コロナ禍でパブが出来ること

新型コロナウイルス感染症の拡大と重なり、まだ本格オープンに至っていない私のお店CIDER SHACK。CIDER SHACKは「CIDER*&BEER PUB」として開業の予定です。
*CIDER(サイダー)とはリンゴのお酒です。

この状況において「PUB」は何ができるのか、考えたこととトライしてみたことがあるので残しておきます。

PUBは何を売っているのか?

コロナの蔓延に伴い、お客様に当たる個人には外出の自粛の要請、飲食店の方へは営業時間短縮や休業を余儀なくされるなどで、積極的にお客様を呼んで通常通り営業していくことが不可能となった。当然飲食店に商品を提供してきたお酒の造り手も飲食店からの注文がなくなることで、大きな打撃を受けている。
造り手は、家庭向けの通販を拡充するなどで、家飲み需要に向けた展開を充実させている。だが飲食店向けの落ち込みを補うのに十分とはいかはないだろう。
ビール好き達が支援のためと、ブルワリー通販を積極利用する、シェアする。非常にそのことも重要だ。造り手がいなければ、存続できなければ、この世界は成り立たない。

その一方で、飲食店がその支援の動きから飛ばされる、取り残されることに危機感も覚えた。

飲食店は何もできないのか。飲食店は来てもらうということでしか成り立てないビジネスなのか。僕が好きでこれまで通ったお店に自分はなぜ通っていたか、それを改めて見つめ直した。

自分は、PUBへ人に会いに行っている。 一つはそのお店の人。そして、そこに集う他のお客。
通う店には、信頼の置ける好きな人がいる。ビールのセレクトであったり、自分の興味のもつ話題を提供してくれたり。そんな人と会いたくなるから、足が向いてしまう。
そして、同じようにその人が好きで通っている他のお客。自然と会話が弾んでしまい、一人できたはずが、ついつい長居して話し込んでしまう、そんな時間が大好きだから、何度も通ってしまう。
自分はただ注がれたビールにお金を払っていない。そこにいる人がもたらしてくれる、興味・楽しさの方にお金を払っていた気がする。

では自分はお店で何を提供していきたいのか。
自分が美味しいと思うお酒、応援したいと思うお酒を紹介し、自分が経験してきたような興味関心を追求する先にあるエンターテインメントを提供したい。そして、自分達とただ話すことそのものを楽しんでもらいたい。 
これが一番自分らが提供していきたいもの。もちろん食事の提供やリラックスできる空間造りなども取り組んでいくところだが、CIDER SHACKの売りはそこではない。

これらは、お店という箱がないと提供できないのだろうか。
いや、それは必ずしも箱に縛られるものではなく、オンラインでも提供できるのではないだろうか。

トライしたこと

オンラインでの造り手とのコラボインベントを開催することにした。ただオンラインで繋ぐだけでなく、事前に参加者全員にお酒を届け、一緒に飲みながら開催する形。この時には、ただ造り手メンバーが参加するだけでなく、オンラインで醸造所見学もさせてもらうことに。
具体的には、今年自社工場の操業を開始したばかりのHARD CIDERの造り手Son of the Smithとのコラボ。長いというほどではないが以前からの縁があった造り手。仲良くさせて頂いていたし、このコロナ禍に新たなスタートを切っていることであったり、何より彼らのサイダーは面白くてうまい、イベントを共にするのは最高の相手だった。
各イベント開催の詳細としては以下のようになる。

お酒を届ける
イベント用には3本のボトルサイダーを選定。Son of the Smithからの2本と、自社で直輸入したイギリスのサイダー1本。
Son of the Smithからはイベント用にボトルを仕入れて、CIDER SHACKとして販売する形とした。
コロナ対策の一環として、飲食店向けに期限付きの酒販免許が交付されるようになったので、それを利用した形だ。
その期限付き酒販においては、デリバリーも範囲内ということになるので、お酒は直接届けて周った(レンタカーを利用した)。
遠方の参加希望者には直接届けることは困難、かつ、期限つ酒販の範囲は同一県内への販売に限られることになるため、別途個人から転売・配送してもらう形などで、店から直接販売していない形はとった。
あくまで、仕入たお酒を飲食店(小売店)が売る、形としているので、当然お店に利益が残るような売価で販売している。

イベントの開催
イベントの開催にはZoomを利用した。事前にお酒を届けている、ということで形としてはいわゆるオンライン飲み会と同じだ。
参加申し込みをし、お酒を買った人のみに限定しているので、以下のように開催をした。
・接続URLは開催日近くまで公開しない。パスワードも設定
・参加者には名前/ハンドルネームの設定をマストにして、参加者と照合できる人のみ接続を許可
全員が揃えば、同じお酒で乾杯しスタート。感想を言い合ったり、そのお酒の解説をしてもらったり、造り手の紹介をしたりなどなど。自由に質問などを受け付ける形で進行した。

