何のためにタップをテイクオーバーするのか

今回の記事は飲み手として感じたことを思い起こして書き記すもの。まだ自分自身でタップテイクオーバーイベント*は開催したことなどない身なので、来たるべきその日に備えて、この意識を忘れることのないように、という意図である。
特定のブルワリーやお店、イベントを非難する意図は全くないことだけ先に記しておく。

*タップテイクオーバーとは、タップ(樽生ビールの注ぎ口)を、特定のブルワリーのビールがテイクオーバー(乗っ取る)することの表現で、クラフトビールバーなど、複数のビールタップを持つお店が、特定のブルワリーにフィーチャーしたイベントとして開催すること。

はじめに(この記事を書こうと思ったきっかけ)

以前別記事で投稿したが、オンラインでお酒の造り手とのイベント開催した。コロナ禍であること、少数でオンラインで行った、というような特異性も合間ってとても濃厚な会になったと思っている。
造り手の思いは一つ一つしっかりと伝えられていたし、飲み手からも直接なんでも造り手に疑問を投げかけられたり、お酒の評価を伝えられる機会でもあった。もちろん参加の濃度や満足度はそれぞれであったと思うが、造り手とのコミュニケーションの機会としては十分であったように思う。

コロナが収束し、通常にパブ営業ができるようになった際には、リアル店舗でも造り手をお招きする形でのタップテイクオーバーイベントは開催できるといいな、とは思っている。
でも、その際に今回のオンラインイベントで実現できたような濃密さは、同じように提供できるだろうか? リアルイベントでもそれを実現するにはどうしたらいいのだろうか?
待てよ、そもそも、自分は何のためにタップテイクオーバーイベントを開催したいのだろうか??
と思うに至ったのだ。

なぜタップテイクオーバーイベントは開催されているのか?

これまで飲み手として、様々なタップテイクオーバーイベントに参加してきた。だが改めて単純な疑問として今思っている。
クラフトビールバーの視点でもそうだし、ブルワリーの視点でもそうだ。

お店にとっては、そのイベントを開催することで集客に繋がるだろう。ブルワリーとの関係性を強化することにも繋がる。
ブルワリーにとっては、例えば10タップ持っているお店であれば、一度に10樽とかそれ以上の受注に繋がる。得意先への接待的な側面もあってイベントに顔出したりもされているのかもしれない。
それは分かる。
飲み手としても、イベントで盛り上がる雰囲気はとても楽しい。好きなブルワリーの人に会える機会にもなって嬉しい。
そして、みんなでビールを飲みながら楽しい時間を過ごせる。これはどの立場にとってもハッピーなことだ。

主な理由としてはこういったところだろうか?
誰にも「なぜタップテイクオーバーのイベントするんですか?」と聞いたことはないのでこれが合っているのかどうかもわからないただの想定ではあるが、開催のメリットとして十分ではあると思う。
そして、自身のオンラインイベントを開催して思うところは、ただ短期的な開催メリットではなく、イベントの後、すなわちお店やブルワリーに対するお客のエンゲージメント(深い関係性)への意識はどれ程あるのだろうか、と考える。

体験に基づく課題

自身が飲み手として参加した時のことを振り返ると、エンゲージメントへの意識の観点で、課題がない訳ではないな、と思った。その要素を書き記す。
が、これらはお店やブルワリーが悪いという訳ではなく、自分の参加の仕方やタイミングの悪さ、消極性などが起因していることは理解している。冒頭にも書いたが、特定のブルワリーやビアバー、イベントを非難する意図は全くない。自分が開催する際の心掛けのための、整理だ。

参加しても十分にブルワリーを知ることに繋がらない
お店の人はいつも通り美味しくビールを提供してくれ、複数種を一度に飲む、ということでそのブルワリーのことは知ることができる。しかし、それ以上にブルワリーに対しての理解を深められない、ということはあった。
・混雑のため、お店の人とのコミュニケーション機会はいつもより減ってしまう(深く説明してもらえない)
・せっかく来ているブルワーさんから、話を聞くことができなかった
(そもそもその機会がない、既存のファンに囲まれているなどで話しかけづらい、こちらから何を聞いていいか分からない などの理由により)
という状況だ。

