでも故人を忘れないという美談でもあるけど、それってずっと縛り付けてるんじゃないかとも思う。向こうに逝ってもらって、時々仏壇から通信するくらいがいいな、と思うのは仏教の価値観でしょうか。
大切な人が死ぬのも自分が死ぬのも、「死ぬ」ということは怖いことです。だからこそ死んだらどうなるのかを宗教に教えてもらい、怖さを和らげて人間は生きてきました。科学が進歩し、死ねばそこで終わり、というのは分かっているけどそれでも何らかの方法で死を弔う。
SDGsとかエコという観点で勧められる水火葬は、良いものなのだろうなと頭では理解しつつも、完全な科学信者にはなれない鳥としては30年後の未来を憂うのでした。
マガジンにまとめられているので、こちらからどうぞ。
31本という数字に腰が引けるかもしれませんが、読みだすとすぐです。
※あんまりお話について語ってなくてすみません。でもこの話の主軸は死者の弔い方だと思うの🐤
よろしければサポートをお願いします!サポートいただいた分は、クリエイティブでお返ししていきます。