確信に基づくささやかな堕落
短い時間の長い瞬間
9話 [確信に基づくささやかな堕落]
小春日和っていうのだろうか、空は晴れわたり温かい空気がオフィス街を包んでいた。
自転車通勤をする者にとっては好都合な気候ではあるが、剣志の心の中は真冬の嵐といったところだった。
昨夜、綾乃とのデートの後にかかってきた電話は酔っ払ってグダグダになった美涼からだった。周りの囃し立てるような男女の声の中で美涼は舌が回らない調子で言った。
「剣志、頼みがあんの。お金貸してくれない?」
「いきなり何言ってんの。酔っ払ってんの?