ビールは美味しく、雰囲気や他のお客さんとの会話によって楽しい時間は過ごせることはできた。そうだったとしても、それだけだ。
イベント楽しかった、だけで終わったのだ。

ブルワリーとしては、せっかくのファン獲得機会を逸しているし、
お店としては、いつもより一人一人のお客への接客品質は落ちている、
という風にも解釈できるかもしれない。

タップテイクオーバー、だから行かない
上述の状況とも繋がるが、よく行く好きなお店が開催するイベントでも、特段関心・思い入れが深くないブルワリーであると、避けて別のお店を選択することもあった。それは自分が(特にその時において)、ビールを飲みながらゆったりとした時間を過ごす、お店の人との会話を楽しむ、ということを重視していたからでもある。
タップテイクオーバーにはそれらと逆のイメージを持っているのかもしれない。
結果としてイベント時には何が起こっているかと言うと、
・イベントの参加者は、既存のブルワリーファンが中心(お店にとってのお客とは別、の可能性も)

・そして、たまたま来店した新規客にとっては、普段と異なるお店の雰囲気が認識される
という状況が考えられる。

極端な話をすれば、だが、ブルワリーにとってはファン向けのイベントとして重要な意味を持つかもしれないが、お店にとっては、せっかく来てくれたブルワリーが本来の自分達のお客の満足には貢献してくれていない(そもそも来店していなければ当然。)ということもあるかもしれない。
お店にとっての新規客を得る、ということにも繋がっていないかもしれない。

これらはあくまでも穿った見方
これらはあくまであえての批判的な見方である。ここで書いたこととは逆に、イベントをきっかけにお店を知ったこともあれば、イベントによってブルワリーへの思い入れが増したことも何度もある。批判的な切り取り方をすることによって、より意義のあるイベント開催に繋がることを見出したい。

理想とするタップテイクオーバー

それらを踏まえて、自分は何を考えるか。
そもそも自分がPUBを開業するのは、クラフトビールやサイダーなどのお酒の楽しさを「伝えたい」、からだ。
造り手の思いを代弁し、自身の解釈や経験も加え、それこそをエンターテイメントにする。そうすることで新たにクラフトなお酒の世界に興味を持ちハマっていく人たちを増やし、「クラフト」なカルチャーの定着に貢献したい。(自分自身はその過程をただ楽しみたい)

理想のタップテイクオーバーを考えると、それはそのエンターテインメントの延長線上にありそうだ。いつもお店で目指すものに、特定の造り手へのフォーカスと造り手からのダイレクトなメッセージ、が加わるだけだ。

課題を踏まえると、イベント開催だからこそ「いつもの延長線」の実現に阻害が起きるということだろう。その阻害を解消するためには準備が必要で、以下などに意識・工夫が必要になりそうだ。
・イベント開催意図の造り手との共有
・それに合わせた集客
・プログラム設計
・当日の動きの意識(造り手もお店スタッフも)
・人ではフォローできない部分への手当て(各種資料や客同士での交流仕掛け等)

しっかりと造り手とPUBがタッグし、準備し、造り手とPUBの新たなファンの獲得と既存のファンがさらにファンになってくれるように取り組めることが、ある意味での理想だ。場合によっては、その当日の売上・受注量の追求とは相反することにはなるのかもしれないが。

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今はこんなことが書いていられるが、果たして自分が開催する際にはどうなっていることだろうか。
何も考えずともビールは楽しいものだ。イベントは参加するとそれだけで本当に楽しい。それだけでもいいとは思うのだけど、少なくとも自己満足・一人よがりにならないようには自戒を持っておきたい。

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