このイベントにおけるお店側の役割
事前にSon of the Smithと明確に役割を話していた訳ではないが、このイベントをお店として開催する上では以下の役割を担う形となっていたと思う。①集客と開催管理
基本はCIDER SHACKとしてイベント主催し、参加者を募ることを担った。(もちろんSon of the SmithもSNSでシェアしてくれるなど協力はしてくれている。)僕らがここを担うことによって、Son of the Smithを初めて飲む、という参加者も結構いることとなった。集客に利用したツールは、お店および個人のSNSのみだ。
集客と同時に、配送やイベント開催のための参加者との連絡も我々で行った。
②イベントのファシリテーション(進行役)
オンラインで開催されるので実店舗に集まっているわけではないのだが、イベントの進行役は当然お店である我々が担う。
とは言ってもオンライ飲み会に近く、固まったプログラムを持っているわけではないので、進行役として大事になるのは以下だっと思う。
・ゆるい進行(次のお酒に移るタイミング)のコントロール
二杯目以降も開栓のタイミングはみんなで合わせる形としたので、話が盛り上がりながらも合間合間で次に移ることなどを仕切った。
・開催環境のコントロール
参加者の中でなかなか接続がうまくいかない人を裏でフォローしたり、ノイズの原因になっているところをミュートにしたり、参加者がストレスなく参加できるような環境を保てるようなコントロールを同時に行っていた。
・解釈のフォローや代弁
造り手から丁寧な説明などがあるが、参加者の背景知識にはバラつきがあるので、合間合間で理解が難しそうな話があると口を挟み補足コメントを入れることを意識した。
また、飲食店として飲み手として、造り手やお酒に対する評価を自らしっかり語る事も意識した。彼らのお酒の何が良いのか、素晴らしいのか、を理解できるように代弁することを意識した。
・雰囲気づくり
参加者が積極的に質問をしやすいようにであったり、また、単純に楽しいと思ってもらえるような雰囲気づくりは当然意識した。

主にはこの2点だったと思う。これらがある程度提供できていないと、お店がイベントを主催する意味は薄くなるだろう。
あとは、自分たちの直輸入サイダーも提供していたので、今回は自らがコンテンツの提供者でもあった。

イベントの効果と、他のPUBでの開催

やってみた結果として、濃いファンミーティングのような効果があったと思う。コロナ禍でのオンライン開催ということで、実店舗でのタップテイクオーバーイベントに比べても特別体験として印象に残ってくれるかもしれないと思っている。これは参加者もそうだし、お店、造り手側もそう感じているのではないかと思う。
結果、造り手にとっては継続的な購買が期待できるファンの獲得に繋がるし、お店側は面白いイベント機会・お酒を提供してくれるというイメージに繋がるかもしれない。
(Son of the Smithの場合、直近で帰る通販等がないためすぐの売上には繋がらなかったが、実際に購買の意向は参加者から聞いている。)
単発のイベントの売上・利益としては大きくは見込めないが、ある種のイベントの「濃さ」がもたらす長期的なファン獲得が期待効果だと考える。

CIDER SHACKはまだ実オープンができていないPUBなので、既存店舗であればより効果的にこうしたイベントは開催できるはずだ。
・常連客を掴んでいるため、集客や雰囲気づくりがしやすい
・近隣の常連客が多ければお酒を届けることも容易
・造り手との繋がりが豊富
開催した自分達が非常に楽しいイベントだったので、他のPUBでも開催してみたらいいと思う。

最後に

コロナ禍において、PUB(飲食店)はなんとか生き残ることに必死であり不安な日々を過ごしていることと思う。自粛の最中に、自分達の存在意義を疑問視してしまうこともあるかもしれない。
今回共有したイベントは、これ自体が危機的状況にある飲食店を救うことにあるものではないが、少なくとも自分達が楽しいひと時を過ごせることにはなり、また、自分達の意義を感じられる機会になった。小さなことかもしれないが、今の状況においては重要なことだと思う。
このイベントを通じ、これまで開催されていたタップテイクオーバーイベント等に対する反省・改善にも思いを馳せるに至った。(それについてはまたま別途とめてみたい。)
自己肯定を保ちつつ、まずはサバイブ、そして来たるAfterコロナ、もしくはwithコロナの時代におけるPUBの価値を考え続け実践し続けたい。





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