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【ショートショート】海砂糖#シロクマ文芸部

「海砂糖……食べてみたいな」

 窓の外を見つめたまま、サナがぽつりとつぶやいた。ペラペラとしゃべりつづけていた俺は思わず固まる。その様子に慌てたようにサナが振り向いた。

「だって乙姫様が食べるんでしょう。きっと美味しいんだろうなって思って」

 いつも青白い顔でベッドに横になっているサナの顔が少しだけ赤くなる。そのことがすごく嬉しくて、俺は思わず立ち上がっていた。

「おう! そりゃあもう! 今度もっかいカメに会ってもらってくるよ!」

 飛び跳ねるように手を振り、病室を出た。サナの楽しそうな顔を思い出しニヤニヤが止まらない。

 家の帰り道の駄菓子屋に入ると、奥の部屋にいるばあちゃんに声をかけた。

「おや、シュンタロウ。今日もサナちゃんのとこからの帰りかい?」

 ばあちゃんは俺に良く冷えた麦茶を出してくれる。

「今日はどんな冒険だったね?」

 俺は学校の帰りにいつもサナのところに寄って、冒険譚を語って聞かせていた。最初は学校であった話とか、友達とサッカーをした話とかだったが、最近はいろんなウソも入っている。今日は、海に遊びに行ったときに竜宮城で働くカメにあった話だ。サナに語った話を、いつもこのばあちゃんにも語って聞かせる。

「ほぉ。海砂糖か。それは良いねぇ」

「なあ、ばあちゃん。海砂糖って売ってねぇの?」

 麦茶を飲み干したコップをドンと置くと、俺は身を乗り出してばあちゃんを見つめる。ばあちゃんはアゴをさすりながら呻ると、ああそうだ、とつぶやき、俺のすぐ横の棚を指さす。

「これ? あわだま?」

「そう。それだ。海の荒波を閉じ込めていてシュワシュワするからなぁ。明日はそれを持って行っておあげ」

 俺はサナのびっくりした顔を想像し思わずにやける。もういてもたってもいられない。ばあちゃんに礼を言うと、あわだまを握りしめて病院へ走り出す。乙姫とサナがあわだまで口の中をシュワシュワさせている様子を想像し、笑いながら走っていた。


(792字)



シロクマ文芸部に体験入部中です。

今回のテーマは「海砂糖」。
なんと毎週ショートショートの方が「塩人(しおんちゅ)」。偶然って不思議。不思議な偶然。


ときに「あわだま」ってご存知でしょうか。いわゆるソーダキャンディというやつで、飴の内側がシュワっとするやつです。


関係ないですが、ここのメーカーが出している「パインあめ」。小さい頃は真ん中から舐めて、舌先を通そうとしてました。できたことないけど。

さらにさらに関係ないですが、パインアメは笛にはならないらしいです。試したこともないけど。


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